グーグルvsソフトバンク 雌雄決する場は「地図・自動運転」

グーグルvsソフトバンク 雌雄決する場は「地図・自動運転」

地図情報がビジネスの鍵になりそうだ(孫正義氏)

 世界のインターネットビジネスのトップを走るグーグルと、孫正義会長(61)率いるソフトバンクグループには時価総額にして67兆円の開きがある。果てしなく大きな差に思えるが、孫氏は“巨人の背中”をはっきりと視界に捉えている。両者が雌雄を決する舞台は「地図データ」、その先に広がる「自動運転」という巨大市場だ。

◆「グーグルマップは使いたくない」

「道路が表示されない」
「海の上に学校がある」
「皇居から二重橋が消えた」

 3月21日以降、地図サービス「グーグルマップ」に不具合が生じ、ユーザーからの“苦情”が相次いだ。

 グーグルマップは、全世界で利用者10億人を誇る地図サービス。スマホ上で現在地を把握したり、目的地までのルート案内や周辺施設の検索などができる。スマホやパソコンのグルメガイドなどにも多く採用されているので使ったことがある人は多いだろう。

 混乱の背景には、グーグルマップが使用する「地図データ」の存在があった。ビジネス誌『経済界』編集局長の関慎夫氏が語る。

「グーグルは2005年以来、国内地図大手・ゼンリンから地図データの提供を受けてきた。ところが、グーグルがゼンリンから受け取るデータを大幅に減らす契約に変更したことが、日本国内でのマップの不具合の原因になったとみられています。

 これまではグーグルマップの著作権表記欄にはゼンリンと記されていましたが、不具合が生じた21日以降、ゼンリンの名前が消えている。グーグルは長年地図データの提供を受けたゼンリンに頼らず、自前の技術と情報でグーグルマップ事業を運営することにしたのではないか」

 グーグルとゼンリンは契約変更に関する詳細を明かしていないが、“世界のグーグル”との関係の変化を受けて、ゼンリンの株価は22日にストップ安になった。

 実は、グーグルマップの異変が発生する2日前(3月19日)、ゼンリンとの提携を発表した企業があった。

 それは米国に拠点を置く地図製作サービス「マップボックス」。ソフトバンクの孫正義会長らが設立した「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」が出資するベンチャー企業だ。

 グーグルから離れたのとほぼ同時期に、ソフトバンクの出資企業と提携を発表──ゼンリンの“電撃移籍”はIT業界では重要な出来事として受け止められている。

 元ソフトバンク社長室長で、孫氏の側近だった多摩大学客員教授の嶋聡氏が指摘する。

「今回の提携は、孫さんによるグーグルへの“宣戦布告”です。孫さんは長年にわたって対グーグル戦略を虎視眈々と練ってきました。『IT企業は30年で限界を迎える』が持論の孫さんにとって、創設21年目のグーグルは、これからピークアウトしていく企業。ソフトバンクがグーグルに挑むには、今が絶好のタイミングと踏んだのでしょう」

 孫氏は昨年7月に行なわれたソフトバンクの法人向けイベント「Softbank World 2018」でこう発言している。

「(我々のように)グーグルと競合しているいろんな他の会社は、グーグルマップを使いたくないわけですね」

 その挑戦的な物言いからは、「グーグル超え」を目指す孫氏の姿勢が見て取れる。

◆自動運転が産む「巨大な富」

 孫氏とグーグルが「地図データ」を重要視するのは、アプリ利用における地図の利便性に留まらず、地図データが「自動運転」技術のカギになるからだ。自動車ジャーナリストの桃田健史氏が解説する。

「将来、自動運転車両が無事故で公道を走るためには、人間の操縦がなくとも正確に道路を走行できる高精度の地図情報が不可欠です。それも、現在カーナビやスマホで使われている地図ではなく、車線の広さや道路の起伏、高さ制限などを含めた『立体地図』が必要になります。

 それゆえ、地図市場は現在の規模から今後大きく成長する可能性が高い。グーグルも孫氏も、自動運転車両の実現を睨んで、高精度の地図情報を集めるために動いているのです」

 グーグルは、親会社アルファベット傘下の「ウェイモ」が、世界に先駆け10年から自動運転車両の開発に取り組んできた。

 昨年までに、公道での実証実験の走行距離は地球400周分に相当する1600万kmに達し、昨年12月、米アリゾナ州フェニックスで世界初となる自動運転の配車サービスをスタートさせた。現状は運転席に人が座って自動運転を監視しているが、将来的には完全自動化される見通しだ。

 一方の孫氏も、アメリカや中国のカーシェアリング(自動車の共同利用)事業者への投資や、半導体メーカーを買収し、準備を進めてきた。

 全世界における地図ビジネスの市場規模は、2024年までに4兆円程度に膨れ上がると予測されている(グローバル・マーケット・インサイトの調査)。そして自動運転車両が実用化されれば、関連市場の規模は2050年までに約740兆円に達するという試算もある(米調査会社ストラテジー・アナリティクスの調査)。

 国内最大手のゼンリンと手を組み、正確性の高い地図データを用いて自動運転技術の開発を進めれば、未開の巨大市場をリードできる。ゼンリンはそのための“宝の地図”になり得るというわけだ。

 孫氏が自動運転の覇権を狙うのは、市場だけでなく、「情報の獲得」を重要視しているからでもある。

「たとえば、グーグルの検索サイトで検索された情報は蓄積され、個々のユーザーの嗜好に沿ったネット広告を効果的に出すことで、収益に繋げられています。

 そのように、自動運転車両が実現すると、走行中に得られる地図情報や顧客データを蓄積して、それを軸にしたビジネス展開が可能になります。かつて、ネット企業がサイトビジネスを通して情報収集した舞台がパソコンからスマートフォンに移ったように、これからの時代は、自動運転車両が情報の宝庫になると、孫氏は考えているのではないでしょうか。そして、それは次世代ビジネスの主軸になり得るのです」(関氏)

 前述した昨年7月のイベント「Softbank World 2018」で、孫氏は「グーグルマップを使いたくない」と言い放った後、こう続けている。

「なぜなら、(グーグルマップを使うと)グーグルに自分の顧客データを全部吸い取られるから」

 孫氏が自動運転技術の将来性を見据え、着々と布石を打ってきたことは、ソフトバンクグループの投資先を見ても一目瞭然だ。前出・嶋氏が語る。

「ソフトバンクはここ数年、米ウーバーや中国の滴滴出行など、カーシェア事業者への投資を進め、今や世界人口の1位から4位の国(米中に加えて、インド、インドネシア)で、カーシェアを展開する企業の筆頭株主となっています。

 その背景には、自動車は現在の若い世代にとって『所有するもの』ではなく『利用するもの』だという孫さんの現状認識があります。カーシェアや、登録した運転手の車が会員を送迎するライドシェアが、近い将来の主流になることを見据えて投資先を選んでいるのだと思います」

 さらに、2016年にはイギリスの半導体設計会社・アームを、過去最大規模の3兆3000億円で買収した。前出・嶋氏は「これも自動車用半導体の普及を見据えた孫さんの戦略」と話す。

「アームが製造する半導体は、現在流通するスマートフォンの9割以上に使われていますが、今後の半導体の需要はスマホだけでなく、自動運転車に搭載される半導体チップにまで広がっていくことを見越せば、3兆3000億円でも決して高い買い物ではないと孫さんは考えているはず」(嶋氏)

※週刊ポスト2019年4月12日号

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