『わたし、定時で帰ります。』が描かない「生活残業」の実態

『わたし、定時で帰ります。』が描かない「生活残業」の実態

夜のオフィス街。常態化した残業が「働き方改革」で無くされたら、即、「給与減」という人は多い

 TBS系列で火曜夜10時放送のドラマ『わたし、定時で帰ります。』は、働く人のリアルな感情をとらえて、視聴者の「働き方」を見直す材料を提示してくれている。

 物語は吉高由里子演じるヒロインの「定時帰り」をモットーにした働き方を軸に展開するが、ネットの反響などを見ていると、気になる記述があった。「うちの会社には残業代のために残業をしている人がいる」とか、「残業したくないけど、残業代が減ったら生活できないからしかたなくやっている」といった意見が散見されるのだ。

 残業代を見込んだ住宅ローンの返済計画を立てていたため、働き方改革で収入が減ってローンが返せなくなり、自宅を手放すことになるかもしれない──という人もいる。筆者は知らなかったのだが、生活費のために残業を行う「生活残業」という言葉があるらしい。

「生活残業」をする人の中には、残業代を得るために意図的に業務を遅滞させたり、忙しさを装ったり、定時近くになってから仕事をがんばりはじめるケースもある。それが周囲の同僚をイラつかせたり、不公平感を生じさせたりする。「ダラダラ残業」を行っている社員の中には「生活残業」を目的とする人も少なくないのだろう。

 残業代を見込んだローン返済計画を立てているのはもってのほかだが、生活残業をせざるを得ない状況になっているのを、労働者側だけの問題と切って捨てるわけにはいかない。

 賃金・人事コンサルタントで『社員が成長するシンプルな給与制度のつくり方』(あさ出版)の著書がある大槻幸雄・賃金管理研究所副所長はこう話す。

「現在の労働基準法は、戦前の工場労働の性格を受け継いでいるため、会社が所定の労働時間を超えて働かせる場合、労働者にそのことを命じるのが本来の残業の姿でした。ところが、サービス業で働く人が増えて企画・営業職が多くなると、本人に仕事時間の管理、進捗を任せるようになって、社員が残業を申請して会社が認めるという会社も多くなってきたのです。

 そうした会社の中には、管理職自身がプレイングマネージャーであるため自分のことに精いっぱいで、部下の時間の使い方が把握できていないケースも多い。つまり、本当に仕事が終わらなくて残業しているのか、生活費欲しさに残業しているのか、上司が把握できていないのです。労働時間で賃金が大きく左右されるのは一見、公平なようですが、それだと効率よく仕事をしている人が損をして、正直者が馬鹿を見る結果になる。これでは社員のやる気は高まりません。管理職が部下の時間の使い方を把握することが必要です」

 つまり、労使双方に課題があるというのだ。管理職は、部下の時間の使い方や仕事の中身の濃さを把握して評価しなければならない。では、どんな要素を給与と連動させればいいのだろうか。

「だからといって、売上や利益の数値だけで成果を評価するのもまた不公平になります。たとえば営業マンなら、担当している部門が大口顧客を相手にしているのかどうかによっても違うし、新規開拓する部門を担当していれば、しばらくの間、数字が上がらないこともあり得るからです。

 会社の経営理念や事業戦略があり、それに沿った行動が価値あるものであり、そこに対して評価されて給与も高くなるというのが理想です。理念や戦略が会社全体で共有されている必要があります。そのためには、経営者が自身の考えを繰り返し伝えていくことが大切なのです」(大槻氏)

 多くの業界で給与水準のピークは1995〜1997年だった。現在は年齢を経ても賃金の上り方はゆるやかになり、昇進時期も遅めになっている。そのため、社員の生活が厳しいのは事実だ。経営者は、社員が生活残業をしなくてもよい程度の、世間並かそれ以上の給与を社員に支払えるようにすること。それにはイノベーションを起こしたり、業務フローを工夫し効率化するなどして、価格競争に巻き込まれないようにする必要があるだろう。

 働く側は、時間内に中身の濃い仕事をして仕事のスキルアップを続け、仕事の難易度が上がったり、責任が増えていったりすることで給与アップを目指す、というのが本来の姿だ。

 ドラマ『わたし、定時で帰ります。』でも、なるべく残業をしないようにしよう、働く人のさまざまな事情に寄り添う仕事のあり方にしよう、と奮闘する人たちが描かれている。それはどちらかというと現場からの取り組みであり、管理職側からの働きかけは弱いように見える。やはり労使双方の努力が必要だ。

 働き方改革は、経営者にとっては義務や規制と考えると苦しいだけのものになるし、労働者にとっては管理や監視が強まると思うと窮屈になるだけ。少なくとも“使われる身”である私たちは、残業代が減ったと嘆くのではなく、働き方改革をこれ幸いと捉えて、“自分改革”に利用したいものだ。

●取材・文/岸川貴文(フリーライター)

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