改憲で天皇の地位は「元首」に変わるのか、次の時代の役割変化は?

天皇陛下の生前退位に過去には批判も 象徴としてのあり方について議論

記事まとめ

  • 公務ができないから生前退位したいという天皇陛下には、批判の声が出たこともある
  • 皇太子殿下が天皇即位すれば戦跡訪問はなくなり、文化外交が増えると予想されるという
  • 皇位継承について、養子を認める手法も考えたほうがいいのではと現代史の専門家は語る

改憲で天皇の地位は「元首」に変わるのか、次の時代の役割変化は?

改憲で天皇の地位は「元首」に変わるのか、次の時代の役割変化は?

現代史家の秦郁彦氏

 平成の世を通じ、天皇は象徴天皇としてあるべき姿を模索してきた。だが、歴史を俯瞰すれば、天皇の意思に反して時の権力者が都合のよい天皇像を作り上げた時代も少なくない。“ポスト平成”に天皇像はどう変化するのか。現代史の専門家・秦郁彦氏と中世史の専門家・本郷和人氏が歴史を踏まえて考察する。

秦:天皇の権威は現在まで続いているわけですよね。アメリカでさえ、天皇制をなくさなかった。戦後憲法でも、国家の象徴としての地位を与えられました。

本郷:その憲法を安倍内閣は改正しようとしていますが、もし改憲が行われたら天皇の地位は変わると思われますか? たとえば明確に「元首」に戻るとか。

秦:表向きにはしないでしょう。ただ、事実上の元首として扱う。いまでも諸外国が天皇を元首と見なしたときに、政府はわざわざ否定しませんよね。

本郷:これまでの歴史を踏まえても、天皇陛下の存在は現在の象徴という形がピッタリ合うんですよね。天皇が先頭に立って政治をやろうとすると、あまりよろしくないんです。

秦:自らの発意で天皇親政をやろうとしたのは後醍醐天皇ぐらいでしょう。

本郷:あとは後鳥羽天皇もそうですね。

秦:昭和天皇も、敗戦直後は政治家や軍人の重鎮がいなくなったので、マッカーサーの占領軍が統治していた7年間は実質的な国のトップとしてわたりあいました。しかし占領が終わると、象徴の立場に戻った。権力の発動に関わらないのは、天皇にとっても救いでした。

本郷:いまは、その象徴としてのあり方についても議論があります。

秦:保守派の中には、「象徴らしくあまり動かず静かに祈っておられたほうがよい」という声がありますね。被災者と膝を折って話すとか、旧戦地を慰問するとか、そういうことに違和感を抱く人たちがいる。

本郷:公務ができないから生前退位したいという陛下に対して、「自分で公務をつくっているのに何をいってるんだ」という批判が出たのには驚きました。皇太子殿下が天皇になられたら、スタイルを大きく変えると思われますか?

秦:徐々に変わるでしょうね。すでに国際性を重視する自分なりのスタイルを築きつつありますから、文化外交のような公務が増えるかもしれません。大戦の遺族もほぼいなくなりましたから、戦跡訪問はなくなると思うんですよ。

本郷:将来的には皇位継承のことも大きな問題になります。男系男子のままで行くのかどうか。

秦:悠仁さままでは皇位継承者がいるので、まだそんなに慌てる必要はないという考え方もあるんですよ。ただ、まわりに同年代の皇族がいないのはお気の毒ですよね。僕は昔からの日本の旧家のしきたりにならい、養子を認めるという手法も考えたほうがいいんじゃないかと思います。

本郷:そうすると血がつながりませんよね? それとも血のつながりのある男性を養子にする?

秦:できればそのほうがいいでしょうが、これまでの血のつながりについても、科学的な観点からすると「絶対」はあり得ないでしょ。

本郷:では、女性天皇や女系天皇を認めるより養子のほうが良い?

秦:養子は男系を維持する方法ですよね。養子制の良いところは「選別ができる」こと。宮家の当主が生きておられるあいだに養子を選ぶのです。

本郷:ちゃんと調べて「こんな危ない人はダメ」と言えるということですね。

秦:そうです。法的には当主に選別の権限がある。

本郷:昔の華族のやり方を考えると、そのほうが座りは良いかもしれませんね。

秦:天皇制は、無形文化財であることが最大の存在意義だと思います。だから、なるべく伝統に手をつけないほうがいい。よほどのことがないかぎりそのまま継承していくのが賢明です。こういう問題は理屈でいくら議論しても結論が出ないし、論議していると溝ができてしまう。

本郷:たしかに、どう変えても反対意見はなくならないし、相手を「非国民だ」などと罵る人も出てきますよね。しかし、いまの天皇陛下の振るまいを見ていると、みんな穏やかな落ち着いた気持ちになれる。そういう点は、次の天皇も父君の路線をひとつの指針にされるかもしれません。

【PROFILE】はた・いくひこ/1932年山口県生まれ。現代史家。東京大学法学部卒。大蔵省入省後、防衛大学教官、大蔵省財政史室長、プリンストン大学客員教授、拓殖大学教授、千葉大学教授、日本大学教授などを歴任。著書に『靖国神社の祭神たち』『慰安婦問題の決算』『実証史学への道』などがある。

【PROFILE】ほんごう・かずと/1960年東京都生まれ。東京大学史料編纂所教授。中世政治史が専門。東京大学文学部卒。東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。近著に『軍事の日本史』『考える日本史』『やばい日本史』などがある。

※構成/岡田仁志(フリーライター)

※SAPIO2019年4月号

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