50年連続黒字を維持する“無名”の自動車部品メーカーが「勇気ある経営大賞」に選ばれたワケ

50年連続黒字を維持する“無名”の自動車部品メーカーが「勇気ある経営大賞」に選ばれたワケ

パイプ加工の技術力と独自のITシステムを組み合わせ、好業績をあげている武州工業

ニッポンには人を大切にする“ホワイト企業”がまだまだ残っている…。連載企画『こんな会社で働きたい!』第16回は、自動車や医療機器向けのパイプ部品を製造する武州工業だ。

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東京・青梅市に本社を置く武州工業は大手自動車メーカーの二次下請けとして、乗用車やトラックに使われるパイプ部品を製造する会社で、業界内では“パイプ曲げ加工のエキスパート”として知られている。

企業データを見ると、この“無名”の中小企業の優良さがわかる。

従業員数は158人。パート社員は7人のみで、正社員比率は約96%と製造業では突出して高い。また、総資産に対する自己資本の割合を示す自己資本比率は、高ければ高いほど財務状態が安定していることを表すが、同社は毎年度50%程度を叩き出す。ちなみに製造業の中では中小企業の平均値が20数%程度、トヨタでさえ36.9%(2017年3月度)だ。

加えて、夜間勤務のない1日8時間、月20日労働の“8・20体制”を構築し、年間休日数は120日。社員の平均年齢は33歳で、20代が最も多い構成になっているが、それでいて離職率は2016年度実績で3%にとどまる。

特筆すべきは、1968年から赤字決算は一度もなく、50年連続黒字をキープしている点だ。税務内容も良好なことから優良申告法人の表敬を7度も受けた。7度の表敬は、所属する立川法人会・1万2千社中、同社も含めてわずか2社しかない。

海外製品とのコスト競争もし烈な自動車部品業界の中規模メーカーにして、この盤石の経営基盤。林英夫社長の経営手腕は高く評価され、東京商工会議所の『勇気ある経営大賞(第10回、優秀賞)』、昨年には坂本光司・法政大学大学院教授が主宰する『日本でいちばん大切にしたい会社』大賞にも選ばれた。

林社長は元々、電気工学を専門にする技術者だった。日本大学・電気工学科を卒業後、カメラメーカーの株式会社ヤシカに入社し、78年に武州工業へ転職。92年に同社の創業者を継いで社長に就任し、現在に至る。

その林社長の経営コンセプトは、“青梅から世界へ”だ。

「パイプ加工を通じ、世界に通用するものづくりが日本でもまだまだできることを発信し続ける企業でありたい。国内生産でも“LCC価格”は可能ですから」

“LCC”――林社長は取材中、たびたびこの言葉を使った。自動車業界特有の商慣習で、世界中で部品を一番安く生産できる国(Low cost country)での調達価格が他国で生産される部品に対しても適用される。

「自動車メーカーが部品を発注する際、世界中の主要な製造拠点に同じ図面が配布され、見積もり合わせをする。その中で一番安い国の値段が1個100円なら『日本でも100円で作りなさい』となるのがこの業界です。

ただ、日本の製造業の時給が1000円程度なのに対し、東南アジアは70円、80円の世界。労務費が10倍以上も高くなるこの日本で『LCC価格に対抗するのは不可能』と、2000年以降は中小企業まで続々と海外に出て行った…。私はね、海外に行ったりせず、地元に仕事を残すために日本でLCC価格を実現したかったんです」

とはいえ、東南アジア製の安価な製品に対抗するにはコストを切り詰めなければならない。多くの場合、そのターゲットとなるのは人件費だ。外国人労働者を含め、非正規社員の比率を高くし、いかに安く、長く働かせるかを考える。

しかし前述の通り、武州工業の正社員比率は96%、外国人労働者も0人という。

「ものづくりは時代を越えて継承していかなければなりません。それをパートや外国人に渡しちゃったら、瞬間風速で生産性は上がるかもしれませんが、将来へ持続する日本の仕事にはなりえません。いずれ、技術が絶えてしまいます」

では、どうやってLCC価格を実現しているのか? その答えは工場にあった。

同社の工場には大小合わせて50ライン程度ある。通常、製造ラインといえばベルトコンベアが直線的に伸び、各工程のそれぞれの持ち場で複数の工員が作業に当たっているイメージがあるが、そこに広がっていた光景は全く違っていた。

各製造ラインはU字を形成し、それに沿って複数の機械設備が並ぶ。U字の中央部に空いた畳一畳ほどのスペースに工員1名が配置され、グルグルとそのU字に沿って移動しながら作業に没頭している。工場内には同じような島がいくつもあった。

