「ラップ」で地域の魅力発信 斬新な自治体PRの背景に「地方創生人材」

「ラップ」で地域の魅力発信 斬新な自治体PRの背景に「地方創生人材」

鹿児島県長島町の魅力をラップに乗せて歌う(YouTubeより)

 地方から、若者の自由な発想による自治体PR企画が相次いでいる。秋田県湯沢市の副市長が歌う「ラップ」がインターネット上で大きな話題になると、遠く離れた鹿児島県長島町の若者も地元をPRするラップ動画を公開。「副市長ラップ」による自治体PRなど、若者による自由な発信が続く背景には、政府が行う地方創生による人材派遣制度の影響もありそうだ。

「PRラップ動画」の強烈なインパクト

 湯沢市の藤井延之副市長(35)自らが出演して湯沢の魅力を歌う「副市長ラップ」の動画は、7月に地元の若者らが、夏のイベント告知のために制作し、YouTubeで公開したところ、すでに5万回以上再生。全国紙や全国放送のテレビの取材が相次ぎ、英公共放送BBCにまで採り上げられるほど話題となった。

 これに対し、湯沢市から直線距離で約1211km離れた鹿児島県長島町から、湯沢副市長を”揶揄”する「アンサーソング」が届いた。湯沢副市長に対し「教えてやるぜ」という台詞を投げかけた後、「長島・鹿児島・最北端!、湯沢市・秋田の最南端!」という”挑発”が続く。

 早口で「長島・鹿児島・ブリの町」とまくし立てられるラップを観ているうちに、長島町がブリ養殖が世界一で、人口が約1万人であることが分かった。一方、ブリは250万匹いるという。

「地域おこし協力隊」人材の活躍

 この「挑発PRラップ」を制作したのは、「地域おこし協力隊」として今年6月から長島町に赴任している神明竜平さん(27)。「地域おこし協力隊」とは、2009年より総務省が始めた過疎地域で地域PRなどに従事する人材を派遣する制度で、政府が「地方創生」に力を入れ始めた2014年度から急増し、2015年度は2625人が派遣された。

 神明さんは、大学卒業後東京の大手IT企業に就職したが、2015年7月総務省から派遣され長島町副町長を務める井上貴至さん(30)に長島町での仕事を紹介され、移住。高校・大学の先輩でもある井上副町長から、湯沢市副市長のラップ動画の話を聞き、今回の企画を思いついたという。

 「最初はビクビクしながら、動画を公開したんです。ヨソ者が何をしていると怒られるのではと」。しかし、町の人の反応は予想外のものだった。「このラップが、街中で口ずさまれているのを聞いた」という。町内の祭りではラップ動画の出演者が登場し、「あなたも私も〜、長島・鹿児島〜」と歌うほどまで受け入れられた。

キャリア官僚を自治体幹部として派遣

 湯沢市の藤井副市長も、長島町の井上副町長も共に「地方創生人材支援制度」を活用し、総務省から派遣された、30代の若きキャリア官僚だ。人口5万人以下の自治体に地方創生に強い意欲を持つ人材を2年間、市町村長の補佐役として派遣し、「地方創生」の実務を担わせるために作られた制度だ。井上副町長は、就任当時、「史上最年少の副町長」として話題となった。

 井上副町長は、就任後「ぶり奨学金」を創設するなど、新たな施策を次々発表。今回「挑発PRラップ」を制作した神明さんも、井上副町長が主導するドワンゴ社と連携したIT教育施設を作る事業を担うため、「専門能力を持った人材を、役割を明確化して募集した」(井上副町長)人材のひとりだ。他にも、楽天本社でPRイベントを開催するなど、意欲的に活動する。今回の「挑発PRラップ」には、井上副町長も出演している。

「副市長を、仲間の一人のように感じる」

 湯沢市の藤井副市長も、街の若者のリーダー的存在になっている。湯沢市で「副市長ラップ」を制作した地元若者グループのひとり、高橋大輔さん(31)は、「副市長を、仲間の一人のように感じる」と語る。「以前は、何か行動を起こそうとした時、どうして良いかわからなかったが、今は副市長に直接連絡し、行動できる。これはすごいことだ」。副市長の影響力は県外まで及び、「副市長ラップ」で湯沢市を知り、移住に興味があるという問い合わせも市役所にあったという。

 10月2日の湯沢市のイベント「全国まるごとうどんエキスポ2016」では、両自治体による「ラップ対決」が実現する。ステージには、湯沢市の藤井副市長や長島町の井上副町長も出演する。「自治体ラップ対決」も、「地方創生」事業が生み出した一つの成果なのかもしれない。
(中野宏一/THE EAST TIMES)