日朝首脳会談の障害 金正恩氏から請求される「面会料」

安倍晋三首相が日朝首脳会談へ意欲 金正恩氏は日本へ『面会料』を請求か

記事まとめ

  • 安倍晋三首相が日朝首脳会談へ意欲を見せ、トランプ大統領も日本を支援すると応じた
  • しかし、北朝鮮は深刻な食糧危機で、金正恩氏との『面会料』を日本に請求したという
  • また、トランプ氏と金正恩氏が日本に金を出させようと手を組むことも危惧されている

日朝首脳会談の障害 金正恩氏から請求される「面会料」

日朝首脳会談の障害 金正恩氏から請求される「面会料」

会えば当然「カネ」の話になる(共同通信フォト)

 安倍首相が7月に電撃訪朝する──。“令和初の来賓”として来日したトランプ米大統領の帰国後、政府内でそんな見方が急浮上している。

 トランプ氏は過密日程の中で拉致被害者家族15人と迎賓館で面会し、横田めぐみさんの母・早紀江さんに、「(めぐみさんと)きっと会えるよ」と語った。その直後に行なわれた共同記者会見で首脳2人は息の合ったところを見せた。

 安倍首相が「次は私自身が金正恩委員長と条件を付けずに会い、虚心坦懐に話をしたい」と日朝首脳会談への意欲を語ると、トランプ氏も、「拉致問題が首相にとって最優先課題なのはわかっている。米国は拉致被害者を帰国させるための日本の努力を支援する」と応じた。

 いまや安倍首相と金正恩氏は、「トランプ氏が世界でたった2人だけツイッターに悪口を書かない指導者」と言われるほど“信頼”を置かれている。そのトランプ氏に「金正恩との仲介の労を執る」と言われては安倍首相も退けなくなった。

 だが、日朝間には首脳会談の障害となる案件がある。

 2004年に行なわれた日朝首脳会談の際、当時の小泉純一郎首相は、先に帰国していた拉致被害者の蓮池夫妻と地村夫妻の子供たち5人を帰国させるかわりに、日本側は北朝鮮にコメ25万トンと医薬品の人道支援を約束した。だが、その後の関係悪化で支援物資は半分だけ送られ、残りは現在も日本国内の倉庫に保管されているとされる。日本外交筋の話だ。

「北朝鮮国内は今年深刻な食糧危機にある。安倍首相が『無条件で』と言っても、北は首脳会談の条件として15年前の約束不履行の清算を要求している。食糧など人道援助であれば経済制裁の対象外だから出せないことはないが、支援の内容をめぐって水面下の折衝が行なわれている」

 会談前に金正恩との“面会料”を請求されているというのだ。さらに首脳会談が実現して日朝交渉が本格化すれば、「2兆円」ともいわれる戦後補償問題が控えている。

 元駐レバノン大使の外交評論家・天木直人氏は「日本の戦後補償のカネが欲しい北朝鮮は、今後の交渉を戦後補償とパッケージで進めようとするはずです。日本側にとっても、経済支援を拉致交渉のカードに使うのは当然の外交手法ではある」と語る。

 ただし、その際に危惧されるのは「トランプ大統領と金正恩が阿吽の呼吸で日本にカネを出させようと手を組むことだ」として、天木氏はこう指摘した。

「ポイントになるのは米国のボルトン大統領補佐官の去就です。ホワイトハウス内では北朝鮮との関係改善に積極的なトランプ大統領に対して、対北朝鮮強硬派のボルトンがブレーキ役となっている。日本の外交はそのボルトンと足並みを揃えて強硬路線を取ってきた」

 実際、今回の北朝鮮の短距離弾道ミサイル発射に対しても、トランプ大統領が「金委員長は私との約束を守ってくれると信じている」とツイートしたのに対して、ボルトン氏は都内で「国連制裁決議に違反」と断言し、菅義偉・官房長官も記者会見で「国連安保理決議に違反することは明確。アメリカ政府との間で確認している」と同調した。

「トランプとボルトンの意見は食い違っており、いつボルトンが切られるかわからない。そうなったとき、安倍首相はどうするか。米国政府内にブレーキ役がいなくなると、日本だけで強硬路線を押し通すのは難しい。トランプの思惑通り、日本は米国の財布となって拉致交渉の進展がないのにカネを払わされる方向に向かいかねない」(天木氏)

 今回の来日でトランプ大統領が護衛艦「かが」の艦上で安倍首相を横に立たせて訓示したことも、天木氏は「金正恩に『日本は安全保障で完全に米国の支配下にある。日朝交渉も米国に追随する』と印象づけたのではないか」とも指摘する。“トランプを籠絡すれば安倍は落ちる”と足元を見られたとするなら、外交的不利は否めない。

◆「意表を突く要求」をされたら……

 日朝の秘密交渉の危険性を指摘するのは外務省OBの末松義規・衆院議員(立憲民主党)だ。

「外交交渉には表にはできない奥深い部分がある。ありていに言えば、今回は安倍首相から金正恩委員長に拉致被害者の帰国問題も含め“会いたい”と言っている。だとすれば、北は何らかの対価を求めてくる。

 とくに金正恩はいま現金を欲しがっている。北朝鮮は食糧難だから、韓国は開城工業団地開発の代金をコメなら2倍で払うと申し入れたが、北は『現金がいい』と断わった。金正恩委員長は党や軍の幹部など周辺にカネを配ることで体制を守ってきたが、金一族の専用資金が少なくなっているという分析がある。だから国民の食糧より、自分の体制を守る現金が欲しい」

 問題は、そうした事情を他の国もわかっているため、日朝首脳会談が実現すれば、「国連が経済制裁を行なっている中で“日本はカネを払った”と見られてしまうことだ」という。

 日本は現在、米国やカナダ、オーストラリアなどと協力し、中国船籍や韓国船籍などの船による「瀬取り」と呼ばれる北朝鮮との洋上取引を厳しく監視している。その日本がカネを払ったのではないかと国際社会から疑われること自体、「経済制裁の足並みを乱し、国際社会で非難されかねない」(末松氏)と危惧するのだ。

 仮に、安倍首相の7月訪朝が実現すれば、拉致問題が日朝首脳会談の最大のテーマになるのは間違いない。元駐韓大使で外交経済評論家の武藤正敏氏が懸念するのは、北朝鮮側が意表を突く提案をしてきた場合だという。

「私が注目しているのは、もし、金正恩が『日本が経済制裁解除や経済協力に応じるのであれば、拉致被害者は帰国させてもいいが、核廃棄は別の問題だ』と言った場合、安倍首相がどんな対応をとるつもりなのかです。

 日本政府の立場は、核開発とミサイル、拉致の問題を包括的に解決し、その段階で国交正常化や経済協力を行なうというスタンスですから、外交的建前としては非核化が先と言い続けるしかないでしょう。しかし、それでは拉致問題の解決も遠のいてしまう」

「私の内閣で拉致被害者を全員帰国させる」と国民に約束した安倍首相にとっては、そんな選択を突きつけられることが最も厳しい“踏み絵”になる。

 その時まさに、「外交の安倍」と「拉致の安倍」の真贋が問われてくる。

※週刊ポスト2019年6月14日号

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