予約が取れない美人囲碁インストラクター 政財界人も集う

予約が取れない美人囲碁インストラクター 政財界人も集う

囲碁インストラクターの長井多葉紗さん(ダイヤモンド囲碁サロン)

 東京・麹町にある「ダイヤモンド囲碁サロン」には、多くの囲碁ファンが朝から晩まで熱心に通っている。そんな人たちの上達をサポートすべく、多くのインストラクターが所属するが、中でもダントツ人気で予約が取れない美人インストラクターがいる。長井多葉紗さん(36)だ。彼女のスケジュールが出るやいなや、すぐに予約で埋まってしまうという。

 長井さんは笑顔の素敵な女性で、一見ほんわかした印象だが、もちろん囲碁の実力は折り紙付き。16歳までプロ修業をし、全日本女子学生選手権で準優勝した実績もある。

 長井さんをお目当てに集まってくるのは、なにも一般の囲碁ファンばかりではない。政財界の囲碁愛好家も数多く指導碁を受けに訪れる。

「学生の頃からずっとかわいがっていただいています」と長井さんが話す相手は、衆議院議員(国民民主党)の小沢一郎氏。囲碁界では政界ナンバーワンとの呼び声高い小沢氏の実力は広く知られており、インストラクター相手に「ハンディ1(先の手合い)」で立ち向かえるほどの強さを持つ。

 長井さんによる小沢氏の棋風診断は、「猪突猛進型で、定石を打たずに自己流で石を取りに行くのが好き。まさに豪腕タイプです」とのこと。政治家・小沢氏のイメージそのままだ。

 かつては元財務相の与謝野馨氏(故人)も小沢氏と政界で1、2を争うほどの実力があったが、与謝野氏とも打ったことのある長井さん曰く、「与謝野さんは石の形がキレイで先生に褒められる優等生タイプ。そんな玄人好みの碁を打たれる与謝野さんでも、数年前にテレビ番組で小沢さんと対局して負けていました」という。

 そんな小沢氏の剛腕ぶりは、勝負事以外でも発揮されていた。慶應大学の学生時代から碁を通じて親交を深めてきた長井さんにとって、普段の小沢氏は「親戚のおじさん以上、父親のような存在」だそうだが、過去にあったこんなエピソードを披露してくれた。

「小沢さんは、私が学生の時から『もし結婚したい彼ができたら必ず紹介しなさい』といつも仰っていました。最初は冗談かと思っていたのですが、27歳のころ、遠距離恋愛で付き合っていた彼氏の話を少しだけしたら、『会いに行こう』という話になってビックリしました。

 当時、彼は大阪に住んでいたのですが、京都の料亭で私たち二人と小沢さんで食事をすることになったんです。彼はとても緊張していたうえに、食事が終わると私と小沢さんで何局か碁を打つことになって……。碁を打てない彼は、その様子を長時間、正座をしながらずっと眺めていました(笑い)。

 そして、対局が終わると、小沢さんが彼に一言、『君は彼女と結婚する覚悟はあるのか?』と尋ねたんです。正直、それまで私たち二人の間で結婚の話などしたことがなかったのですが、彼が思わず『はい!』と答えてしまい……その後、トントン拍子に結婚が決まりました。それが今の夫なんです」

 長井さんの指導を受けている有名政治家は小沢氏だけではない。近年は細野豪志氏(無所属・旧民主党幹事長)と打つ機会も多かったという。細野氏は田中角栄事務所にあった碁石と手作り碁盤を譲り受けたのがきっかけで、碁に興味を持ったという。

「細野さんは、お忙しいのにちょっとした合間に毎日のようにサロンにやってきて、打っていました。時間管理をしっかりされて、碁を始めて半年で初段になられたほどの努力家です」

 子どもなら半年で初段というケースもあるだろうが、大人では3年以上かかっても早いほうといえるため、半年とは恐れ入る。細野氏は夜遅い時間でもサロンに来ては、グロービスの堀義人社長ら仲間と打ったり、囲碁将棋チャンネル(CS・ケーブルテレビ放送)の番組『棋力向上委員会The Passion!!』にも自ら志願して半年間出演したりと努力を怠らず、始めて3年で四段にまで上達。見事に結果を残している。

 長井さんに細野氏の棋風も聞いてみた。

「とにかく攻めるのが好きで、良い意味で強情かもしれませんね(笑い)。私が対局中に『こっちに打つほうがいいですよ』とアドバイスすると、たいていの人はすぐ納得してくださるのですが、細野さんは『自分はこうだと思うから』と主張をする方。アマでは珍しいタイプですが、それだけ自信も根拠もあるので、素敵だと思います」

 その他、長井さんが指導したことのある政財界人は数知れない。元衆院議員の音楽家、喜納昌吉氏やディー・エヌ・エー(DeNA)の守安功社長、ミドリムシで有名なユーグレナ創業者の出雲充社長、フューチャーCEOの金丸恭文氏など。過去には囲碁好きで知られるお笑いコンビ、アンガールズの田中卓志氏とも手合いをしたことがあるという。

