ながらスマホ暴走自転車に妻を殺された83歳夫の慟哭

【ながらスマホの自転車死亡事故】被害者の夫が事故当時振り返る 無対策の国へ怒りも

記事まとめ

  • 昨年12月、川崎市で女子大生の電動アシスト自転車にはねられ、当時77歳の女性が死亡
  • 女子大生は左手にスマホ、右手に飲み物、左耳にはイヤホンをしていた
  • 被害者女性の夫は「ながらスマホ」を放置する国やメーカーへの憤りもあるという

ながらスマホ暴走自転車に妻を殺された83歳夫の慟哭

ながらスマホ暴走自転車に妻を殺された83歳夫の慟哭

自転車も凶器になり得る

 スマートフォンの保有率は56.8%(2016年度。総務省統計)。爆発的普及の裏で、この文明の利器が車や自転車をたやすく“動く凶器”に変える危険を軽視してはならない。「ながらスマホ」の自転車事故で妻を殺された男性の告白は、日常生活の中に顕在化している「恐怖」を突きつける。

「判決が軽すぎます。まだ妻の墓前にも報告できていません……」

 うなだれながらしぼり出すように話す男性は、神奈川県川崎市在住の米澤滋氏(83、仮名)。去る8月27日、妻の命を奪った被告に言い渡されたのは「禁固2年、執行猶予4年」という判決だった。

◆左手にスマホ、右手に飲み物

 昨年12月、50年以上連れ添った妻(当時77)が、市内の商店街でスマホを見ながら電動アシスト自転車を運転していた女子大生(20)にはねられ、脳挫傷で死亡した。

「警察の取り調べに対し、『ぶつかるまで被害者には気付かなかった』と証言しています。事故当時、女子大生は左手にスマホ、右手に飲み物を持ち、ハンドルには腕を添えているだけの状態で、とてもブレーキをかけられる状況ではなかった。左耳にはイヤホンまでしていました」(全国紙記者)

 その後、女子大生は重過失致死罪で在宅起訴され、書類送検された。米澤氏が語る。

「法律上、自転車は『軽車両』と定められています。しかも乗っていたのは最大時速30km近く出る電動アシスト自転車。なぜ危険運転致死傷罪が該当しないのでしょうか。やるせない気持ちが募ります」

 事故当日、現場に居合わせた地元住人によれば、「女子大生はぶつかった後、被害者の救護活動もせず、近くに自転車を停めて立ちつくしているだけだった」という。

 法廷でも女子大生側の弁護士が「悪質性の低い脇見運転にすぎない」と主張するなど、米澤氏の心の傷は深まるばかりだった。

「人の命をなんだと思っているのでしょうか……。加害者への怒りはもちろんありますが、今ではそれ以上に、ながらスマホを放置し続ける国や、対策に本腰を入れない携帯電話と自転車メーカーへの憤りも抑えられません」(同前)

 警察庁の統計によれば、2016年度の「運転中のながらスマホ」を原因とする交通事故(自動車・自転車合わせて)は1999件。うち死亡事故は27件。事故総数は5年前から1.6倍に増えている。

 現在、自転車を運転しながらの携帯電話使用は、道路交通法第71条で禁止されており、5万円以下の罰金が科せられる。しかし、危険性を鑑みると「罰則が軽すぎる」という指摘は多い。

◆視野は20分の1に

 愛知工科大学名誉・特任教授の小塚一宏氏の研究によれば、スマホを見ながら自転車を運転した場合、視野は通常の20分の1に低下するという。

「運転中の人間は、無意識のうちに前方左右のさまざまな情報を視認し、本能的に安全確認をしているわけです。しかしスマホを見ながら自転車を運転すると、小さな画面を中心に20~30cm程度の狭い範囲しか見えていない。

 5秒間スマホを見ていると、時速10kmと仮定しても14mも進む。その間に歩行者とぶつかれば大変なことになります。ながらスマホがそれほど危険な行為だという認識が、世間に浸透していない」(小塚氏)

 6月にも茨城県つくば市で、男子大学生がスマホを操作しながら自転車を運転し、62歳の歩行者をはねて死亡させる事故が起きている。

 米澤氏は、同じような被害に遭う高齢者は今後増えていくと危惧している。

「街に出ると、若い子はスマホばかり見ている。私のような高齢者は、歩くのも遅いし、とっさの判断力も鈍い。ながらスマホの人間が前から来たら、こっちが気付いても避け切れない。どこを歩くのも怖くて仕方がない。

 にもかかわらず、最近は自転車のハンドルにスマホを付けられる部品が平然と売られている。恐怖をさらに広げているようにしか思えません。例えば、一定以上の速度ではスマホ操作をできなくするような機能を付けてほしいと切に願います」

 運転中の携帯端末利用の罰則を強化する道路交通法改定の気運はあるが、国会での審議は先送りにされているのが現実だ。

「国会議員にとって、妻の犠牲は取るに足らない出来事なのでしょうか。あと何人犠牲になれば、動いてくれるのか。妻は生前、よく口癖のように言っていました。『私が絶対あなたの最期を看取る。それから死ぬの』って。そんな妻に先立たれてしまった。せめて妻の死を無駄にしたくない。その一念で生きています。

 どうか、ながらスマホの危険を知って、同じことを二度と繰り返さないよう法整備や携帯の仕組みを見直してほしいのです」

 米澤氏の悲痛な訴えに、現代のスマホ社会に生きる日本人全体で向き合う必要がある。

※週刊ポスト2018年9月14日号

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