実家は魚屋なのに焼肉の求道者となった“肉バカ”。本当にうまい牛肉と霜降りの正体とは…

実家は魚屋なのに焼肉の求道者となった“肉バカ”。本当にうまい牛肉と霜降りの正体とは…

魚屋の長男に生まれながら、子どもの頃からの焼肉好きが高じ、自らの「焼肉道」に邁進する小池克臣氏

数ある「肉」にまつわる本の決定版ともいうべき1冊が登場した。その名も「肉バカ。」だ。

魚屋の長男に生まれながら、子どもの頃からの焼肉好きが高じ、自らの「焼肉道」に邁進する著者・小池克臣(かつおみ)氏に話を聞いた。

当初は小池氏がこだわる「和牛の魅力」や「美味しい食べ方」を伺おうと思って臨んだインタビューだったが、話が進むうちに日本の焼肉事情、ひいては牛肉の未来にまで話は及んだ。

−そもそも、小池さんが肉にはまったきっかけは?

小池 実家は魚屋なんですよ。だから日常的にテーブルにのるのは魚。カレーでも餃子でも、魚は欠かさずありました。それで我が家には月に1回、外食の日がありまして、そこで焼肉に出会うんですね。初めてカルビを食べた時の口の中に広がる脂の旨みやタレの味、舌に伝わってくる熱…忘れられません。それまで食べてきたものとは全く違う感動があったんです。それが小学校低学年の時ですね。

−それが原体験なわけですね。そして自分で稼ぐようになって…?

小池 大学生になって、アルバイトで稼いだお金でまず行ったのはやっぱり焼肉でした。もうね、自分で払うんだから誰にも文句は言わせない、と。普通のカルビじゃなくて上カルビを頼みましたね。骨つきカルビを頼んだら、お店の人が切ってくれて、それだけでも感動しました。当時、付き合っていた彼女も一緒だったんですが、すごく喜んでくれて。「焼肉って人を喜ばす力があるんだ」と気付いたのもその時でした。

−そんな小池さんが、美味しいと思う牛肉の定義は?

小池 香りがまず違います。今は生肉を食べることができませんが、うまい生肉のポイントは甘み。舌の上に広がっていくんです。それを焼くと、そこに香りが加わり、肉そのものの味が強くなります。歯触りも違いますね。繊維の細かさを感じることができる。それがうまい牛肉で、そういう肉は塩だけじゃなくてタレで食べてもわかるんです。

−よい肉を食べる時は、タレも重要?

小池 日本人って、"素材の味"とかよく言って、塩だけとかシンプルな味付けを崇拝しがちです。でも、焼肉では必ずしも塩が一番とは言えません。やはり、いい焼肉店というのはタレも美味しい。つまり、肉の旨みをより引き立てるタレなんですね。ダメなタレは肉の味を殺しちゃうけど、いいタレは味を際立たせる。食べ飽きないし、いくらでも食べられます。

−部位によっても、味は違いますか?

小池 全然違いますよ。いい店というのは、部位ごとにタレを変え、切る厚さを変え、隠し包丁を入れたりする。

−寿司職人のように、ちゃんとした仕事がされていることで、部位ごとの魅力が引き立つんですね。

小池 精肉店がやっている焼肉屋さんってありますよね。僕の中では経験上、そのタイプのお店に美味しいところは少ないです。なぜかというと、精肉のプロと焼肉のプロの違いを自覚しにくいからなんです。部位が違っても同じ厚さで切られていたりして、焼肉屋さんとしての仕事ができていないところが多いように感じますね。それに精肉店で売りにくいものを焼肉屋に回している場合もたまにあります。

−牛肉の美味しさの指標のようになっている"霜降り"についても教えてください。

小池 元々は国産和牛農家を守るために、輸入肉に対しての違いを明らかにする、和牛を守るための指標でした。価格ではどうしても負けてしまうので品質の良さをわかりやすく示そうとしたわけですね。ただ、その弊害が出てきていると思います。日本人の技術って、やっぱりすごいんですよ。霜降りの入った牛肉が評価され高く売れるとなると、単に霜降りが多く入った牛を作っちゃう。どんどん品種改良してね。その結果、どうなったかというと、霜降りの質ではなく量のみが過剰になった牛が増えてしまったわけです。

−何事もバランスが大事ですよね…

小池 霜降り肉は当然、それ以前もありました。それは味を追求する中で結果としてできていたもので、脂も美味しかった。だからこそ、輸入肉と差別化するための指標となったわけですが、霜降りの質を無視して量だけを追求してしまったと。だんだん目的がズレていってしまったんだなぁと思います。

−ちょっと残念なお話です。

小池 目的がズレていると指摘するのは簡単です。でも、生産者の皆さんには生活がかかっていますから簡単なことではありません。一番いいのは味を指標にすることですが、数値化が非常に難しいですからね。

−この問題点に気づいている生産者さんもいらっしゃるのでは?

小池 経済効率よりも味を追求するこだわりの強い方はいらっしゃいます。実は生産者の中には自分の育てた和牛を食べたことがない方もいらっしゃるんです。しかしこだわりの強い生産者は、自分の牛を出荷したときは肉の状態を自分の目で確認して、競り落とした業者にお願いして買い戻し、味まで確かめます。そうやって常に味の向上を図っているんです。

僕は自宅で食べるための牛肉を東京で買う時は「銀座吉澤」でしか買わなくなりました。そこで売られる牛肉にはすべて生産者さんの名前が書いてあるわけです。そんな目利きが競り落とした牛肉はどれもとても美味しい。そうやって「松阪牛」とか「但馬牛」「神戸ビーフ」というブランドを超えて、個人の名前がブランドになっていくことも大切だと思いますね。

でも、生産者さんが味だけを追求できるのか、という問題もあります。現場は厳しい状況にあって、業界で言われていることとしては、まず餌代と子牛の値段が上がってきている。生産者はまずそこで借金をしなくちゃなりません。そして牛を出荷するまでには、そこから何年も時間がかかる。

だから、本当は30ヵ月ほど育てたほうが美味しいのに24ヵ月くらいで出荷してしまうということになってしまう。少しでも早く現金化するためですね。さらに生産者の高齢化の問題もあります。後継者が減れば、当然、牛の数が減り、また子牛の価格が上がっていく…そういう悪循環はもうすでに始まっています。

−根深く、なかなか解決するのが難しい問題ですね。

小池 僕は食べるだけですけど、生産者の皆さんは生活がかかっていますからね。だからこだわっている方にスポットを当て、かけたコストに見合う評価がなされるようにしたいんです。生産者のこだわりに比例するような価値になっていけば業界全体の底上げになるだろうし、ずっと美味しい和牛が食べられる…って、結局、自分がずっと食べたいだけなんですけどね(笑)。

●後編⇒年間100kgもの焼肉を食べる“肉バカ”が死ぬ前に食べたい究極の名店「この3軒を回れば、安らかに…」

(取材・文/長嶋浩巳)

小池克臣(こいけ・かつおみ)







横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。焼肉を中心にステーキやすき焼きといった牛肉料理全般を愛し、さらには和牛そのものの生産過程、加工、熟成まで踏み込んだ研究を続ける肉の求道者。年間80〜100kgの和牛を食べている。これまで食べ歩いた和牛料理店から厳選した店とこだわりの和牛飼育を行なっている牧場を訪ね歩いた"肉の本"の決定版「肉バカ。」(集英社)が発売中。「となりのヤングジャンプ」にて小池さんが主人公となったウェブ漫画も掲載! http://www.tonarinoyj.jp/manga/koikesan/







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