子どもはSOSを言葉にできない! 小児性犯罪から守るため周囲の大人が今すぐできること

子どもはSOSを言葉にできない! 小児性犯罪から守るため周囲の大人が今すぐできること

性犯罪加害者に国内でも先駆的な治療プログラムを施している大森榎本クリニックの斉藤氏

『男が痴漢になる理由』(イーストプレス)の著者、斉藤章佳(あきよし)氏は12年前から大森榎本クリニック(東京・大田区)で痴漢、強姦、小児性犯罪、盗撮・のぞき、露出、下着窃盗など1100人を超える性犯罪加害者と向き合い、国内でも先駆的な治療プログラムを行っている。

前回記事では、『どうせ大人になったら経験することだから、自分が教えてあげる』と、まるで性教育の一環だと言わんばかりに子どもに性暴力を振るう小児性犯罪者の“共通点”について言及した。

今回は、心身ともに深く傷つけられた被害者の子どもたちに表れる“異変”に注目しつつ、許されざる小児犯罪者の心理についてさらに深く触れていきたい。

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大人と違って、子どもはすぐにSOSを言葉にできない。自分が何をされているか瞬時には理解できず、それが教師や顔見知りの犯行なら尚更、声を上げることは難しい。

事件が明るみになるたび、その卑劣な手口に辟易(へきえき)するが、被害にあった子どもたちの状況や、精神的なストレスについてどのような“その後”をたどるかを知る機会は少ない。

「小児性犯罪も他の性犯罪同様、“魂の殺人”といわれ、肉体的にはもちろん、精神的にも深い傷を残します。自分が何をされたのかわからなくても、なんとなく『自分の体の境界線を侵された』という違和感には気が付くのです。

ただ、基本的に権力関係にある先生や大人には逆らえないし、嫌われたくないので『僕たちだけの秘密だよ』『キミは特別なんだ』と言われると、なんとなくイヤな気持ちも感じながらも、誰にも相談できず隠し続けてしまうのです」(斉藤氏、以下同)

被害を受けた子どもたちの行き場のない不安や恐怖は、日常生活のなかである変化となって表れるという。

「多いケースは、急におねしょをしたり、やたら親に甘えだしたりと、それまであまりなかった退行行動が見られるようになります。また、漠然とした不安や恐怖に襲われて不登校になったり、不眠や悪夢、チック症状、抜毛癖やリストカットのような自傷行為が始まる例もある。子どもたちなりに、声にできない不安や恐怖感を抱えながらも身体を張って“SOS”のサインを私たち大人に必死に訴えているのです」

また、性被害を受けた子どもは成人してからもPTSDなどの“後遺症”に苦しめられることもあるという。

「被害を受けた当時は幼かったため何が起きたかわからなくても、成長して様々な知識や経験を得るうちに、後になって自分がされた行為の“事の重大さ”に気がつくのです。そのきっかけは何気ない日常生活のなかで突然、フラッシュバックのように襲ってくるため、本人のショックは計り知れません。

『自分の体が汚された』という思いからひたすら手を洗い続ける洗浄強迫や摂食障害、自傷行為など、その症状の表れ方は多種多様です。すべての男性に対して恐怖心を持ってしまい、日常生活に支障をきたすなど、様々な“後遺症”に悩まされることになります」

さらに、加害者を訴えたくても気付いた時には性犯罪の時効期間が過ぎてまって、結局は泣き寝入りせざるをえないという例も少なくないという。

「行き場のない恐怖感やストレスに“魂”を殺され続け、それでも現実を生きていかなければならなくなるのです」

小児性犯罪者たちの身勝手な欲望のせいで、未来を奪われ続ける被害者たち。では、彼らはいつ、どんな時に犯行に及ぶのだろうか?

