話題のインディーゲーム『天穂のサクナヒメ』開発者インタビュー「まさか本業の農家さんからも反響があるとは思いませんでした」

『天穂のサクナヒメ』の一番有用な攻略サイトは農林水産省公式HPのQ&A!?

かわいい神様がうまい米を育てて鬼を倒す! そんな異色のゲーム『天穂(てんすい)のサクナヒメ』がまさかの大ヒット。本職の農家まで感心した、日本の米作りのガチすぎるシミュレーションが話題の今作は、いったいどのように誕生したのか? 開発者のなるさんとこいちさんに聞いた。

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PS4、Nintendo Switchで発売中。パッケージ版は品切れ続出で、中古市場ではプレミア価格に

■空前のヒットはすべてが想定外

――品切れ続出の大ヒットになった『天穂のサクナヒメ』ですが、この反響は予想されていたのでしょうか?

なる まったく想定外です。

こいち 僕らにはよくわからないことが起こっています。

――おふたりは同人ゲームサークル「えーでるわいす」として、アクションゲーム『花咲か妖精フリージア』など、数々の作品をリリースされてきましたが、今作は何がここまでユーザーを引きつけた?

なる やはり稲作パートですよね。これほどまじめに米作りに取り組んでくださるとは想像していませんでした。

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稲作パートは田植えから水や肥料の管理、稲刈り、脱穀など11工程。ひとつひとつが細部にまでこだわった再現がなされている

――『サクナヒメ』は米を育てることで、主人公である豊穣神サクナヒメが強くなり、鬼を倒すアクションパートを有利に進めるゲームです。ただ、この稲作パートの作り込みが細かく、「ゲーム史上類を見ない深さで米作りを体験できる」と話題になりました。

なる 開発側としては作業を繰り返していくと新鮮味がなくなるかもと危惧していたんです。だから、2年目以降は農作業をある程度は雑にやってもゲームが進められるようにしてあったのですが......。

こいち みんなどんどんストイックになって、去年よりもいい米を育てようとする(笑)。

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――それこそ、稲作にハマるユーザーが続出した結果、ネット上では「農林水産省の公式HPの稲作に関するQ&Aが攻略に役立つ」なんて情報まで出回りました。

こいち そのまま使えるわけじゃないですが、あそこに書かれている知識は確かに参考になるんです。読んで損ということはないですね。

――全国農業協同組合連合会も、「うちの解説冊子を参考になさってください」とツイッターで自薦していました。

なる まさか本職の農家さんから反響があるとは思っていませんでした。僕らは農業に関してはズブの素人なので、むしろ怒られるかもと予想していたくらいでした。

こいち ああ言っていただけたのはうれしかったですね。

田植えは苗の植え方まで細かく操作できる。「ユーザーがみんな、苗をきれいに植えることに驚いた」と開発者のなるさん

苗を植えたら終わりではなく、しっかりとした管理も欠かせない。画像は雑草や害虫の管理が楽になる「合鴨農法」の様子

■前例がない挑戦で出口の見えない不安

――そもそも、なぜアクションゲームに米作りを?

こいち 僕らの『花咲か妖精フリージア』で追求したアクション性に成長要素を加えた新しいゲームを作ってみたいと考えたのが発端です。

最初は村づくりを検討したのですが、村や町をつくるゲームはすでにたくさんあるんですよね。ならば、より狭い世界を掘り下げたほうが面白いのではないか。今度は和風の世界観でいくことも決まっていましたから、「日本で何かを育てる......なら米だ!」ということで。

なる 日本人にとって米は身近なものですから。でも、どう作られるのか意外と知らないじゃないですか。そこを徹底的に掘り下げたら面白いと思いました。ただ、僕らは農家の出身ではないので、そこから必死に勉強することになるんですけど......。

こいち これがとにかく大変で(苦笑)。2年程度での完成を目指していたんですが、5年半もかかりました。

なる 本当に何も知らなかったので、まずはJAさんが小学校などで配っている、バケツで稲を育てられる体験キットを取り寄せ、ベランダで米を作るところから始めました。

全編を通じてプレイヤーには米作りの楽しさと苦労が伝わってくる。このゲームをやったら、お米を大切にしたくなるだろう

――実際に作ってみた!

