吉本騒動に好影響 貧困に喘ぐ若者を減らすことになったか

吉本騒動に好影響 貧困に喘ぐ若者を減らすことになったか

騒動は続く(撮影/平野哲郎)

 反社会勢力の宴席にギャラをもらって出演していた問題で芸能活動を自粛していた雨上がり決死隊の宮迫博之とロンドンブーツ1号2号・田村亮。2人が所属する吉本興業とは別に、独自に記者会見をした7月20日以降、ネットでは連日それらに関する話題で持ちきりだ。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏が、吉本騒動によって浮き彫りになったことはなにか、あらためて考察する。

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 吉本興業の「闇営業」問題に関連した会見で、宮迫博之と田村亮は株を上げ、吉本興業及び岡本昭彦社長の株が大幅に下がった。ネットの風は元々宮迫と田村を叩く風潮だったが、一気に逆転し、「心を打った」などの好評価になっている。

 だが、元の問題は「反社と付き合いがあった」ことと「ギャラは貰っていない、と嘘をついた」ということである。そこをみんな忘れてないか? 日大アメフト部の悪質タックル事件や、レスリングのパワハラ騒動などを経て、「組織=悪」「そこに従う従業員・部下=可哀想」の構図が定着しているが、当初の問題が置き去りにされ、あくまでも吉本の組織の体質と岡本氏叩きになっている。その空気を作ることができたという点では、宮迫と田村は見事な会見をしたといえよう。

 それはさておき、今回の一連の騒動で仰天したのが、吉本に6000人ものタレントが所属している、ということである。お笑い芸人は売れれば大金持ちになれるものの、その割合は数パーセントだろう。しかも、その売れている者の多くは40代以上である。

 お笑い界は、ビートたけし、タモリ、明石家さんまの「ビッグ3」がいまだに君臨しており、その下にダウンタウンや今田耕司がいる。結局芸人は地上波テレビに出てなんぼのところがあるため、もう枠は埋め尽くされている。

 私はこれまでに数十人の芸人にライターのバイトを斡旋してきたが、中には売れた者もいたが、他のバイトと兼業している者だらけで、生活の苦しさはよく理解している。ある芸人は、舞台に出たものの端役を与えられただけで、ギャラはかなり安い。そして打ち上げが深夜に及んだため電車はなくなり、約6kmの道をスーツケースを引きながら歩いている姿を見かけたことがある。この段階ですでに3km歩いている。

「なんでこんな時間に歩いているの?」と聞いたら上記の説明をしたうえで、「タクシー代がないんです」と言っていた。翌日も早い時間からバイトをし、その後は舞台に立つということなので、すぐに2000円を渡して「これで早く帰って寝てください」と伝えた。

 1980年代前半の「漫才ブーム」の頃の漫才を今聞いてもそこまで面白くはない。むしろ、最近の若手芸人が出演するお笑いライブのネタの方が練られていて面白い。今は『エンタの神様』や『爆笑レッドカーペット』『ザ・イロモネア』『あらびき団』といった地上波のネタ番組がないため、多くの才能が日の目を見ることがない。

 この状況を考えると、若者がお笑いの道に進むのは人生にとって得策とは到底思えない。完全に老害に牛耳られた世界なだけに、なぜ「6000人」もの人間がその道を選ぶのだろうか。サラリーマンの世界ではブラック企業の「やりがい搾取」が問題になっているが、お笑いなどその最たるものだろう。

 有名になりたい、金持ちになりたい、と考える者にとってお笑いの道を進むのは1990年代中盤の『ボキャブラ天国』ブームの時代は完全に“アリ”だった。だが、今は本当に難しい。闇営業に端を発した今回の一連の騒動は、これからお笑いを目指す人間を躊躇させ、貧困に喘ぐ若者を減らす一定の好影響を与えたのではないか。

●なかがわ・じゅんいちろう/1973年生まれ。ネットで発生する諍いや珍事件をウオッチしてレポートするのが仕事。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など

※週刊ポスト2019年8月9日号

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