相模原市はなぜ女性教員の管理職が多いのか? 女性管理職比率36%の理由

相模原市はなぜ女性教員の管理職が多いのか? 女性管理職比率36%の理由

小倉教頭(左)と山重校長

 4月に女性活躍推進法が施行され、様々な組織で女性の登用施策などの計画が立てられる中、女性教員の管理職割合がジリジリと増加している。今年度の学校基本調査では、女性管理職の割合が過去最高の25.9%に達した。民間企業などではなかなか進まない女性管理職の登用だが、近年教員の「激務」が問題視されている中、なぜ教育分野では登用がスムーズにいくのだろうか。女性管理職の比率が2016年度に36.2%に達した相模原市を訪ねた。

今年教頭になった女性教員「思った以上にハード」

 「早いときは午前7時前には学校に来ますね」。笑顔で話すのは相模原市の小学校で今年から管理職に登用された小倉久美子教頭だ。

 「思った以上にハード」と語る小倉教頭の仕事は、まず安全に登校できる状況かどうかの判断から始まる。台風などの悪天候であれば、午前6時頃には登校の可否の判断をし、保護者らへメールしなければならないためだ。

 出勤後は学校内を周り、登校を渋っている子どもへの対応や、校内施設の安全確認などに追われる。校内を歩いていると「◯◯の件ですが、どうしましょう」といった教員からの相談が次々に寄せられる。

 その他、保護者・地域や児童相談所などの外部対応をしたり、市内・市外問わず教頭職の会議などへ出席したりする。子どもが下校してから、山になった教頭決済の書類やメールに目を通す。帰宅は遅いときで午後9時〜10時だ。

管理職になった理由「先輩の女性校長の言葉に思わず…」

 なぜ激務の教頭職を引き受けたのか?「最初は断っていたんです。担任が持てる一教員でいたかったので」。今の学校に着任して手術をしたこともあり、「病気が再発すれば教頭職は務まらない」と固辞してきたという。

 しかし、手術から復帰し学級担任や教務主任を務める中で、仕事への自信を徐々に取り戻し、文部科学省から優秀教員の表彰も受けた。「支えてくれた周りの人たちに恩返しがしたい気持ちになった」。そんな中で昨年4月に異動してきた山重ふみ子校長から、昨年夏、再度教頭職を受験するように応援された。

 「務まるか自信がない」と打ち明けると山重校長は「試験を受けても受かるかわからないじゃない」とあっけらかんと言ったという。「そこで、気が楽になった。山重校長先生の下でもっと学びたいという意欲が湧いてきた」。

 教頭試験に受かり、務まるかどうかが不安になったときも、励ましてくれたのは山重校長だった。「私が持っているもの、全部あげるから、安心して」。その言葉で教頭としてやっていくというプレッシャーが氷解した。「今思い返しても涙がでるぐらい、心強かった」

 夫と、社会人として働く娘と暮らすが、夫からは「体が心配。仕事に熱中してしまうところがあるから無理はしないでね」と声をかけられた。高校の教員である夫は、子育てにも協力的で、保育園の送迎など育児も二人三脚でやってきた。「今は私のほうが遅く帰るとご飯を作ってくれていることもあります。教頭になってからは家事も多くやってくれて、感謝しています」。家族の支えもあり、教頭として打ち込める環境が整っているという。

なぜ管理職が多いのか?相模原市教委に聞く

 女性教員の管理職が今年度は36.2%にものぼる相模原市。教育委員会教職員課の佐々木隆課長は「本当に何もしていないが、自然と上向いてきた」と話す。相模原市教委によると、同市が政令市になった2011年度から女性管理職の積極登用を始めた。2010年度には25.0%だったが、そこから10%以上も伸びている。

 理由として考えられる点をあげてもらった。最も強調されたのは「男女関係なく、ふさわしい人を登用する」という方針だ。これはよく聞かれるフレーズだが、簡単なことではない。人材紹介会社アイデムの「人と仕事研究所」の調査「女性活躍の現状と課題」によると、個人・企業共に、男性の方が「組織の統括」や「リーダシップ」の能力・特性が高いと感じているという結果が出た。「企業・個人共に男性の方がリーダーに優れているという固定概念がある」(同研究所)と説明する。
 佐々木課長は「元々相模原市教委は男性・女性に能力差があるという前提に立っていない。そこに女性活躍推進の動きがあり、現場の先生の意識も変わったことで急激に登用が伸びたのでは」と指摘する。佐々木課長によると、管理職になる手前の総括教諭といった学校全体をみる教員に女性が就くことも増えている。校長らが能力重視でみたときに、ミドルリーダーに女性を配置することが増え、女性も全体を見るポジションを経験することで、管理職への意欲が高まっていくサイクルが生まれていると推測できる。

恵まれている環境も大きな要因

 女性が続けやすい環境が整っているため候補が多いといった背景もある。相模原市は全県1区の都道府県などと比べると異動も狭い範囲で行われ、住居を伴う転勤をしなければならないことはほとんどない。子育て中などで要望があれば「学校の異動にも配慮している」(教職員課)という。育児休暇は3年取得できる。育児休業期間中に2人目を妊娠した場合は4年以上休むこともあるが、代わりの教員が必ず補充される。復帰した教員はほとんどが短時間勤務を取らず、フルタイムで復帰するが、「育児などの事情があれば保育園の迎えなどに間に合う時間に帰れるように運用している」という。

 さらに、待機児童になってしまうので復帰できない、ということもほとんど起きていない。相模原市は2016年4月で2年連続待機児童数ゼロを達成。ほとんどの教員が4月入園を目指すので入園できない事例は起きにくいという。

 また女性教員の割合も多い。相模原市の小中の教員は女性が56.6%を占めている。女性が多いことに加え、両立環境が整っていることから、管理職候補が多いと予想される。

 佐々木課長は「市は2019年には女性教員の管理職の割合を4割にする目標を掲げています。とは言え、これまで通り、特別な何かをするのではなく、女性も男性も介護中の人も育児中の人も、全ての人が働きやすい環境を整えるようにやっていきます」と説明する。