なる 米を収穫するまでの工程をすべて写真に収めて観察して、最後は自分で食べました(笑)。あとは制作と並行しながら田植え祭りや稲作の現場の取材に行ったり、国会図書館で資料を取り寄せて現代の農業論文と、戦国時代の文化、生活などについて調べたりもしました。

こいち 戦国時代を描くには『もののけ姫』や『七人の侍』などの映像作品も参考になりました。それからYouTubeの動画もたくさん見ましたね。

作中に踏臼(ふみうす)という昔の精米機が出てくるんですけど、今の日本では当然使われてないですし、博物館でも保存の観点で動かすことはできない。でもYouTubeで調べたら、ベトナムあたりでは今も使われているみたいで。実際に動いているところを見られたのはラッキーでした。

――エピソードがゲーム作りのお話とは思えません(笑)。

なる 僕らはゲーム会社出身ですけど、こんな作り方をしたことはないです。でも、勉強しながら作るって面白いなと思いましたね。しんどさと半々ですが(笑)。

こいち 前例が見当たらなかったゲームですから、「米作りをこう取り入れたら面白いゲームになる」という保証がないんです。それだけに制作中は出口の見えない不安がありました。

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土の養分の変化が米にどんな影響を与えるかまで学び、与える肥料の配分によってパラメーターが変わっていくシステムを作り上げた

――その一方、完成した作品からはさまざまなゲームからの影響も感じられます。

なる 自分たちが好きなゲームの要素があちこちにちりばめられていますね。バトル面では『デビル メイ クライ』シリーズとか。でも、全体として最も好きで影響を受けたのは『アクトレイザー』です。

――1990年発売の横スクロールのアクションと町づくりシミュレーションが共存する画期的なゲームですね。今もカルト的な人気があります。

こいち あれも当時は「シミュレーションがよけいだ」と言われてたと思うんですよ。実際、続編ではアクションだけになりましたから。『サクナヒメ』も発売前は似たようなことを散々言われました。でも僕らは『アクトレイザー』のチャレンジを肯定したかったから、そこは譲らなかった。

――結果的にそのこだわりが功を奏しました。

なる 特に今回は僕らの活動の集大成として取り組みました。学生の頃からアクションRPGが作りたくて、小さな規模から少しずつスケールアップしていき、ようやく胸を張って作りたいものが作れたといえる内容になったと思っています。

こいち 制作中はケンカすることもありますが、互いに目標の形が似ているんですよね。関係は10年以上になりますが、「面白い」の感覚が近いから、ここまでインディーでやってこられたんだと思います。

アクションパートも評価が高く、サクナヒメが農具と伸縮自在の羽衣で闘う爽快なコンボアクションを思う存分に堪能することができる

――おふたりともゲーム会社出身ですが、もし当時の会社でこの企画を出したら......。

こいち 絶対通らない(笑)。

なる 僕は実際に企画案を見せたことがありますが、「こんなの全然ダメだ」と言われました(笑)。

こいち もし通ったとしても、ここまで好きに作れなかったら微妙な出来になっていたと思います。アイデアそのものより、開発する側が納得できるまで作れるかどうかのほうが大きいし、そこがインディーゲームの良さかなと思います。

――ちなみに米作りは今も?

なる 僕はやってないですけど、こいちさんはまだ作った稲を持っているんですよね?

こいち 仏壇に供えています。

なる 僕は......ここまで来たら田んぼを持ってみたいですね。自分で米作りをちゃんと体験してみたいです。

刈り取った稲を干す「稲架(はさ)掛け」の工程は、なるさんが最も好きなシーン。「いかにも日本的な風景という感じがたまらない」

――じゃあ続編では、さらにディープな米作りができるようになるかも?

なる 続編は即答できないです(苦笑)。この5年半は本当に大変でしたから。これで学生のときに立てた目標を達成したところもあるので、今は次回作の前に、今後の人生設計を見直していきたいです。

こいち 僕も今の開発環境で納得できるところまでやれました。チームとしての次のビジョンを固めないと新作には取り組めないかなと思います。

――『サクナヒメ』はそれだけやりきった、まさにおふたりじゃないと作れなかった内容だったから、これほどヒットしたんでしょうか?

こいち ほかの人では"作れなかった"というか、ほかに誰も"作らない"が正しいです(笑)。

なる できる人はほかにもいるでしょうけどね。だからこそ、広く受け入れられて本当によかったと思っています。

?2020 Edelweiss.Licensed to and published by XSEED Games / Marvelous USA,Inc.and Marvelous,Inc.

取材・文/小山田裕哉

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