SNSに蔓延る「悪意あるものたち」 匿名アカでもつけこまれる構図

SNSに蔓延る「悪意あるものたち」 匿名アカでもつけこまれる構図

SNSは「猟場」と笑う人たちがいる(イメージ)

 SNSは交友関係を広げたり情報交換には便利なツールだが、その手軽さに気を許すと、思わぬところから足もとをすくわれることもある。ライターの森鷹久氏が、SNSを活用して相手の懐に潜り込み、人を操ることもできると嘯く元情報商材販売業者に、人心掌握の「コツ」を聞いた。

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 大学入試の合格発表の季節になると、ツイッターなどのSNSに「○○大学に合格しました」「春から〇〇大生」などと、4月から始まる新生活への期待を膨らませた書き込みが増えてくる。書き込みそのものはとても微笑ましいのだが、それに対して怪しい宗教、マルチ商法やカルト関係者たちから「勧誘される」危険性があるということで、一部の大学が学生に注意喚起を行っていると話題になっている。

 こうした傾向は、SNSが身近になった近年では「お馴染みのこと」と認識されつつあるが、注意をすべきなのは当然、若い学生だけではない。

「SNSはカルトやマルチ、怪しい新興宗教関係者にとっては猟場と言っていい。何より手っ取り早く、使い方さえマスターすれば、大きな金になるからです」

 こう証言するのは、かつてねずみ講まがいの情報商材販売業に身を置き、SNSを使った勧誘を繰り返すことで、一時期は年に数百万円の収入を得ていたという本田俊樹さん(仮名・30代)。ツイッターやインスタグラムなど、本名で登録しなくてもよいことが前提のSNSは、本名でない分、人々が本音をさらけ出しているため、ターゲットを簡単に見つけられるのだと説明する。

「文句がある人、不満がある人、みんなツイッターに匿名でガンガン書き込むじゃないですか。どれも本名だと言えないことばかり、本音なんですよね。死にたい、自殺したいって人を狙う殺人犯や、金が無いと書き込んでいる子を買春野郎が狙うのと一緒で、本音の投稿を見つけては吟味する」(本田さん)

 具体的には「会社がつらい」「学校に行きたくない」などの不満ばかりをぶちまけているSNSアカウントを見つけたら、まずはフォローしたり他人からは見えないリストに登録し、その動向をよくチェックすることから、本田さんの「狩り」は始まる。「不満」を晒している人は、共感さえしてあげると取り込みやすい、というのが本田さんの持論。その際、標的を見つけるために作った本田さん自身のアカウントでも、事前に「会社がつらい」「学校が嫌だ」といった書き込みをし、プロフィールも変更。フォローされると、そのアカウントはどんな人なのかと確かめることがあるが、そういう時に、少しでも共感してもらえるよう、下準備を行っておくというのだ。さらに──。

「チェックの過程で、他のSNSアカウントがないかも探しておきます。不満をこぼしているのは匿名のサブアカ(サブアカウント)であることが多く、本名で利用している本アカ(本当のアカウント)に紐付けられればベスト。意外とこの辺りをバレバレな状態にしている人は多く、すぐに見つかることも少なくありません」(本田さん)

 SNSでは一人で複数のアカウントを持つことが珍しくなくなっている。リアルの自分や交友関係と地続きのアカウントについては「本アカウント」、略して本アカ、特定の趣味に特化したり、リアルの友人たちには知られないように別につくられるアカウントは「サブアカウント」、通称サブアカと呼ばれている。本アカとサブアカは、一見、繋がりがないように装われているが、フォローの傾向や投稿の時系列などを丹念に調べると関連性が見えてくる。サブアカしか知らなかったユーザーの本アカが見つかると、芋づる式に本名や居住地域などの属性が明らかになることが多い。普通の人が日常生活を投稿すると、いつのまにか個人の特定に繋がる情報を漏らしているものだからだ。その、普通の人の普通の行動のすき間につけ込むのが、本田さんのような人たちだ。

