なぜヤクザは「負のサービス産業」と呼ばれるのか

なぜヤクザは「負のサービス産業」と呼ばれるのか

ヤクザの稼ぎ方を詳しく分析する溝口氏

 暴力団が絡んだ抗争事件や経済事件などはしょっちゅう報じられているが、そもそも彼らがどのように稼いで生活しているのかという根本を解説した記事はほとんどない。

 長年暴力団取材を行ってきたノンフィクション作家の溝口敦氏は、フリーライター・鈴木智彦氏との共著『職業としてのヤクザ』(小学館新書)で、知られざるヤクザ業の本質に迫った。

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 ヤクザ業の本質は「つまみ食い」です。簡単に儲かりそうなネタに出合うと、その仕事が合法か、非合法かに関係なく参加したがります。

 もし彼が金持ちのヤクザであるなら、持ち金を遊ばせておくより、カネにカネを稼がせてやろうと、そのネタに資金を突っ込みます(出資や投資)。

 たとえば金インゴットの密輸です。日本では金の買い取りに消費税10%が加算されます。海外では金の売買に消費税や付加価値税がかからない国がいくつかあります。そういう国で金インゴットを買い付け、帰国し、日本の税関を無申告で通って、国内の貴金属商にインゴットを売却すれば、買い値に10%の消費税を上乗せしてくれます。

 これで消費税分10%の丸儲けになります。

「これはいいや。香港(金の売買が非課税)ぐらいなら航空代もタカが知れている。4キロも買い付けて日本に持ち込めば確実に儲かる」

 と、始められたのが金インゴット密輸でした(現在は新型コロナウイルスによる格安航空機の運航停止と、日本の通関業務の厳格化でほぼ不可能)。

 つまりこうした金塊密輸に買い付け資金を出資する金持ちヤクザもいるし、計画して密輸団を動かすヤクザもいます。カネがまるでなく、単に密輸団に加わって金塊の運び屋になるヤクザもいるわけです。

 ヤクザは一つの商売にしがみつきません。もう儲からないと見たら、パッとやめます。

 唯一、長期継続的に手掛けているのが覚醒剤の密輸と国内販売です。国内には多数の依存症患者がいます。依存症の人は違法であっても、覚醒剤を摂取したくて仕方がない。そこに根強い需要が生まれます。違法であっても、誰かが依存症者に覚醒剤を届けるというサービスを買って出ます。それがヤクザなのです。

 だからヤクザは負のサービス業に従事していると言われるわけです。違法の業だから逮捕・服役の危険がある。しかし、その分、競争率は低い。カタギの人は覚醒剤みたいな危ない物には触れません。使用も所持も売買も譲渡もすべてご免です。手掛けるのはヤクザぐらいですから、当然、その分、利幅は大きくなり、たっぷり儲けることになります。こういう事情で覚醒剤がヤクザの伝統的なシノギになりました。

かつては社会的な需要があった

 伝統的なシノギとしては他に恐喝、賭博があります。

 恐喝は、俺は何々組の何某だ、カネを出さないとひどい目に遭わせるぞと、カネを脅し取る犯罪です。しかし、これは被害者の前に最初から姿を現し、かつ所属を明らかにしていますから、逮捕される度合いが高い。だから今は年々減少している犯罪です。逆に被害者とは電話の折衝とカネの受け渡しだけで、顔も所属も明らかにしないオレオレ詐欺など特殊詐欺のほうが儲けが大きくなるわけです。

 賭博は違法で、警察に徹底的に家宅捜索を繰り返されたり、賭博参加の客に迷惑を掛けたりするので、今、常設の賭場などはなくなりました。わずかにバカラ賭博などをやらせる闇カジノと、フィリピンの本物カジノと中継でつながっているなどと称するネットカジノがひっそり行われている程度です。

 負のサービス産業として、かつてヤクザに社会的な需要があったのは債権取り立て、地上げ、倒産整理などです。

 債権取り立ては、繁華街のクラブなどで客の何某がツケを溜め込んで払わない。取り立てたら、取り立てた額の半分をやるから、代わりに取り立てて、と頼まれるシノギです。

 現在、債権取り立ては弁護士に限り、ヤクザが手を出したらアウトなのですが、短時間で効果が出たのはむしろヤクザのほうだったはずです。ぷよぷよ体型の弁護士がやって来ても屁とも思わない踏み倒し常習の客がいます。彼らが怖がるのはむしろヤクザの暴力でしょう。

 地上げは地価が年々上昇していたころの話です。人が住んでいる土地を建物ごと買い上げ、住民に出ていってもらって、更地にすることを狙います。これも不動産業者が交渉してラチが明かないとき、ヤクザが依頼されて出張り、住民を脅しあげ、それでもダメなら糞尿を撒き、火をつけ、身柄をさらうなどの暴力を振るいます。それで出ていってもらうのです。

 倒産整理は倒産しそうな会社にいち早く乗り込み、少しの融資を餌に会社の資産を叩き売り、債権者会議を牛耳って自分だけ儲けるシノギですが、これは専門知識が必要なため倒産整理屋という業者が存在しました。彼らがヤクザの傘下に入ったから、倒産整理もヤクザのシノギになったわけです。

ヤクザが生き残るためには

 しかし、この手のシノギはすべて暴対法で中止命令が出され、二度繰り返すと逮捕・禁錮もあり得る犯罪になりました。おまけに何でもないふつうの商売がヤクザに限っては、暴力団の資金源になるという理由で警察の干渉を招き、結果的に正業もダメというのが現在です。

 では、ヤクザはどうしたらいいのでしょう。前記した通り、違法だけど、なんとかシノギになるのは覚醒剤ぐらいなものです。しかし、ヤクザ全員がシャブの密売をやれるほど、市場は大きくない。また特殊詐欺はもともと半グレが始めたシノギですが、ヤクザがそれを導入することがすでに始まっています。しかし、特殊詐欺の被害額も近年は減っている現実があります。

 今置かれた状態を将来に延長すると、ヤクザは食うな、存在するな、といわれているのと同じです。ヤクザが生き残るためには、せめてヤクザがふつうの商売、仕事をやることを認めようという世論が盛り上がる必要があります。

 ヤクザが法令を守るなら、飲み屋をやってもいいし、土建業や人材派遣業、建築物の解体業、あるいは警備業、ビルのメインテナンス業など、負のサービス業ではない、正のサービス業への従事を認めることしかないでしょう。

 それとヤクザにとって望ましい制度改正は、組をやめた後、5年間はヤクザ並みに扱うとする各業界の暴排条項を撤廃させることです。広く知られたことですが、今は元ヤクザでも新しく銀行口座を開けません。そのためサラリーマンになっても給与の自動振り込みができない。民間アパートでも借りるのが難しく、車を買うんでもローンを組めず、スマホさえ買えない。

 このまま進むとヤクザという職業は存在できず、ヤクザがそのときどきに行うシノギも遂行できない。ヤクザはヤクザから脱落し、半グレに加わり、半グレからも脱落して、単に常習的に犯罪を行う人たちへ零落するはずです。

 ヤクザがなくなったおかげで犯罪のない平和な社会が実現するかといえば、単に悪事に手を染めるカタギが最近、増えたってことになるでしょう。半グレでなく、国民の大半が禁止法令を守らない。隙あらば、隣人の物さえ奪って恥じない国民ばかりとなったら、さぞかし日本は住みにくい国になるでしょう。倫理性のない後進国への後退です。

※溝口敦/鈴木智彦著『職業としてのヤクザ』(小学館新書)より一部抜粋

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