リクエストが鳴らない20代のウーバー配達員「コロナは潮時を教えてくれた」

リクエストが鳴らない20代のウーバー配達員「コロナは潮時を教えてくれた」

街をゆくフードデリバリー配達員(イメージ、Sipa USA/時事通信フォト)

 2021年4月、新型コロナウイルスによる3回目の緊急事態宣言が発令された。走り抜けるフードデリバリー配達員の姿も、すっかり今では珍しくなくなった。色々と批判も多いフードデリバリーだが、雇用の調整弁にされている非正規労働者たちの駆け込み先としての側面があるのは否めない。俳人で著作家の日野百草氏が、失ったバイト収入の代わりにと急遽、配達員を始めた若者の困窮と諦観についてレポートする。

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「バイトが飛んだからやってるだけです。でも稼げませんし辛いですね。店に来る彼らを見てたんで、自分もやってみるかって感じだったんですけど」

 東京秋葉原、歩道に佇むウーバーイーツの配達員である彼は地蔵と化していた。地蔵とはデリバリーの指名待ちで店の近くに集まっている配達員のことだが、いつもの地蔵と様子が違う。あきらかに余裕がない。なんだかおどおどしているので声をかけたら、案の定の新人配達員だった。

「みなさん凄いですよね、ガンガン鳴ってますもん。どうして俺、鳴らないんですかね」

 リクエストが鳴らないのはたまたまだろう。AIで選ばれているので鳴るか鳴らないかは神のみぞ知る、である。もちろんベテランともなると場所を移動したり、鳴りやすくなる裏技を駆使したりする配達員もいるが、それで実際に鳴りやすくなるかどうかの確証はない。ともあれ、始めたばかりの彼からすれば鳴らないことは仕事にならない。不安になるのは無理もない。実際、まだ数件しか配達したことはないという。

「(飛んだ)バイトは居酒屋です。5月の11日まで休みになっちゃって……生活あるんで、とりあえずつなぎでウーバーって感じです」

 彼のことはトリキさん(20代、仮名)とする。ウーバーはともかく、バイトが飛んだのはかわいそうだ。東京都3度目の緊急事態宣言は多くの商業施設、店舗を休業に追いやった。これまで同様、休業要請に応じた事業者には協力金が支払われるが、それが従業員、末端の非正規まで届くかどうかは事業者次第だ。

「もちろんバイトには(休業補償)ないです。他でなんとかしろって店長も言ってます。正直(店の)売り上げ下がってシフトも削られまくってたし、店がなくなっちゃうかもって状態なんで、しょうがないかなと思います」

好きと出来るは違うんですよね

 トリキさんは学生ではない。地方の私立大学を卒業後、新卒で就職した会社を数年で辞めた後はフリーターで生活してきたという。

「去年までカラオケ店も掛け持ちしてたんですよ。でも社員でまわすからバイトはいらないってクビです。他探そうとは思ってたけどコロナで下手に動いてもって感じで、ひとまず居酒屋だけにしてたんです」

 バイト2つを掛け持ちしていたときはフルで入って20万以上は稼げたという。足立区の古いアパート住まいなので家賃は安いし駅から遠くても中古で買った10年落ちの110ccスクーターがあれば不自由はない。この相棒がいるから手っ取り早くウーバーという選択肢ということか。都内でウーバー配達なら30km制限も2段階右折もない原付2種は最強だ。

「はい。休みが明ければ店も再開してバイトは続けられますから。あくまでウーバーは来月分の足しになればって感じです」

 足立なら埼玉も近いし聞けばバイト先は大手居酒屋チェーン、ゴールデンウィーク中は埼玉の他店舗にまわしてもらうことはできないのだろうか。

「断られました。埼玉(の店)も時短営業で売り上げ厳しいからバイトはいらないって。暇だし売り上げもないから社員でまわすしかないんでしょうね」

 長引くコロナ禍、非正規労働者を切って正規労働者を維持する事業者が飲食、小売を中心に拡大している。じつのところ、2019年までは非正規に限れば労働者の売り手市場であり、とくに若者は極端な少子化と若者重用の求人市場にあってバイト先は選び放題であった。

「そうなんです。まさかコロナになるなんて、こんなに長引くなんて思いませんでした。これなら(新卒で入った)会社を辞めなきゃよかったと思います」

 筆者は昨年から取材や交友のたび正社員の方に「絶対に辞めてはいけませんよ、死んでもしがみついてください」と忠告している。コロナ禍の理不尽な出社やクライアント対応、不機嫌な会社と人間関係に辟易しているサラリーマンは多いだろうが、特殊な能力で糧を得ている者や代々の資産家ならともかく、何であれ一定金額が降ってくる身というのは先行き不透明な疫禍において絶対に手放してはならない地位だ。あえて地位と言わせてもらったが、日本における一般市民にとっての唯一まともな社会保障こそ「正社員」である。まともな社会保障を手放してはならない。

「そういうのって学校は教えてくれないんですよね。放り出されたあとに自分で知るしかないわけで。好きと出来るは違うんですよね」

 好きと出来る ―― トリキさんがフリーターを続けるには夢があったのだろう。その「好き」と「出来ないこと」は教えてはくれなかったが、何も果たせないまま生活するだけ、東京にしがみつくだけだという。そうは言っても彼はまだ20代、コロナ禍とはいえ十分に挽回のチャンスはある。幸いにして少子化は解消されていない。20代なら何処かしら採用してくれるはずだ。