斉藤氏は小児性犯罪の治療プログラムの一環で、50名以上の加害者にヒアリングを行なっている。その質問項目のひとつが「慢性トリガー」。これは“問題行動につながる間接的な引き金”=“犯行に及ぶ状況”を指し、加害者は@対象になる人、A場所、B時間などについて、リスクマネジメントプラン(再発防止計画)と呼ばれる用紙に記入していく。匿名を条件に、複数の逮捕歴のある加害者3人が記入した用紙を見せてもらったところ…。

子供向けに体操を教えていた元スポーツインストラクターA氏(男性30代、未婚)の場合、『@8〜13歳の女の子、A子どもが集まる場所。面識があり、1対1になることが可能な場所、B13時〜19時』。

元保育士B氏(男性40代)の場合、『@自分に好意のあるスレンダー気味の幼児。小学生でパステルカラー系などのかわいい服を着た女の子、A周囲に大人がいない、ふたりきりになれる場所、@8時30分〜11時30分/13時〜17時』

元小学校教諭C氏(男性50代、妻子有)の場合、『@5歳前後で薄着のおとなしそうな子、A団地、公園、ショッピングセンターなど子どもが集まる場所、B15時〜17時、休日』

これらを踏まえ、斉藤氏はこう話す。

「小児性犯罪者にはそれぞれ個別の“引き金”があるので、『こんな子どもが狙われやすい』など一概にパターン化することはできません。ただ、一度できてしまった“条件反射の回路”というのはなかなか消えないので、彼らは一生この欲求と付き合っていかなければなりません」

現在、元小学校教諭のC氏は家族の協力も得て再犯防止に取り組み、街中で“タイプの女児”を見つけて引き金が引かれそうになった時には妻に電話して正直に心情を話し、欲求を事前に抑えるという対処行動を実践しているという。

一方、刑務所では小児性犯罪などの再犯防止策として『R3』と呼ばれる性犯罪者処遇プログラムを行なっているが、「課題も多い」と斉藤氏は言う。

「そのプログラムにはもちろん税金が使われているため、再犯防止効果があるという“結果”を残そうと治療反応性の高い受刑者が選ばれる傾向があり、精神疾患や発達障害を抱える人など、いわゆる本当の意味でのハイリスク群にはプログラムが実施されないという課題があります。

矯正施設側の予算不足やマンパワー不足など多くの問題もありますが、操作的に結果や数字を良くする目的だけではなく、本来、プログラムを受ける必要がある人すべてにそれが実施されるように制度やシステムを変えていかないといけません」

では、性犯罪から子どもを守るためにはどうすればいいのだろうか。

「今も昔も不審者というとサングラスや帽子、マスクをして…という先入観を持っている人が少なくありません。しかし、加害者である当人たちを見ていると、そんな風にあからさまに怪しい服装をした人物はいません。彼らは普通の恰好をして、人目のつかない場所で犯行に及ぶのです。

学校などで現実とかけ離れた加害者像を教えるより、人通りが少ない場所や死角になりやすい暗い場所など、犯罪に巻き込まれやすい環境そのものを教えることが重要です。この環境に注目する視点は犯罪学で『犯罪機会論』といいますが、そのような防犯マップを作り、保護者と共有することは効果的な対策だと思います。

親は子どもに万が一のために防犯ブザーを持たせるのはもちろん大切ですが、問題は教師や顔見知りの人に何か性的な接触をされた時にきちんと信頼できる大人に伝えられるかどうかです。従って、日頃から『むやみに身体やプライベートゾーンを触られたらすぐに教えなさい』『ちょっとでも変だなと思ったらママかパパに教えてね』と伝えるのも有効でしょう。

何より、声を上げられない子どもが発する些細な“SOS”に気付けるように、常日頃からコミュニケーションを密に保つことが重要になると思います」

まだ人を疑うことを知らず、声を上げられない子どもたちだからこそ、周囲の大人が異変に気付かなければいけない。子どもたちの純粋な魂が食い物にされないために、今できることから始めたい。

(取材・文/青山ゆか)

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