「出戻り社員」の採用 企業文化を変える大きなインパクトに

「出戻り社員」の採用 企業文化を変える大きなインパクトに

人手不足が叫ばれる中、出戻り採用に積極的な企業が増えている

 一度退職した人材を再び雇用する“出戻り採用”を積極的に行う企業が増えている。だが、復帰する側からすれば、いくら勝手知ったる仕事とはいえ、かつての上司や部下との立場が変わっていれば気まずい空気にもなるだろう。果たして出戻り採用にはどんなメリットがあるのか──。働く主婦の調査機関「しゅふJOB総合研究所」所長兼「ヒトラボ」編集長の川上敬太郎氏がレポートする。

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 あなたは、一度退職した会社に戻りたいと思ったことはあるだろうか?

 しゅふJOB総研が仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦層”に、一度退職した会社に復帰したいと思ったことがあるかを質問したところ、「ある」と回答した人が56.2%いた。

 働く主婦層の場合、会社に不満があった訳ではないものの、出産や夫の転勤などが理由で仕方なく退職したケースも多い。そのため、他の属性よりも高めに出ている可能性はあるが、それでも機会があれば復帰したいと考える人の比率が半数を超える結果が出たのは注目に値するだろう。

 一度退職した社員に職場復帰してもらうことを出戻り採用などと呼ぶ。“出戻り”という言葉を少し皮肉まじりに捉える人もいるが、パナソニックやサイバーエージェントなど大手企業が積極的に出戻り採用の取り組みを実施する中で、今では一般用語化しつつある。

 海外では元社員を「アルムナイ」と呼ぶ。アルムナイとは、卒業生や同窓生を意味する英語で、コンサルティングファームのアクセンチュアなどが積極的にアルムナイのネットワークを構築していることが知られている。

 先のアンケートでは、元社員の職場復帰について賛否も調査したところ、次のような結果となった。

「自分が復帰する立場でも、復帰を受け入れる立場でも賛成」と答えた人が85.6%と、大多数を占める。働く主婦層は元社員の職場復帰に柔軟な考え方を持っているようだ。

 厚生労働省によると、令和元年7月の有効求人倍率は1.59倍。1人の求職者が、約1.6の求人から選べる計算だ。そんな採用難の状況に苦しむ企業にとって、出戻り採用の推進は有効な施策の一つとなりうる。働く側が職場復帰に柔軟な考えを持ってくれているとすれば、出戻り採用の推進はスムーズに広がっていきそうだ。

 しかしながら、比率は低いものの「自分が復帰する立場でも、復帰を受け入れる立場でも反対」と回答した人が7.4%いる点は無視できない。働く主婦層以外の属性では、もっと比率が高い可能性もある。フリーコメントに寄せられたのは、以下のような声だ。

「一度、辞める気持ちを持った職場は、また何かあると辞めたくなると思う」
「嫌で辞めている会社には戻らない。復帰も興味なし」
「一度辞めたと言う事はどのような理由にせよ、そこに居られなかった何かがあるのであろう」
「退職の仕方にもよると思う。自分の意思で退職して復帰となるなら反対」

 その他、一言、「あり得ない」というコメントもあった。

 これまでの日本の企業文化は、新卒で採用された会社で定年まで勤め上げることを基本とする雇用慣行によって培われてきた面がある。その価値観に照らし合わせれば、退職を重くとらえ、自発的な退職は会社への“裏切り行為”と捉える人もいるかもしれない。

 また「退職の仕方にもよる」という声もあったように、退職時に一悶着あった人が復帰するような際には、周囲からの反対が大きい場合もある。出戻り採用を推進する際には、自社の企業文化や退職背景などと照らし合わせながら、個々のケースで適切に判断する必要がある。

 では、出戻り採用“される”側は、元の会社への復帰が決まった際、どんな心境になるのだろうか。調査では、以下の結果となった。

「その時になってみないとわからない」の次に多かったのが、「退職後に成長した姿を見せたい」「今度は辞めないように頑張ろう」というポジティブな心境だ。「一度辞めたのに申し訳ない」「また辞めることにならないか不安」「一度辞めた手前、格好わるい」など、ネガティブな心境よりも上位にきている。

 復帰時に生じているポジティブな心境を上手く活かしてもらえれば、出戻り社員を採用するメリットはさらに高まるはずだ。

 では、そもそも出戻り採用するメリットとは何なのだろうか。

 元社員の職場復帰の賛否を調査した際に、「自分が復帰する立場でも、復帰を受け入れる立場でも賛成」と答えた人のフリーコメントには、以下の声が寄せられた。

「会社側も一から教えなくても良いし、本人も一から覚えなくてもいい」
「慣れた環境のほうがストレスが少ない」
「復職制度があると、育児や介護に専念できる」
「即戦力が得られるのはいいと思う」

 出戻り採用のメリットが社内で共有され、出戻り歓迎の社内風土が構築されれば、会社と社員の関係は大きく変化しそうだ。

 まず、退職は会社と社員との一生の別れではなくなる。新たな関係性への移行に過ぎず、より大きな戦力となって戻ってくるためのステップと捉えることができる。また、将来の復帰を見据えるとなれば、時に軋轢を生んでしまいがちな退職時においても、会社と社員双方が円満な関係を継続しようと努める誘因となりえる。

 さらに、もし退職者を組織化して定期的にOB・OG会のようなものを開催すれば、一度の就職が一生の縁となり、生涯にわたって関係が継続していくことになる。

 中には、円満な形で何度も入退社を繰り返すケースもありえる。そうなれば、“出戻り”は特別なことではなくなり、出戻り採用や出戻り社員という言葉自体が使われなくなるのではないだろうか。

 一方で、辞めるかもしれない社員を自社で育てようとする意欲が削がれるのではないかという懸念もあるかもしれない。しかし、出戻り採用を推進するのであれば、会社側は“戻ってきたい会社”になるための努力を惜しんではならないはずだ。社員育成に手を抜く会社よりも、手厚く社員の育成に取り組む会社のほうが、戻りたいと思ってもらえる確率は高くなるのではないか。

 日本は、少子化傾向が続いている。15歳以上65歳未満の生産年齢人口は約20年前から減少に転じており、今後もしばらく減少の一途をたどることは、間違いない未来だ。そんな未来を見据え、人材(=人の有する才能)という貴重な資源を有効活用する施策に知恵を絞らなければならない。人材を一社で独占するのではなく、シェアする発想への転換も必要かもしれない。

 出戻り採用はそんな施策の一つとなりうる。しかし、これまでの日本の雇用慣行とは相容れない面もあるだけに、もし今後広がっていけば、日本の企業文化を変えて行くほどのインパクトを秘めていると言えるのではないだろうか。

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