「何をしたらいいかわかんないんです。自分に向く仕事もわかりません。食いつなぐのにどうしたらしか考えられません、コロナがある意味、潮時を教えてくれたというか」

あの10万円は助かりました

 誰もが夢を叶えて食えるわけもないし、誰もが夢を持つ必要なんて本来ない。日本の学校教育の悪しき慣習こそ夢の強制である。生き方を教えず夢を強制する。世間知らずの教師の自己陶酔が子供たちを夢の奴隷にする。お花畑の無責任な夢の肯定でごまかす。とくに中高年の教師はイデオロギーにまみれた連中もいてやっかいだ。「みんな夢を持ちましょう」「それでは夢を発表してください」―― 生き方の伴わない夢を強制することは、それこそ将来的な夢の成就の妨げである。

「シフトも(緊急事態宣言後は)さらに減りそうですし、サラリーマンに戻るのも、そろそろかなと思ってました」

 長引きそうなコロナ禍である。夢はひとまず置いて、正社員で再就職という「一時避難」は賢明だ。フリーターでも40歳過ぎの中高年男性は厳しいが、20代大卒男子ならなんとかなる可能性は高い。実際、20代を対象にした求人熱はこのコロナ禍でも高いまま、これにより40代から上の中高年は蚊帳の外だ。新卒という新車が一番欲しいが、ワンオーナーくらいの中古車もまた手ごろでいい。しかし40代、50代でも経験や実績というプレミアのついた旧車ならともかく、未経験で価値のない旧車はいらないというのが経営者のリアルだ。例えばの話だが、こういうことを平気で口にする銀行幹部は普通にいる。こういう現実も学校は教えてくれない。

「いますぐは無理ですけど、言われたとおり再就職、考えます」

 雇用の格差はこれからさらに広がる。非正規の大半は休業手当も貰えず補助金も降ってこない。厚労省は今年一月中旬の緊急事態宣言再発令でとくに悪質な大手25社に休業手当を支払うように文書で要請したが、全社が拒否した。多くはトリキさんのバイト先である居酒屋を始めとした飲食チェーンだった。

「俺も払われてません。でも店も苦しいから、それは仕方ないなと思ってます。コロナとか出てないんですけどね、社員さんもかわいそうです」

 会社も大概だが前述の通り、外食産業は苦しい経営どころか存亡の危機だ。多くの店はクラスターなんか出していない。出しているかもしれないが、決めつけられないし決めつけられる側からしたらたまったものではない。窮してなのか悪辣なのか、被雇用者に対して支払われることが前提の休業支援金・給付金を一円も渡さず丸パクリしている店もあるという。それでも非正規の大半はシフトの確保のほうが大事、文句は言わないのだろう。そもそも、国が昨年のように全員に10万円を渡せば済む話なのに。

「あの10万円は助かりました。今回も貰えれば、家でおとなしくしてました」

 そう、国はそんなまどろっこしいことをしていないで国民一人あたり10万円、特別定額給付金をまた配ればよかったのだ。トリキさんの言うように非正規はゴールデンウィークを食い凌ぐことができるし、それこそ外出自粛の一助となる。金持ちはどうする、借金を増やすのかという問題は今に始まった話でなく、いつまでも改善する気のない日本の税制の不平等によるものであり、この件とはまた別個の話である。生活保護にまで追い詰められるような層は補正予算含め福祉問題として対策されているが、トリキさんのような一般の低所得労働者は後回しになっている。彼らにこそ10万円が必要だ。

 その後、どんな仕事がいいだろうかと話しているうち、トリキさんのスマホがようやく鳴った。リクエストだ。「よかったあ!」と素直に喜ぶトリキさん。いろいろ言われているフードデリバリーサービス、筆者もこれまで問題点を幾度となく指摘してきたが、こうした人にとって幾ばくかの救いになっていることは確かだ。

 日本国民は本当に優秀で、このコロナ禍もよく堪えている。マスクごときで暴れるようなごく一部の跳ね返り者はいるが、アメリカ(死者50万人)やブラジル(死者30万人)のとんでもない国に比べれば優等生だ。トリキさんだって何の補償もない状況では働かざるを得ないだけで、好き好んで外に出ているわけではない。そんな従順な国民につけ込んで政府は、お前らが感染を拡大させている、お前らが外に出るから、会食するから、酒を呑むから悪いと責任を押しつける。そのくせ日本中で聖火ランナーを走らせ、オリンピックで9万人のそのアメリカやブラジルを始めとした選手関係者を日本に入国させようとしている。ましてや貴重な看護師や看護学生を500人もオリンピックによこせと強要する様は令和のひめゆり部隊である。いったい国はなにをしたいのか。バカな大将、敵より怖い。

 もっともこの3回目の非常事態宣言、街の様子を見る限り、これまでほどは日本国民も協力する気はないようだ。すべてこの1年間、結果的に国はなにをしてきたのかという不信感と、本当に打つ気があるのかというワクチン接種のずさんぶりによるものだ。そして日本国民の命よりオリンピックと利権を優先する異常な連中の増長が、またぞろ日本を敗戦に導こうとしている。

【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、新俳句人連盟賞選外佳作、日本詩歌句随筆評論協会賞評論部門奨励賞受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)、『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太に愛されたコミュニスト俳人 』(コールサック社)6月刊行予定。

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