マツダ新販売店 レストランの料理にあたる光を参考にした

マツダ新販売店 レストランの料理にあたる光を参考にした

東京都内で4店舗目となるマツダのブランド発信旗艦店(板橋区)

 近年、新型車の統一したデザイン改革や車名変更などブランド力のさらなる強化に余念がないマツダだが、今度は東京でのブランド発信拠点となる新しい販売店をオープンさせる。経済ジャーナリストの河野圭祐氏が、“新世代店舗”に込めるマツダのこだわりと販売戦略についてレポートする。

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 来たる8月3日、東京都内でマツダの4店舗目となる“ブランド発信旗艦店”がオープンする。皮切りは2013年の洗足店、続いて2014年に目黒碑文谷店、2016年は高田馬場店、そして今回は板橋本店だ。

「4店の基本コンセプトのエッセンスで共通化できるものは、ほかの全国にある店舗にも順次、移植しているところです」(常務執行役員で国内営業を担当する福原和幸氏)

 ちなみに、マツダの国内店舗923店中、そのエッセンスを注入した新世代店舗は169店と、比率にして、まだ18%という段階だ(いずれも今年6月1日時点)。

 では、肝心の基本コンセプトとは何か──。ドレスコードならぬ“デザインコード”という表現で、ブランド旗艦店のデザインに携わってきた、建築家の谷尻誠氏はこう解説する。

「黒基調のカラーを基本に木材もふんだんに取り入れることを、ひとつのデザインコードとして定めました。店全体をダークトーンにしつつ、木を使うことで落ち着いた雰囲気を作るわけです。

 事前に、他社のディーラーも回ってみましたが、木を使っているディーラーはなかった。ミュージアムとかギャラリーのように、店舗内の空間をストイックに、かつシンプルに作ってクルマを浮かび上がらせる方法がほとんどだったのですが、マツダでは、店舗のトーンは黒基調でソリッドな空間だけど、温もりを出したいので木も使っています」

 そこが、たとえば同じ黒基調にゴールドカラーをあしらって高級感を演出するレクサスの店舗や、メルセデス・ベンツなどの高級輸入車のショールームとは違うところだという。

 マツダの常務執行役員でデザイン・ブランドスタイルを担当する前田育男氏は、谷尻氏や同様にデザインに関わった建築家の吉田愛氏に対して、店舗デザインの設計についてこんな注文を出していた。

「最初にお願いしたのは、お客様にとって居心地のいい空間にしてほしいという点と、ともかく敷居を上げないでくれと。上質さを追求すると高級な方向に振りやすくなりますが、敷居が高くなってお客様が入りにくくなるのでは意味がない。そうではなく、店内でゆったりと寛いだ気持ちになれるようにしてほしかった。あとは店内に入らずとも、外から見てもショールームのクルマが美しく映えるように見せたいと。

 もう1点、店長には、ここはクルマを売る店じゃないという自覚でやってほしいと言っています。いわばマツダのクルマを“味わってもらう”場所であって、いきなり販売スタッフが契約書類や電卓を片手にお客様と接するスペースではない。そういう場所づくりを心掛けてもらっています」

 以前、マツダの丸本明社長は、「マツダ車の目標は和製BMWのようなイメージか」との問いに対し、「(ベンツやBMWなどの)欧州プレミアム車の中で“賢い選択肢”になりたい」という表現をしていた。

 品質面ではドイツ車と遜色ないのに価格帯はお買い得──というポジションの獲得を意識しているとすれば、ブランド発信旗艦店でも上質感や上品さを保ちつつ、敷居は上げないというポリシーは合致する。

 ちなみに、前田氏のようなカーデザイナーが店舗デザインの監修をすることは異例のこと。マツダ車の世界観をトータルで表現するには、「料理(クルマ)に見合う皿(店舗)があってこそ」(同)というわけだ。

 たとえば、クルマを最大限に美しく見せるため、ショールームの照度は一般的な明るさよりも落とし、照明の当て方も、最もクルマが映えるような角度に設定されている。想定したのはレストランのディナー席だという。周辺の照度は同じように落とし、テーブルに置かれた料理に照明をフォーカスするやり方をクルマに応用したのだ。

 この徹底ぶりは、“納車ルーム”のフロアを設け、新車引き渡しに際して駐車場でキーを受け渡すだけの、よくありがちな味も素っ気もない儀式を廃した点にも見て取れる。

「お客様はクルマに300万円とか400万円を支払うわけで、ポンとキーだけ渡されたらイヤな感じですよね。もっと丁寧にお渡しすることが必要。百貨店でも、高価な陶器や時計などを買ったら包装してレジで、はいどうぞではなく、お渡しは別室で行ったりする。それと同じです」(前出の前田氏)

 クルマの見せ方や接客へのこだわりは、マツダがクルマを所有することに悦びを見出す層をターゲットにしているからだ。クルマというハードに完成形がないように、店舗デザインの深化やクルマの見せ方にもまだまだ貪欲でありたいという。

「クルマに当たる光にはこだわっています。光の当たり方が変わることで、あたかもクルマが生きている動物のように見えるところまでもっていきたい。そういう要素を店舗内でも表現できたらいいですね。具体的には店内にターンテーブルを置いて、クルマを少しずつ回して見せるようになればベスト。次はクルマの見せ方の進化です」(同)

 見せ方と同時に前田氏が渇望しているのが、よりマツダ車のブランドイメージを高めるためにも、都心部にフラッグシップとなるショールームを出すことだ。たとえばホンダは港区青山に本社ショールームがあり、日産自動車も中央区銀座の4丁目交差点という好立地にショールームがある。ブランドイメージ向上に一役買ってきたことは間違いない。

 その点、マツダも広島と東京の2本社制を敷いてはいるが、東京本社が入る千代田区内幸町のビルは自社ビルではないため、ショールームがない。当地は三井不動産が同エリアの広域再開発に入るため、年末にもマツダは東京本社を移転する。移転先はまだ非公表だが、テナントで入る以上、ショールーム併設は難しそうだ。

「都心のショールームは本当に欲しい。たぶん、マツダの中で僕が一番欲しがっているでしょう(笑)。それも、ビルの1階の一角でいいので、できることなら丸の内界隈に欲しい。物件難やコスト面のハードルは高いですが、次のステップでは、そういうことも企画しないといけないですね」(同)

 マツダではクルマのデザインは全車統一感を出し、「どのクルマも似ていてつまらない」と考える人たちよりも、一目でマツダ車とわかるブランドアイデンティティに共感する人をターゲットにしている。

 最近、「MAZDA3」を皮切りに「MAZDA6」「MAZDA2」と従来のペットネームを廃することを打ち出した点も相まって、仮想ライバルは国産メーカー以上に、輸入車、特にドイツ勢を中心とした欧州メーカーに置いていると映る。それだけに、ブランドイメージの一段のアップのためにも、都心のショールームは喉から手が出るほど欲しいのだ。

 現時点で、都心のフラッグシップショールームはなかなか叶わないが、目黒碑文谷店で神奈川県方面からの潜在顧客をカバーし、今回の板橋本店では埼玉県方面からの潜在顧客をカバーすることとなった。まずは都心の外周、外堀を埋める形で、ブランド力の一層の向上に向けたピースがはまった段階といえる。

 来年2020年は、マツダにとって創業100周年の節目の年。そのメモリアルなアニバーサリーイヤーに念願の都心ショールームが出せたら最高なのだが。

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