北アルプスを走るアルピコ交通が加盟「全国登山鉄道‰会」とは

北アルプスを走るアルピコ交通が加盟「全国登山鉄道‰会」とは

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 野球の打率で用いられる千分率は、他にも様々な場面で利用されている。4月7日に投票が行われた大阪市長選でも、大阪維新の会のビラに使われたグラフにも「‰」(千分率)という単位が用いられて話題になった。ライターの小川裕夫氏が、おそらく、日本で唯一の千分率が名前につく団体「全国登山鉄道‰会」についてレポートする。

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 全国で一斉に実施された統一地方選。今回の選挙では、知事と市長が入れ替わって立候補した大阪が特に注目された。

 その選挙中、街頭演説で維新が擁立した知事・市長候補の陣営はこれまでの実績をパネルで誇示。しかし、そこで使われたグラフに「‰」という、「%」に似ている単位が使われていた。

「‰」を巡って、ネット上では「『‰』なんて、見たことないww」「実績を盛っているww」と話題になった。

「‰」はパーミルと読み、1000分の1を表す単位だ。「%」が100分の1なので、1 パーミルは0.1パーセントになる。パーミルの語源はラテン語のper(〜につき) とmille(千)をあわせた言葉で、パーセントはperとcentum(百)をつなげている。

 パーセントと違って普通に生活をしていれば、パーミルを目にすることはまずない。かなり珍しい単位だが、パーミルを頻繁に使っている業界がいくつかある。そのひとつが、福祉業界。

 生活保護を受けている人の割合は、パーミルで表示する。だから、福祉業界や福祉関係の大学などでパーミルを目にする機会は多い。そして、福祉業界以上にパーミルが定着しているのが鉄道業界だ。

 鉄道は勾配に弱い。そのため、急峻な地形では勾配を緩やかにする工夫が凝らされている。天下の険とも歌われる箱根の山に線路を敷設している箱根登山鉄道の最急勾配は80パーミル。1000メートルで80メートルの高低差があるということになる。箱根登山鉄道では、スイッチバックと呼ばれる方法で、急な坂を上り下りしている。

 SL運行で有名な静岡県の大井川鉄道は、最急勾配が90パーミル。あまりにも急勾配のため、大井川鉄道は同区間をアプト式と呼ばれる特殊な歯車を使って走る。

 箱根登山鉄道や大井川鉄道のような勾配がキツい路線は全国でも数少なく、運行面においてもハンデになる。そうしたハンデを逆手に、集客につなげようという鉄道会社がある。

 2009年、南海電鉄は全国各地の急勾配路線を有する鉄道会社に呼び掛けて、全国登山鉄道‰会(‰会)を結成。南海電鉄営業部の担当者は、こう説明する。

「南海は高野線という山岳路線を抱えています。高野線は高野山に参詣する観光客が多く利用しますが、この路線を広く知ってもらうために急勾配をPR材料にしようと考えました。ただ、南海が単独でPRしても、全国への訴求効果は乏しいでしょう。そこで、急勾配を抱える鉄道会社に呼び掛けました。趣旨に賛同してくれた6社で、‰会を結成することになったのです」

 ‰会への加盟には、「沿線に観光地を抱え、登山鉄道の性格を有すること」という条件が課せられている。また、ケーブルカーやロープウェーは対象外だ。

 この条件に適合する鉄道会社は、全国にいくつかある。そのうち、南海の呼びかけに応じた箱根登山鉄道・大井川鉄道・叡山電鉄・富士急行・神戸電鉄の6社で活動をスタート。イベント開催やグッズ制作をはじめ、PR活動で連携している。

 ‰会の結成から10年、今年になって長野県のアルピコ交通が‰会に新加盟した。

 松本駅―新島々駅の約14.4キロメートルを結ぶアルピコ交通は、車窓に北アルプスの壮大な山々を称え、登山客が多く利用する。また、リゾート地で有名な上高地に向かう観光客の利用も多い。

 とはいえ、‰会に加盟している6社と比較すると、アルピコ交通は山岳路線や登山鉄道といったイメージが薄い。なぜ、‰会に加盟したのか?

「今回、新たに‰会に加盟した理由は、南海から『入会しませんか?』というお誘いを受けたからです。南海の担当者が弊社の路線に乗った際に、車内が大勢の登山客で溢れていたのがとても印象深かったそうです。その光景を見て、『ぜひとも‰会に』と誘われることになりました」(アルピコ交通鉄道事業部担当者)

 ‰会の6社は、路線に急勾配区間を抱える。しかし、アルピコ交通の最急勾配は21.4パーミル。これは山岳鉄道・登山鉄道といえるほどの急勾配ではない。実際、東京を走る都電荒川線の最急勾配は66.7パーミルといわれている。66.7パーミルはかなりの急勾配といえるが、都電荒川線を山岳鉄道・登山鉄道と感じる人は皆無だろう。

 ‰会への入会を誘われた当初、アルピコ交通の社内でも同様の戸惑いがあったという。しかし、‰会に加盟することでアルピコ交通の名前を全国にPRでき、乗客を増やすチャンスにつながるかもしれない。そう考え、アルピコ交通は‰会へ加盟を決めた。

 近年、登山ブームやアウトドアブームもあり、高齢者を中心にライトな山登りを楽しむ層が増えている。しかし、登山口までマイカーを使う愛好者も少なくなく、必ずしも登山鉄道や山岳路線の追い風にはなっていない。

 アルピコ交通が新加盟したことで、‰会は新たな魅力を発信できるのか? ‰会の今後に期待したい。

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