激化する尖閣海中戦。そうりゅう型に続く海自潜水艦の新たな切り札「たいげい型」進水で、覇権を握るのは?

艦名を出さないそうりゅう型潜水艦が出港していく(瀬戸内海・呉基地にて)

11月28日、フォトジャーナリストの柿谷哲也氏は江田島市沖にいた。海自のそうりゅう型潜水艦2番艦「うんりゅう」が、ハワイで行なわれていた訓練から海上自衛隊・呉基地に戻ってくるとの情報が入ったからだ。

「海自潜水艦の行動予定を正確に掴むのは難しいです。うんりゅうは、ハワイ・カウアイ島沖にあるPMRF太平洋ミサイルレンジ施設に、89式魚雷、もしくは開発中の18式新魚雷の試射に行ったのではないかと推測しています。

魚雷の試射は日本近海の硫黄島付近でもできますが、命中までの航跡を標定するため等の海底センサーなどの施設がありません。しかし、ハワイにはそれがあるのです。

89式魚雷には、浅い海域に潜む潜水艦に対して有効なセンサー、また、海底に着底している敵潜水艦を探すソナーが備わっていますが、18式新魚雷は、この性能をさらに上げた可能性があります」(柿谷氏)

しかし、うんりゅうの姿を撮影するため待機していた柿谷氏の前に現れたのは、訓練帰りのうんりゅうではなく、これからまさに出動する、別のそうりゅう型潜水艦だった。

「艦名が分からないようにして、出港するので実任務かもしれません。行き先は南西方面と推測しています。海自は潜水艦の出入港をパターン化せず、ランダムに出入港させる。そうとう気をつかっているんです」(柿谷氏)

尖閣を含む南西方面などで、海自は今日も中国潜水艦との熾烈な戦いを繰り広げている。日本の海自だけではない。東、南シナ海の周辺国では今、潜水艦を巡る争いが激化しているのだ。

ここに写っているサブマリナー(潜水艦乗組員)たちが、今日も海中の最前線で戦い、日本を守っている

12月3日には、台湾で初の国産潜水艦の着工式典が開催された。第二次世界大戦時建造の米国製潜水艦では中国潜水艦には太刀打ちできないためだ。また、南シナ海で中国の相次ぐ人工島建設に困っているフィリピンは、フランスから潜水艦を導入する可能性が高まった。

そして海自は10月14日、最新型3000t潜水艦のたいげい型潜水艦1番艦「たいげい」を、三菱重工業神戸造船所で進水させた。

「大きな鯨=大鯨(たいげい)」に由来するこの最新型潜水艦の特徴を、今まで日米豪の潜水艦20隻に乗艦取材の経験がある柿谷氏はこう説明する。

「たいげいは、そうりゅう型11番艦『おうりゅう』から採用された蓄電と放電の効率がよいリチウムイオン電池と、シュノーケルによる吸排気で発電できる新システムにより長期潜水行動が可能になりました。さらに、敵艦を探知するためのセンサー(ソナーシステム)が新開発により開口拡大し、探知能力が格段に向上しています。

特筆すべきは、このたいげいから、艦内の男女の動線が整理され、女性隊員が安心して乗艦できるようになりました。

また、そうりゅう型から採用されたX舵の採用で水中での運動性が高まり、海底に着底する時でも舵が痛まない。『X舵と十字舵で大きく違うのは操作性で、少ない操作で細かな動きが出来る』と乗員に取材したときに言っていました」

南西諸島東側の西太平洋には最深部7000mの海溝があるが、西側の尖閣諸島のある東シナ海の平均深度は180m。海自潜水艦隊の主戦場である浅海の東シナ海に、そうりゅう型潜水艦は最適だ。

呉基地に出動待機する最新鋭X型舵が特徴的なそうりゅう型潜水艦。AIP式で長期の潜水行動が可能。左から三番目がリチウムイオン電池搭載の11番艦おうりゅう

「かつて、私が乗艦取材した潜水艦のある艦長は、『日本は戦略兵器を持っていませんが、潜水艦は唯一、戦略兵器に近い性格の装備です』と言っていました。

潜水艦は実は最強の海軍兵器で、究極のステルス艦です。探知は難しく、魚雷一発で空母、揚陸艦などのハイバリューユニットを無能化できます。なので、敵艦隊はその海域に潜水艦が一隻でもいると入って来ません。その海域にいるかいないかをあやふやにするのが、海自潜水艦部隊のコンセプトです」(柿谷氏)

陸戦ならば、凄腕の狙撃手が一個歩兵大隊を足止めできるのと同じだ。狙撃手であり、忍者であり、切り札となるのが海自の潜水艦部隊。有事のとき、どう戦うのかをシミュレーションしてみよう。

偵察衛星、無線傍受、サイバー情報戦などで得たインテリジェンス情報から、中国海軍が尖閣奪取必至と判断。中国沿岸基地では海軍の出動準備がなされたとの情報が入った。

南西諸島各港に前方配備されたFFM2くまのクラスが、数隻全力で尖閣北方海域に出撃。そこで、左舷後方ハッチから機雷をばら撒くと、今度は全速で南下し、掃海母艦と合流。海自のFFM艦隊と掃海母艦が尖閣付近に機雷原を作り、南西諸島各海峡を機雷封鎖する。

空母いずもとイージス艦まやの機動艦隊が南西諸島東側海域に入ったとき、そうりゅう型潜水艦、たいげい型潜水艦は青島、上海の軍港と南西諸島の間に潜んで、中国空母艦隊を牽制する。

「現在、中国空母は対潜哨戒機を持たず、艦載機J15も対潜爆弾を持っていません。護衛しているフリゲート艦たちの対潜能力も低いので、中国空母近くに海自潜水艦が行ければ、確実に撃沈可能です。

海上自衛隊は長年、ソ連潜水艦と戦って来て、そのレベルは恐ろしいほど高い。その経験を対中潜水艦戦に投入していますから、浅海に潜む音の大きい中国潜水艦はそうりゅう型搭載の18式魚雷で撃沈は容易です」(柿谷氏)

呉基地に集合した海自の主力艦。手前の潜水艦2隻が、そうりゅう型しょうりゅう(左)、そうりゅう型おうりゅう(右)。後方左の艦番号179が最新鋭イージス艦まや。おうりゅうの右上にマストが見えるのが、将来F35Bを搭載する空母いずも型かが。写真右の艦番号229が、FFMに移行する旧型艦のあぶくま型護衛艦あぶくま。もしここにFFM2くまのがいれば、尖閣有事の際に出撃する海自艦隊の全艦艇となる

今は、海自の方が戦闘力は高い。海中戦は日本が有利だ。そこに18式新魚雷を搭載した、たいげい型が投入されれば盤石にも思えるが......。

「中国海軍は六隻の093型潜水艦に静粛性を高めた改造を施し、さらに現在、新型潜水艦095型を建造中です。この両型は原子力潜水艦で、海中での行動期間は海自のそうりゅう型、たいげい型をはるかに上回っています。

中国海軍は、これまで優位だった海自潜水艦戦略に大きく迫っています。日本の潜水艦や対戦能力が中国を上回っている現状を、いつまで保てるか? 喫緊の課題です」(柿谷氏)

最新潜水艦たいげいには、海自で初の女性潜水艦乗員5名が乗船する。大和撫子が日本の海を守るのだ。柿谷氏のファインダーの先の青空に、虹が架かった。

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撮影/柿谷哲也 文/小峯隆生

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