 本田さんはサブアカ、そして本アカを見つけると、そこで本名など個人が特定できる情報を集める作業に移る。本アカも匿名で登録していたとしても、他のSNSへの登録を探すと、一つくらいは本名で登録しているものが見つかるからだ。そこまで情報を集めてから、狙いをつけたアカウントのユーザーが「ターゲットになり得るか」を検討する。不満を吐き出していることに加え、本人の年齢や居住地、所属や趣味までわかることもあり、ここまでくればいよいよ「接触」に移る。

「私の場合、こうして見つけたアカウントを整理し、表計算ソフトでまとめていました。ターゲットがどういう属性で、どんな不満を持っているかを把握して、ターゲットに響きやすい書き込みをしたり、ダイレクトメールを送る。100通送って反応があるのは半分くらい。会いに持っていけるまでは数件。でも会えば、こっちのものです」(本田さん)

 ターゲットの被害者側からすると、何でも悩みの相談に乗ってくれるSNSで知り合った人であり、その出会いに感謝する人もいるという。それもそのはず、本田さんはその時点で、ターゲットに関するあらゆることを知っていて、趣味も嗜好も嫌いなものも把握しているのだから、ターゲットにとって理想的な人間を演出できるのである。

「ターゲットが犬好きならペットの話題を、出身地が東北なら、私も東北の出身だと偽って、調べておいたローカルネタをぶつける。一方的にその人の属性を知っている、というのはこちらに有利な人間関係をつくることができる、ということです」(本田さん)

 裏アカに罵詈雑言を書き込んでいた人物を見つけても、そちらではなく、裏アカから紐づいた本名のアカウントの方に接触するのも、本田さんが自身に課せていた鉄則だった。

「裏アカって本音でしょう? ターゲットに会って楽しく世間話なんかしていたりして、あなたの悩みはこうなんじゃない? って占いみたいなことを言って揺さぶる。まさか裏アカを私が知っているとは思ってもいないはず。そうすることで、この人は何でも知っている、見透かされていると少しでも思ってくれたら、もう洗脳したのとほとんど同じというか」(本田さん)

 誰にも言っていないことをこの人には見透かされている、と衝撃を受けたターゲットが、本田さんに心酔し、何を言っても信用してくれるようになり、服従のポーズを見せてきたら、今度は一切のSNSを辞めさせる。

「あなたにSNSは向いていない、とか適当なことを言っても、何でも信じてくれる。あとは何を言っても言うなりですよ。金持ちになりたいなら金を出せ、仲間や親を売れ、幸せになりたいならこの宗教を広めろ……。怪しい商売や宗教だけでなく、SNSを使って人を集める場合、このやり方はかなり効果的です」(本田さん) 筆者は以前、SNSを使った犯罪について取材する過程で、全く同様のことを「強盗組織」が行っているという実態を目にしたこともある。SNSを通じてターゲットの属性、生活パターンを洗っては、安全に強盗に入ることができるタイミングを見計らう。被害者は自身のSNSを強盗がチェックしているとは夢にも思わないだろう。そのことを思い返しても、やはりSNSは情報の宝庫であり、その情報を使い、悪意あるものたちが跳梁跋扈している現実があるのだ。

「新入生狙いだけでなく、成人式の前後には新成人ツイートを集めて吟味する。未成年でなくなっているから金も借りられるし、ローンだって組めるからマルチ系をやっている人間からすると格好のターゲット。コロナでパーティーや飲み会ができず勧誘の機会が減って若者はどんどんSNSに依存しているから、この手法は、どんどん拡大していくでしょうね」(本田さん)

 疑心暗鬼になって、全てのSNSを使わない方が良い、とは言わない。だが、社会経験の乏しい未成年や新社会人、強烈な不満を持った人は、誰にも言わない本音をSNSに書き込みすぎてしまう場合も多いことを考えると、やはり使い方には気をつけた方がいい。匿名であれば大丈夫、なのではなく、匿名だからと気を許してしまうと自身の「隙」が生まれ、悪意をもった人につけ込まれることがあるのだと、しっかり肝に銘じておく必要があるだろう。

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