「これは“1個流し”という弊社独自の生産方式で、ひとりの工員が一工程目から最終工程までの全工程をこのU字の中で完結させます」

1個流しは生産性が高い。例えば、金属パイプを製造するラインには8工程あり、8つの設備がUの字に並んでいた。この部品を1千個作る場合、他社の工場ではロット生産という方式を採るのが一般的だという。

1工程目で1千個すべてを製作してから、2工程目に掛かり、すべてを処理してから3工程目に…と、工程ごとに複数の工員を配置し、完全分業の形で順々に流していく。

しかし、金属パイプ部品はパイプにRをつける曲げ工程で最も時間が掛かる。ロット生産だとここで大渋滞を起こし、それ以降の工程を受け持つ作業員は待機せざるをえなくなる。そこに、完成までのリードタイムが長くなる弱点が生まれると。

一方、ひとりの工員が全工程を担う1個流し方式の場合、最も時間がかかる曲げ加工が完了する間に他の工程の作業に当たることができるため待機時間がなくなる。ロット生産に比べて、生産性が格段にアップするというわけだ。

「1個流しの生産効率が良いことは製造業界ではよく知られていますが、実際に導入している企業は少ないと思います」

その理由は、各工程に配置する機械設備がバカでかいから。すると当然、「ラインを形成するUの字が大きくなって工員の移動距離が長くなり、作業負担が重くなる。市販の汎用機械を納入する以上、この問題はクリアできません」。

では、武州工業ではどうしているのか?――「自前で“ミニ設備”を作っています」

設備を自前で作る。それは料理人が自分仕様の包丁を自前で作るのと同じで、林社長は「製品仕様に合わせた設備開発はウチの心臓部」なのだと言う。

「大量生産から多品種少量のものづくりにシフトしていくためには、設備の内製化がカギになると思っていました。これまで自社で作った設備の台数は、大小あわせて500台ほどになります」

現在、同社で設備開発を担うのは技術部に所属する20名の社員。2年前には金属を裁断するレーザー加工機を完成させ、今では18台が工場に設置されている。

このレーザー加工機は金属に0.3ミリ程度の穴を開ける微細加工も可能で、「大手設備メーカーの汎用機と比べても性能は負けない」と林社長自慢の一作だ。

「他社製のレーザー加工機の価格は4800万円、設置面積は7.2u程度ですが、当社の“ミニ”レーザー加工機は開発費1200万円とコスト面では4分の1、設置面積も2.1uなので3分の1以下のスペースに収まります」

設備投資費が安く済み、しかも自社工場の現場に即した導入が可能になる。道具を自前で作るこの“DIY”の技術力が、工員ひとりで全工程を完了させる1個流しを可能にしているわけだ。入社10年目の社員、池田敬さん(29歳)はこう話す。

「1個流し生産はコンパクトな設備レイアウトの中、加工だけでなく生産計画から材料の調達、品質管理、出荷管理までをひとりで担当します。現場の裁量が大きく、工員それぞれが“一人親方”のようなもの。『自分の手で自動車の部品を作っている』という責任感とやりがいが得やすい点がいいところだと思っています」

同社には年齢や勤務年数に関係なく、現場発信のアイデアに真摯に向き合う姿勢もあった。池田さんがこう続ける。

「以前、トラックのラジエーターのファンカバーを作っていたのですが、平材をプレス加工した後にレーザーカットする工程を逆にしたほうが短い時間で加工できるのではないかと感じ、上司に提案したところ、これが採用されました。実際、思ったとおりに工程を逆にしてみたら、作業スピードが上がり、1ヵ月当たり20万円も費用を抑えることができるようになったのは嬉しかったですね」(池田さん)

工場の歯車になるのではなく“一人親方”としてものづくりに取り組んでいるからこそ、同社の社員は自立しているように見えた。この点について、林社長はこう話す。

「経営陣からのトップダウンで方針が決まるのが一般の会社ですが、うちの会社はベクトルが逆で、現場からのボトムアップで様々な改善を進めていきます。いわば、フランチャイズのラーメン屋さんのイメージ。

フランチャイジーの親方が私で、社員ひとりひとりが店長。現場を一番よく知る店長が、店をよくするために最善を尽くす。1個流し生産は社員の自律性を促す意味でもメリットがあるということです」

そう話す、林社長のものづくりの理念は『道具を作る』『人に任せる』『人を信頼する』の3つ。それを形にしたのが1個流し生産というわけだが、実は「これだけではLCC価格を実現することは難しかった」と言う。

同社が海外製の安価な製品に対抗するために生み出したもうひとつの武器が、IoTである。iPadを自社仕様に改造した機器と、クラウドを駆使したその生産管理システムは日本の製造業の“救世主”になりうるポテンシャルを秘めていた。

★後編⇒全社員が定時で帰れる会社に! “ひとり親方”制を実現する武州工業「世界に通用するものづくりはまだまだ日本でもできる」

(取材・文/興山英雄)

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