「あなたはできるけど、できない人もいるんです!」の蔓延

「あなたはできるけど、できない人もいるんです!」の蔓延

中川氏のツイート

 

 どんな言葉も文章も、自分が主張したい内容にあわせた解釈しかしない。SNSで巻き起こる議論の多くには、勝手な思い込みによる言いがかりが含まれている。そんな騒動に巻き込まれたばかりのネットニュース編集者・中川淳一郎氏が、ネットに何かを書き込んで曲解する人たちの批判について、考察した。

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 5月下旬、「満員電車で痴漢から身を守るためには安全ピンで痴漢の手を刺せ」という反撃法の是非をめぐりネットで熱い議論が展開されていた。「その気持ちはよくわかる」といった賛同の声が出て、そうでもしなければ卑劣な連中を撲滅することは難しい、的な意見が出た。痴漢の被害に遭った人からすれば、そう思うのも理解できる。一方、「傷害罪になってしまうのでは」や「別の人間を刺した場合はどうするのか」といった異論も出た。

 この時に、つくづく感じたのが、ネットに何かを書き込んだら、曲解されるのは当たり前、ということだ。先日東京の満員電車がいかに不快かをツイートしたところ、思わぬところから反論が来たのである。まずは以下のツイートを見ていただきたい。

【中川淳一郎 @unkotaberuno
満員電車に乗らない生活になって21年。あぁ、楽だ。超絶ストレスでトラブルも発生するのが満員電車。なんでそんなリスクを冒してお前ら仕事行くの?と言いたくなると「そうせざるを得ないんです!」というクソ反論が来るが、それをしないでもいい人生が東京にはたくさんある。文句言う前にそれ試せよ
15:34 - 2019年5月26日】

 私のツイートに対し、「『満員電車に乗らざるを得ない生活をしているのならば、痴漢被害にも甘んじろ』というひどい発言」と解釈できる指摘が来たのだ。要するに私を「痴漢擁護者認定」したようなものである。

 私のツイートは、あくまでも「異常な東京の満員電車を回避するには、様々な手段がある。その手段を取る前に『できない理由』ばかり言うべきではない」、ということである。社会全体で、満員電車をいかに回避すべきかを考えるべきだと提案したのに、「満員電車と痴漢」ということに大いに関心がある人にとって、私のツイートは「電車に乗らざるを得ないような痴漢被害者は黙っとけ」と取られてしまった。

 元々ネットで何か意見しても曲解されたり揚げ足を取られるのは十分分かっていたが、ここまでの曲解は久々である。この文章もネットに出したら「痴漢擁護」と捉える人が出るのだろうな、やれやれ。

 話は満員電車回避法に戻るが、私自身は会社員時代はどうせ残業があるからと定時の1時間半前に出社をしたり、会社近くでシェアハウスをしたり、自転車通勤を上司から認めてもらった。20代中盤だっただけに給料が高いというわけではなく、改善への案を考え、周囲に理解してもらう根回しをしたから達成できた。

 それだけ苦痛な満員電車なのに、組織も個人も従順にこの状況を受け入れ過ぎている。解決するには、組織も個人も意識を変えなくてはいけない。もう「定時」の概念をなくしたり、会社にいなくても仕事をしていればそれでOK、といった働き方が認められればいいのである。

 オーディオブックで知られる「オトバンク」のように、「満員電車通勤禁止」のルールを作ったり、フリーランスである私のように「満員電車に乗らなくてはいけない時間帯・路線での打ち合わせは拒否」といった形で満員電車を避けるのが快適な業務遂行には必要だ。「学生はどうするんですか!」という指摘はその先の話だ。社会人がまずは満員電車を回避するよう動けば学生の通学はラクになる。

 この手の話は常に「あなたはできるかもしれないけど、できない人もいるんです!」式の批判に晒される。一生他人のせいにする人生を送ればいいと思う。

●なかがわ・じゅんいちろう/1973年生まれ。ネットで発生する諍いや珍事件をウオッチしてレポートするのが仕事。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など

※週刊ポスト2019年6月14日号

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