「私はプロを目指して囲碁を打つ日々からは逃げ出してしまいましたが、人に囲碁を教えるのはとても楽しくて充実した時間です。普段はお会いできないような有名な方々から『先生、先生』と言われるのは気恥ずかしいですが……」

 じつはインストラクターになる前の長井さんの“囲碁人生”は、決して順風満帆ではなかった。

「人と違うことをやらせたい」という父の教育方針から9歳で碁を覚え、地元の子ども囲碁教室に通っていたという長井さん。その後、碁好きが高じて、13歳でプロを目指して日本棋院の養成機関である「院生」となるも、挫折や不運が次々と彼女を襲った。

「それまで勉強やスポーツは器用にこなすタイプだったのに、碁は勝手が違いました。練習してもなかなか成果が出ませんでしたし、一局一局、勝ち負けがすべての厳しい世界で、何度もプレッシャーに押しつぶされそうになりました。

 そして、碁の限界を感じ始めていた15歳のとき、父親の事業がバブル崩壊で傾き、家を出なければならなくなったんです。妹は叔父のいるアメリカへ移り住み、私は行くところがない。そんなときに、師匠が「住まわせてあげるよ」と言ってくれたので、内弟子になりました。

 住み込みになったからには、真剣にプロを目指さなければと思い、全日制ではなく単位制の高校に入学し、碁に専念しよう頑張りましたが、やはり才能のなさを痛感してしまって……。17歳できっぱりプロ棋士の道は諦めることにしました」

 その後、大学検定試験を受けて慶應大学環境情報学部に見事合格した長井さんは、入学当初こそ囲碁部主将(女子部)として女子学生選手権で準優勝するなど実力を発揮していたが、2年生以降はしばらく囲碁の勝負の世界からは遠ざかっていたという。

 そんな折、たまたま現在インストラクターを務める「ダイヤモンド囲碁サロン」の女性オーナーから誘われ、学生アルバイトをすることに。そこで一度は嫌いになった碁も、教える側に回ると、その楽しさややりがいに目覚めたという。

 現在、長井さんは囲碁インストラクターの仕事とともに、人事コンサルタントという肩書きも持っている。慶應大学卒業後は「囲碁以外の武器も持っておかないと」(長井さん)と、大手印刷会社を皮切りに、人材系の営業職、IT企業の人事職と転職をしながら人事採用支援のノウハウを学んだ。

「印刷会社から内定をもらったときは、囲碁サロンのお客さまたちから“ドンペリ”で盛大にお祝いしてもらいました。

 入社後は、同じクライアントを回る営業スタイルだったので、もっと厳しい飛び込み営業など経験して短期間で実力をつけたいと思い、当時“超ノルマの厳しい企業”との噂もあった人材系のベンチャー企業に自ら転職しました。噂どおりノルマは厳しかったですが、やればやっただけ自分の成長も実感できたので、いい経験でした。その会社を辞めるころには営業成績でMVPを何度も獲得しましたね(笑い)」

 社会人生活で蓄積された長井さんの営業力や人を見る才能も、自然と囲碁インストラクターの道で活かされているようだ。

「碁は勝負ごとなので、相手が悪い手を打つと、ついインストラクターも熱くなってしまいがちですが、多葉紗は相手の気持ちになって優しく教えることができます。相手を型にはめず、その人の個性を見極めて上手に引き出してあげることができるんです。だから、これだけ人気があるのだと思います」(ダイヤモンド囲碁サロンの女性オーナー)

 長井さん自身は、指導している常連客との勝負(棋譜)を過去2か月分は覚えており、こんな心掛けで指導碁に臨んでいるという。

「負けが込んでいる人だったら、『今日はたくさん元気づけてあげよう』とか、相手の成長のためにどう寄り添うかを常に意識しています。囲碁を楽しんでもらうための勝負を考えるのがインストラクターの大事な仕事ですからね。それが少しでも囲碁の普及に繋がってくれたら嬉しいです」

 碁会所や囲碁サロンと聞くと、どうしても敷居が高いと思ってしまいがちだが、子どもの知育や大人のボケ防止など、「頭」や「脳」に効果的なのは、徐々に知られてきている。最近は会社帰りのビジネスマンがフラリと囲碁サロンに立ち寄り、お酒を飲みながら碁を楽しむ光景も見られるようになった。

「私もワインが大好きで、飲みながら打つこともしょっちゅうあります。もっと囲碁が習い事や趣味のひとつとして身近な選択肢になってくれたらいいなと思っています。たくさんの人たちとの出会いも楽しいですしね」

●ながい・たばさ/1982年生まれ、東京都出身。9歳より囲碁を始め、1995年にプロを目指して日本棋院院生になる。翌年、岩田一門下の内弟子になるも挫折して断念。慶應義塾大学卒業後、大手印刷会社や人材系ベンチャー企業などを経て、2015年に人事コンサルタント兼 囲碁インストラクターとして独立。現在、囲碁将棋チャンネルの出演や囲碁イベントの司会業などでも活躍。

■取材・文/内藤由起子(囲碁観戦記者)
■撮影/内海裕之(長井さん)

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