高齢ドライバーによる交通事故増加 免許返納だけが解決策か

高齢者ドライバーによる悲惨な交通事故相次ぐ 免許返納後に家族の負担増加も

記事まとめ

  • ライターは免許返納をした結果、高齢者と家族の負担を増やしている現状をレポート
  • 池袋の死亡事故など、高齢者ドライバーによる悲惨な交通事故が相次いでいる
  • 運転をやめ、息を潜めるように生きるべきだという圧力が醸成されているのではと指摘

高齢ドライバーによる交通事故増加 免許返納だけが解決策か

高齢ドライバーによる交通事故増加 免許返納だけが解決策か

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 高齢ドライバーによる悲惨な交通事故が起きるたび、その数日後には、免許返納をした老人とその家族が「返してよかった」と語る様子が報じられる。定型となりつつあるこの流れが、徐々に社会的な同調圧力を強めているが、免許返納によって激変させられる生活をどのように組み立てるかの対策はないままだ。ライターの森鷹久氏が、免許返納をした結果、高齢者とその家族の負担を増やしている現状についてレポートする。

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「とても寂しいが、事故を起こす前に決意した」

 熊本市の熊本中央署が、免許を返納した高齢者に「感謝状」を送ったというニュース。免許を返納した85歳の男性がこう話すと、娘や警察官がにこやかに男性を取り囲み、記念撮影に応じる──。

 ほとんど“美談”のような報道を眺めながら、京都府在住の会社員・中西聡さん(仮名・40代)の表情は硬いままだ。

「高齢者ドライバーによる自動車事故が相次ぎ、このような流れになるのは自然だということは理解できます。ただ、これでうちの親は、世間様から余計に白い目で見られることになるかもしれない。止むを得ず運転しなければならないという層について、具体的な救済策が敷かれないままにこうした風潮になったことは残念です」(中西さん)

 東京・池袋で親子二人が死亡した事故など、高齢者ドライバーによる悲惨な交通事故が相次いでいる。「高齢者に係る交通事故防止」という特集が組まれた平成29年交通安全白書では、75歳以上の運転者による死亡事故件数と割合が算出されている。それによると、2006年の420件で7.4%から2016年には459件で13.5%と上昇、件数自体は10年間ほぼ横ばいで推移しているが、死亡事故件数全体が減少する中、全体に対する構成比は上昇傾向だと結論づけられている。その結果、高齢ドライバーが引き起こした事故が、この数年で実際に増加しているように我々が感じるようになっている。

 全体の交通事故件数が減っているのにも関わらず、高齢ドライバーによる事故が増えているのは、我が国の超高齢化と関係していることは言うまでもない。高齢者に運転をさせるな、免許を取り上げろといった過激な論調も目立つ中で、各省庁、自治体も独自の取り組みを行なっているが、中西さんは“無視されている”と思わずにはいられないという。

「実家である佐賀県山間部に住む両親(共に80代)にとって、車は必需品。週に一回の市街地への買い出し、週に二〜三回の畑仕事に行く為には、どうしても車がいる。都市部では免許返納者にバスチケットを交付するなどされているようですが、佐賀の実家にはバスすらこない。福岡に住む兄弟と分担し、月に一度は帰省して買い物に連れて行くのですが、金銭的な負担もあるし、私がネット通販で生活必需品を送ってあげたりもする。昨今の報道を見た両親も車を運転することに抵抗を感じていて、以前ほど運転しなくなりましたが、自宅に閉じこもりがちになり、父親は足腰が一気に弱った」(中西さん) 車が無くてもどうにかなるという都市部住まいにはピンとこないかもしれないが、こうした人々にとって、車は生活の一部。あって当たり前。なければライフラインの確保すら難しい。鳥取県の山間部に両親が住んでいると言う都内在住のエンジニア・福永徹さん(仮名・50代)も、同様の悩みを訴える。

「老人から免許を取り上げろ、というのは乱暴かもしれませんが一理ある。しかし、車は高齢者にとって単なる移動手段ではなく、コミュニケーションの手段でもある。そうした現実を踏まえた上での議論がなされていないような気がします」(福永さん)

 福永さんの母親は、鳥取西部の実家に一人暮らし。70代後半まで車を運転し、週に一〜二回のペースで街に買い出しに出かけていたが、スーパーの駐車場で自損事故を起こし、スーパーの従業員や近隣住民から運転を止めるよう強く促された。ついには近隣住人から嫌味を言われるようになり、母親は車を鍵付きの納屋にしまい、鍵を福永さんの元へ送ってきたというのだ。

「週に一度、移動販売車が来るので生活はできる。しかし、趣味の日本舞踊や友人に会いに行くということはほとんどできなくなってしまいました。タクシーやバスを使えばいいと言われるかもしれないが、特に田舎の老人は公共交通機関を利用し慣れておらず、金もかかる。そもそも実家には、早朝に街へ行くバスと、夕方街から帰ってくるバスしかない。利用したくとも現実的な選択肢ではありません。高齢ドライバーの運転は確かに危険ですが、うちの母親などは“そのまま老いて死ね”と言われているような気持ちでいます。一連の報道を見て、そんな気持ちも押し殺す他ない、というのが本音でしょう」(福永さん)

 冒頭で紹介したような「美談」が数多く報じられた結果、免許返納や運転をやめ、息を潜めるようにして生きるべきだという圧力が醸成されているのではないか。そう感じるのは高齢者だけではない。北関東在住の主婦(58)は、左足足首を怪我し、歩けはするものの、転倒などせぬように念の為に杖をついていた。ある日、主婦が買い物帰りに車に乗り込もうとしたところ、近くにいた客に衝撃的な一言を言われてショックを受けた。

「ホームセンターの駐車場で、杖をついて車に乗り込もうとしていると”こんなババアが事故を起こすんだ”と、見ず知らずの中年男性に面と向かって言われました。男性に何があったのか知りませんが、あまりにもひどい。オートマだから左足は使わないし、医者からも運転に支障はないと言われている、そもそも年齢的にも高齢者とは思われたくない。高齢者だけでなく、中年の私たちでさえ、危ないから免許を取り上げろ、そう攻撃される日が来るようで恐ろしいのです」(主婦)

 当たり前だが、認知機能の衰えた高齢者の運転は危険だ。高齢ドライバーが引き起こした事故で命を落としたり、怪我をした方々の存在を知っていれば、高齢ドライバーというだけで穿った目で見てしまうこともあるかもしれない。だが、一律に免許を返納させれば解決される問題だろうか。

 前出の平成28年交通安全白書でまとめられていた年齢層別死亡事故件数をみると、75歳以上の次に多いのは16〜24歳だ。だが高齢者のように、若者から取り上げろとはならない。運転するのに不適格な者が免許を取り消されるだけだ。

 免許の返納は場合によっては解決方法となるだろうが、プロセスを検討せずに圧力だけが高まってしまうと、本当の問題解決から遠ざかるのではないか。高齢者の日常まで奪ってしまうような論調ばかりが先行するようでは、また別の問題が顕在化することになる。

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