ネパール人とベトナム人が急増 彼らが「大久保」を選ぶ理由

ネパール人とベトナム人が急増 彼らが「大久保」を選ぶ理由

ネパールレストランで毎週のように開かれるパーティ

 東京・新宿区大久保1丁目は、20歳の87%が外国人という超国際都市になっている。JR新大久保駅周辺にできた“人種のるつぼ”を報道カメラマンの横田徹氏がルポする。

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 国内有数のコリアンタウンとして知られる新宿区大久保界隈で、ある変化が起きている。

 新大久保駅の改札を出ると、アジア系、中東系、アフリカ系と様々な人種が行き交う光景にまず驚く。街を東西に貫く大久保通りや裏通りの雑居ビルは、様々な国の言葉で書かれた看板で埋め尽くされている。

 駅に近い通称“イスラム通り”には、スパイスやイスラム教徒向けのハラルフードを扱う食材店や、サリーなどの民族衣装を売るブティックのほか、モスクもある。多文化がぶつかり合い、その混沌が生み出す独特の活気に満ちたこの雰囲気は、長年、東南アジアや中東で過ごした私にとって居心地が良く感じる。

 そんな大久保で最近、急増している2大勢力がネパール人とベトナム人だ。

 言葉も文化も異なる外国人と、この街で生活する日本人との間で軋轢はないのか。母国に比べて物価の高い日本で職にありつけずに困窮し、犯罪に手を染める者もいるのではないかそんな心配が頭をよぎる。

 どうして彼らは大久保を選ぶのだろうか?

 総武線の大久保駅に近い高架脇にあるベトナム風サンドイッチ(バインミー)専門店「バミ オイシー」。故郷の味を懐かしむベトナム人留学生で賑わいを見せている。店主のチュオンさんは留学生として来日し、3年前に店を開いた。

「いろいろな人種が集まる大久保は刺激的で住み易いです。ベトナムにも日系企業が多く進出していて仕事もあるけど、稼ぐなら日本に来たほうがいいです。これからも日本に住み続けようと思っています」

 チュオンさんのようなジャパニーズ・ドリームを抱く外国人にとって、大久保は第一歩を踏み出すのに相応しい場所のようだ。

◆商店街事務局長は何を考えるか

 在日ネパール人向けのフリーペーパーを発行するティラク・マッラさんは日本在住歴20年を超える東京のネパール人コミュニティの重鎮だ。新聞以外にネパールレストランも経営しており実業家の顔を持つ。マッラさんに話を聞いた。

「日本にネパール人が増えたのは2008年頃からです。現在は日本に7万人以上、新宿区だけでも約3800人が住んでいます。ネパールの若者の多くは海外で生活したいという夢を持っています。アメリカ、イギリス、オーストラリアと並び日本も人気があります。留学で日本に来て、その後に親や兄弟などを呼び寄せているのが人口増加の理由だと思います」

 これだけ多くのネパール人が住んでいれば様々な問題が起きるのでは?

「ネパール人と日本人、それ以外の国との間に特に問題はありませんが、ネパール人同士の派閥争いがあります。例えばあるネパール人が食品雑貨屋を開店して繁盛すると、別の人が目の前にお店を出して客の取り合いになり店同士が喧嘩になります」

 外国人が日本で上手く生活する秘訣はある?

「まず外国人が日本のルールを守ることです。日本語や文化を学ぶことはもちろん、挨拶を大事にしたり約束を守ったりと、日本人から学ぶことは多い。

 また、新宿区は外国人を大事にしてくれて、皆が仲良くなれるように努力しています。多くのネパール人は日本語の読み書きが出来ないので、区役所から送られてくる税金や保険の通知をわからずに捨ててしまい問題になっていました。私が担当者に少しだけでも英語表記をして欲しいと頼んだら、すぐに改善してくれました」

 様々な外国文化が入り乱れるこの街で、地元の日本人たちはどのように外国人と接しているのだろうか。新大久保商店街の事務局長を務める武田一義さんに話を聞いてみる。

「これだけ様々な国籍の人が一つの街に住むという現象が起きているのは日本でも大久保くらいだと思います。新大久保商店街では、“みんなの街を良くしよう““商店街を盛り上げよう”をモットーに2か月に1度の割合で日本、韓国、ネパール、ベトナムの“4か国会議“を開いて情報の共有をしています。

 この街に住む日本人はお年寄りが多く、外国人との接し方を知らない人が多い。外国人が勝手にゴミを捨てたり、深夜まで騒いだりと一つでも嫌なことがあると、その国が嫌いになってしまいます。まずは最低限のルールを守って挨拶を交わせば、自然と距離が近くなるはず」

 かつては組の事務所があり、外国人売春婦が裏路地に立つ危険な街だったが、現在は警察や新宿区の協力で治安も問題ないという。

「昔、韓国の人たちが大久保に来た時は地元の人と揉めたと思いますが、今では彼らは商店街の人たちと上手く付き合っています。韓国人のような先に住み始めた外国人が、ネパールやベトナムなど次に来る外国人に教育していく、というのが理想です」(武田さん)

 最近、増え始めたパキスタン、バングラデシュなどアジア系やアフリカ系の“新参者“が孤立しない為にも、この街に根を下ろした先駆者たちのサポートは不可欠だ。大久保を訪れた人が喜んで満足するようなインターナショナル・タウンにするのが武田さんの目標だという。

 外国人の人口は増加の一途を辿り、地方都市でも外国人街が増えている。外国人を“隣人“として迎え、彼らと上手く共存していくには大久保の住民から学ぶべきことはあるだろう。

 気軽にチーズタッカルビ、ケバブ、ダルバート、バインミーなど海外グルメが堪能できて日本にいても海外旅行気分を味わえる大久保。“国際カオス・タウン”がどのように進化していくのか注目していきたい。

【プロフィール】よこた・とおる/1971年茨城県生まれ。1997年のカンボジア内戦からカメラマンとして活動開始。アフガニスタン、イラク、シリアなど世界の紛争地を取材。著書に『戦場中毒』(文藝春秋刊)がある。

※SAPIO 2018年7・8月号

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