モスフード・櫻田厚会長「10年後3000店舗」目指す新戦略

モスフード・櫻田厚会長「10年後3000店舗」目指す新戦略

1972年創業のモスバーガーの新戦略は?

 ハンバーガーチェーンとしてマクドナルドに次ぐ店舗数を誇るのがモスバーガーだ。1972年の創業以来、国産素材にこだわり「日本発」の高級ハンバーガーとしてファンを獲得してきたが、ここ数年は苦戦を強いられている。ジャーナリストの河野圭祐氏が、モスフードサービス創業家出身の櫻田厚会長に、今後の反転攻勢を訊いた。

──令和の時代になりましたが、平成元年(1989年)は何をされていましたか。

櫻田:1972年に叔父(創業者・櫻田慧氏)の誘いでモスバーガーの創業に参画してから、直営店勤務を経て、平成元年当時は教育・営業部門を中心に担当する直営部長という役職だったと思います。

 私にとって転機となったのは、その翌年(1990年)に海外事業部長として台湾へ赴任したこと。これがモスバーガーの海外展開の足がかりになりました。

 恥ずかしながら、台湾に行くまでは日本と台湾の関係、中国と台湾の関係を歴史的に考えたことはほとんどありませんでした。しかし台湾でビジネスを始めて、「アジアの中での日本」について意識するようになった。それまでの自分の無知を恥じましたね。

 ですが、その経験がモスバーガーを「日本発のハンバーガー」として海外に広め、評価して頂くにはどうすればいいかを見つめ直すことに繋がりました。それから30年余りが経ち、海外店舗数はアジアを中心に377店にまで拡大することができました(6月末現在、以下同)。「モスバーガー」「テリヤキバーガー」「テリヤキチキンバーガー」がモスの3トップですが、海外のお客様には日本のモスならではの「モスライスバーガー」も人気です。

──しかし国内に目を向けると、現在の店舗数は1344店舗に留まっている。

櫻田:2000年当時、国内の店舗数はおよそ1560店ぐらいあったのではないかと思います。それまでは毎年100店ほど新規出店し、前年比の売り上げも2割から3割伸びていた。企業の成長率ランキングではベスト10の常連でした。

 しかし、それから世の中は大きく変化した。率直に言って、その変化への対応が遅れてしまった感はあります。フランチャイズ(以下FC)店オーナーの高齢化による事業承継問題や店舗家賃の上昇などもあり、最近は毎年20〜30店をクローズしてきました。

 特に事業承継は大きな課題です。モスは創業から47年。創業当時に30歳でFC店オーナーになった方はもう70代後半です。

 最近はコンビニでも同様のことが起きていますが、外食産業にとってFC店の世代交代は真剣に考えなければならない問題です。この事態を見据えて、5年前から若手オーナー育成のための「次世代オーナー育成研修」をやっています。

──低価格帯のマクドナルドと、海外発の高価格帯のグルメバーガーの間に挟まれ、高品質を売りにしてきたモスの存在感が薄れたという指摘もあります。

櫻田:個性的なハンバーガーチェーンが増え、モスの特徴がぼやけてきていた面はあるでしょう。異業種との競争も激しくなり、たとえばコメダ珈琲さんなどコーヒーチェーンにお客様が流れている状況もあります。

 最大の反省は、若年層への発信を怠っていたこと。モスのコアなお客様は、弊社の商品を健康的だと思って下さる20〜30代の女性だと考えてきたが、そういうお客様も今ではだいぶ歳を重ねておられるわけです。

 ですから我々は、さらに若い世代の方々にPRしていかなければならない。

 大学生30人ほどに調査をしたところ、モスに来店しない理由として「SNSでの発信が少ないこと」を挙げていた。デジタルネイティブである彼らは、スマホが一番の情報収集ツールです。テレビCMを打ってもごく限られた人たちにしか響かない。今後はデジタルマーケティングや広報IR戦略の在り方を再考し、新しいかたちでアピールしていきたい。

◆「完全菜食主義バーガー」も?

──長期目標として「10年後までに3000店舗」を掲げている。これは現在のマクドナルド(約2900店)を上回る規模です。少子高齢化が急速に進むなか達成は難しいのでは?

櫻田:確かに従来の店舗のみでは難しいでしょう。今後は時代に即した新スタイルの店舗も展開していきます。

 まず、ごはんもののメニューを揃えた「モスカフェ」や、高級ハンバーガーレストラン「モスクラシック」「モスプレミアム」を増やしていく。メニューを最低限に絞り、少人数のスタッフで効率的に運営していく小型店舗も計画中です。現在、韓国で実証実験を行っています。

 多様化するニーズに合わせて商品やサービス、店舗形態を変えていくことで、3000店舗を達成したい。

──モスライスバーガーや、バンズの代わりにレタスで具材を包む「モスの菜摘」、インドのナンを使用した「ナンタコス」など、従来のハンバーガーの枠組みにとらわれない商品が魅力ですが、メニューの新展開は?

櫻田:商品についても同時に個性を強めていく。キーワードは「カスタマイズ」です。

 たとえばライスバーガーのサイズや、白米か玄米かを選べるようにする。通常のハンバーガーでも、バンズを全粒粉のものなど複数の種類から選べたり、お客様それぞれが独自の楽しみ方をして頂けるようにできないかと考えている。

 また、外国からのお客様が増えていることも踏まえて、海外のトレンドも取り入れていきます。たとえば、動物性食品を一切口にしない完全菜食主義者である「ビーガン」のお客様に対応する商品があってもいい。

 昨年もスペインに出張して痛感しましたが、日本は「食」に関して海外諸国に比べ進んでいる面が多い一方で、大きく遅れている面もあります。海外で得た知見をどんどんフィードバックしていきたいですね。

 具体的なアイディアは9月以降、本格化していく。特に来年以降は新たな取り組みをどんどん発表していきます。モスはなぜ、こんなことを考えたんだというくらいの発想の転換をやらないと。固定観念にとらわれない柔軟さを持ち続けることが、これからの一番の課題でしょうね。

【PROFILE】さくらだ・あつし/1951年東京都生まれ。1970年都立羽田高校卒業。父の急逝で大学進学を断念し広告代理店に入社。1972年、叔父(モスフードサービス創業者・櫻田慧)の誘いで「モスバーガー」創業に参画。1977年、モスフードサービスに入社。直営店勤務を経て、教育・店舗開発・営業などを経験。1990年、海外事業部長として台湾へ赴任、アジア進出の礎を作る。1998年に代表取締役社長就任、2014年より代表取締役会長を兼任、2016年より社長を譲り現職。

●聞き手/河野圭祐(ジャーナリスト):1963年、静岡県生まれ。経済誌編集長を経て、2018年4月よりフリーとして活動。流通、食品、ホテル、不動産など幅広く取材。

※週刊ポスト2019年8月9日号

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