湖池屋・キリン出身社長の「ポテチ革命」 完売続出の戦略

湖池屋の佐藤章社長はキリンビール出身 カルビーなど競合他社は「一切見ない」と語る

記事まとめ

  • 湖池屋の佐藤章社長はキリンビール出身で、キリンフリーなどの商品を手掛けてきた
  • 日清食品ホールディングスのCEOから声をかけられ、湖池屋の社長に就任
  • 「KOIKEYA PRIDE POTATO」「じゃがいも心地」などの商品を世に送り出した

湖池屋・キリン出身社長の「ポテチ革命」 完売続出の戦略

湖池屋・キリン出身社長の「ポテチ革命」 完売続出の戦略

湖池屋の佐藤章社長

 ポテトチップスなどのスナック菓子メーカーとして知られる湖池屋。2016年から同社を率いるのが、キリンビール出身の佐藤章氏(60)だ。キリンビール時代から“伝説のマーケッター”と呼ばれた佐藤氏は、土俵を酒・飲料から菓子に移しても斬新なプロジェクトを次々と世に送り出している。今後のさらなる展開を訊いた。

──平成元年(1989年)当時は、キリンビールで働いていました。

佐藤:1982年の入社以来、ずっと営業畑で働いていましたが、1990年に商品開発や経営戦略などを担うマーケッターに転じました。ですから平成という時代は、そのまま自分のマーケッター人生と重なります。

 その後、自分から手を挙げてキリンビバレッジに移り、缶コーヒーの「ファイア」や、緑茶の「生茶」、スポーツドリンクの「アミノサプリ」などを手がけてきました。

 常に心がけていたのは、「付加価値」を意識したマーケティングです。競合他社と差別化できるブランドをいかに磨き続けていくか──それを考え抜いたのが、平成の時代でしたね。

──その後、2008年に再びキリンビールに戻り、2009年にはノンアルコールビールの「キリンフリー」を世に送り出した。

 2006年、福岡の海の中道大橋で幼い子供たちが犠牲になる痛ましい飲酒運転事故が起きました。それを機にノンアルコールビールの開発が始まりました。そこにあったのは「飲酒運転をなくしたい」という願いです。

 結果としてセールスにも繋がりましたが、企業にとって今後は「売り上げ」だけでなく「社会貢献」も重要となってくる―─そう気付かされましたね。

◆「オタクがセンター」の時代

──そして3年前、キリンビバレッジ社長から湖池屋社長に転じた。

佐藤:キリン在籍中から「食」に携わりたいという思いはありました。そんな折、日清食品ホールディングスCEOの安藤宏基さんから、「(グループ企業である)湖池屋を、そしてスナック菓子業界全体を大きくしてみないか」というお話を頂いたんです。

 社長就任にあたって一番大事だと考えたのは、日本で初めてポテトチップスを量産化した老舗の価値を、どう消費者の方々に再認識していただくか、ということでした。

 そこでまず行なったのが社名の変更です。私が社長に就任するまで、湖池屋は持ち株会社の「フレンテ」のグループに属する子会社という扱いでした。しかし2016年10月、フレンテは湖池屋など国内子会社を吸収し、「株式会社湖池屋」に社名を変更しました。

 事業の原点であり、核である「湖池屋」を名乗り直すことで、創業者の知見や誇りをもう一度、全社員で共有しようとしたのです。その中で生まれたのが、「KOIKEYA PRIDE POTATO」という商品です。

 従来より価格は高めですが、品質にこだわっている。「自分へのご褒美として食べてください」がコンセプトです。

 最近では「じゃがいも心地」という厚切りタイプのチップスもヒットしています。お煎餅を食べるような食感を大事にし、素材の魅力が十分に味わえる。嬉しいことに、「じゃがいも心地」はシニア世代の熱い支持をいただいています。

──「大人向け」の商品が増えている印象です。

佐藤:それは狙っていますね。スナックといえば、かつては“みんなでワイワイ食べるもの”という印象が強かった。しかし、これからは良くも悪くも「個食」の時代です。多様な現代人の生活シーンに寄り添える商品を作っていくことが大事です。

 たとえば、北海道の今金町農協さんと協業し、収穫量が限られる希少なじゃがいもである「今金男しゃく」を使用した商品があります。このようなカスタムメイドの感覚が、令和時代のど真ん中を走っていく気がしています。いわば「オタクがセンターを張る時代」ですね(笑い)。

 スマホが片時も手放せず、油で手が汚れることを嫌う若い方向けに開発した「ONE HAND」という商品もある。これは、ドン・キホーテさんのトップの方とお話ししている中でヒントを得て商品化しました。

──近年の健康志向の高まりは、スナック菓子に逆風では?

佐藤:アイディア次第でビジネスチャンスになり得ると考えています。たとえば、ローソンさんでの限定商品として発売した「ポテトの素顔」は、食塩不使用。いわば“すっぴんの素材”を活かした商品です。じゃがいもの旨味を楽しむのもよし、自分で塩こしょうやディップなどをつけてアレンジしてもいい。

 この商品はノンアルコールビールと似たところがあって、これまで塩分制限などでポテトチップスを食べられなかった方から、「これでやっと食べられる」と感謝のお手紙もいただきました。これまでは一部での限定販売でしたが、販路を拡大していくことを検討しています。

 また「ちょっとだけ食べたい」という消費者の方々のニーズを受け、人気商品のサイズダウン版も検討しています。時代の要求に併せて、リニューアルしていく余地はいくらでもあるんです。

◆少数派を無視しない

──スナック菓子業界にはカルビーという巨人がいるが、どう立ち向かいますか?

佐藤:経営していくうえで私が決めているのは、「競合他社は一切見ない」ということです。ライバルを意識していたのでは、どこかで戦略に既視感が出てきます。右に倣えの“Me too”な商品しか出てこない。それはお客様にもすぐ見抜かれてしまう。「二番煎じの商品なんて要らない」とそっぽを向かれてしまいます。

 企業規模が価値と思われるお客様ばかりではありません。むしろ、小さくてもキラリと光るものを求めていらっしゃる消費者が増えているように思います。

──しかし、湖池屋のようなオーダーメイド商法には手間暇やコストがかかるのでは?

佐藤:そこは仕方ないと割り切っています。少数派のニーズを無視していては新しいものは生まれませんから。時代や消費者の嗜好の変化の風を察知し、どこよりも早くそこに取り組んで変化への投資を惜しまない。それがマーケッターとしてやってきた私の役割です。今後、スマート農業みたいな分野に入っていくことも必要でしょう。

 会社を進化させていくためには、まず社長である私が進化していかねばならないと考えています。

【PROFILE】さとう・あきら/1959年東京都生まれ。1982年、早稲田大学法学部を卒業後、キリンビール入社。1997年にキリンビバレッジ商品企画部に出向し、「FIRE」「生茶」などヒットを連発。2008年にキリンビールに戻り、2014年からキリンビバレッジ社長。2016年にフレンテ(現・湖池屋)執行役員兼日清食品ホールディングス執行役員に転じ、同年9月より現職。

●聞き手:河野圭祐(ジャーナリスト)/1963年、静岡県生まれ。経済誌編集長を経て、2018年4月よりフリーとして活動。流通、食品、ホテル、不動産など幅広く取材。

※週刊ポスト2019年7月12日号

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