「働き方改革」で新たな間接業務が増え日本はさらに衰退する

「働き方改革」で新たな間接業務が増え日本はさらに衰退する

働き方改革は「愚策の極み」?

 4月から施行される働き方関連法の数々で、日本は働きやすい国になるのか。経営コンサルタントの大前研一氏が、政府が盛んに推進する「働き方改革」の行方とその愚について解説する。

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 4月1日から「働き方改革関連法」が施行された。その概要は以下の通りだ。

【時間外労働の上限規制】
 残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間。臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、年720時間以内、複数月平均80時間以内(休日労働を含む)、月100時間未満(同)。原則である月45時間を超えることができるのは、年間6か月まで。

【年次有給休暇(年休)の取得義務化】
 使用者は、法定の年次有給休暇付与日数が10日以上の全労働者に対し、「労働者自らの請求・取得」「計画年休」「使用者による時季指定」のいずれかの方法で、年5日以上の年休を取得させる必要がある。

【同一労働同一賃金】
 同一企業内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差を禁止。職務内容(業務の内容+責任の程度)と職務内容・配置の変更の範囲が同じ場合、基本給や賞与などの待遇について同じ取り扱いをしなければならない。

 この働き方改革について、私は法案の国会審議中から本連載や著書『個人が企業を強くする』(小学館)で「政府が“上から目線”で規制するのは的外れ」「企業経営に対する冒涜であり、無知・無理解の証左」「非正規雇用を拡大して伸縮自在の柔軟な雇用形態を認めるべき」「日本を100%間違った方向に向かわせる」「同一労働同一賃金ではなく、同一生産性同一賃金にすべき」「効率の悪い人材の温存につながる」などと繰り返し批判してきた。しかし結局、そういうお粗末な法律が施行されてしまったわけで、これは日本企業と日本経済にとって大きなマイナス要因となるだろう。

 そもそも、政府は働き方改革で何をやりたいのか? 厚生労働省のHPによれば、「投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ること」だという。たしかに日本の場合、先進国の中で唯一、20年以上にわたって実質賃金が上がっていないので、この問題を解決するためには生産性を向上させなければならない。

 ただし、本連載で何度も指摘してきたように、その最大の原因は間接業務のホワイトカラーの生産性が向上していないことである。日本の製造業は円高が進んだ1980年代に生産性を上げて競争力を維持するため、機械化・自動化を推し進めるとともに工場を海外に移した。だから日本企業のブルーカラーの生産性は、海外の企業と比べても全く遜色がなくなっている。

 一方、ホワイトカラーの仕事のやり方は全く改善していない。ホワイトカラーの仕事には定型業務と非定型業務があり、海外の企業は定型業務のアウトソーシングやIT化によってホワイトカラーの生産性を上げてきた。しかし、大半の日本企業は定型業務と非定型業務が霜降り肉のようにないまぜになっていて定型業務を標準化していないため、アウトソーシングもIT化もできないでいる。

 また、そもそも仕事のやり方が旧態依然である。たとえば、今や会議はネットを使えば世界中どこにいても参加できるのに、わざわざ支店や営業所から本社に呼び集めている。そうした従来の仕事のやり方そのものを変えずに一部だけアウトソーシングやIT化を行なっても、生産性は上がらない。

 仕事のやり方を本質的に変えるためには、ホワイトカラーの仕事に「キー・パフォーマンス・インジケーター(KPI=重要業績評価指標)」を策定し、それに基づいて定型業務の人員を大幅に削減しなければならない。そして、削減した人たちは営業、販売、商品開発などに移すか、極端に評価が低い場合は退社してもらう。そのような働き方改革を推し進めないと生産性は上がらないし、結果的に賃金も上がらないのである。

 ところが、政府がやろうとしている「時間外労働の上限規制」「年次有給休暇の取得義務化」「同一労働同一賃金」という働き方改革は、仕事の「内容」ではなく「外形」を変えようとしているだけであり、完全にポイントがずれている。しかも、すでに企業の人事労務部門をはじめとする従業員は労働時間の管理などのために新たな間接業務が増えている。また、中小企業庁の調査によると、大企業の働き方改革対応で、下請けの中小企業がシワ寄せを受けるケースが増えているという。これでは本末転倒というか、明治時代に逆戻りだ。働き方改革は実際には“働き方改悪”であり、まさに噴飯ものである。

※週刊ポスト2019年4月12日号

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