振り込め詐欺で中国から強制送還された40代男の「わが転落人生」

振り込め詐欺で中国から強制送還された40代男の「わが転落人生」

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 2019年春にタイで逮捕された日本人振り込め詐欺グループが強制送還されてきたとき、そのメンバーに明らかに中高年の姿があり、報じられた年齢には50代も含まれていたことに驚かされた。若者たちによる犯罪というイメージが強い振り込め詐欺だが、最近では、その構成員に中高年が増えている。若かった頃の失敗がきっかけで転落しはじめ、気付いたら振り込め詐欺に加わっていた40代男性の告白を、ライターの森鷹久氏が聞いた。

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 埼玉県南部のターミナル駅前。ジーパンにグレーのジャケット、ハンチング帽姿で筆者を待っていたのは、東京都内在住の野村逸男(仮名・40代)。主に生活保護を受給しながら社会復帰を目指す人々が暮らす福祉施設で生活をしている、とのことだったが、一見どこにでもいる中年のおじさんという風体。しかし、よく見るとジーパンはところどこにシミがあり、ハンチングは擦り切れ裏地が露出してしまっている。爪は長いこと切られていないために長く、真っ黒な垢がこびりついている。「どうも」と笑ってみせるが、前歯もほとんどない。この男が「特殊詐欺実行グループ」と言われれば、誰が信じるだろうか。

「あんまし悪く書かんといてくださいよ…」

 和歌山県出身の野村は地元の高校を卒業後、大阪市内の金物問屋に就職したが、そこで知り合った運送業者の勧めで、間も無く業務委託型の個人運送業者を始めた。野村がまだ夢を持ち、生き生きと輝いていた20代半ばのことである。運送業は楽ではなかったが、走れば走る分手持ちの金は増えた。月収は50万円ほどあったが、単身だったためそのほとんどが宵越しの金に消える。しかしそれでも若かったために、がむしゃらに働き、それなりの幸せも手に入れた。

「結婚は28才ですわ。子供出来てしもうたからすぐ結婚です。こう見えて、郊外の方ですけど、家まで建てました、30代前半です。もっと稼がにゃいうてあんなことやらなんだら、少しはまともな人生送れとったんちゃうかって、今でも思うんです」

 ささやかながら戸建まで持ち、ますます仕事に力を入れた野村だったが、その方向がまずかった。個人運送屋の車を使い、帳簿に乗らない運送を繰り返していたところ、商店に突っ込むという物損事故を起こしたのである。幸い人を傷つけてはいないものの、いわゆる「闇仕事」であったため、保険の類は一切効かない。一国一城の主となりわずか半年ほどでの悲劇により、野村は無職になり、3000万円の自宅ローンと、建物の原状回復費に営業補償など事故処理費用1500万円を背負うことになった。そこからは絵に描いたような転落人生である。

「ローンが払えなくなって、街金で借りて、たまに仕事して少し返して…。当然ヤミ金にも手を出しましたが、その頃には嫁は子供連れて出て行ってしまった。自宅も(借金のカタで)取られてもうて、親に土下座して実家の土地と建物まで担保に入れとったから、そっちまでやられて(とられて)ね。一族バラバラ、もう自暴自棄ですわ。それからヤミ金さんに言われて、全国の廃棄物処理場をグルグル回って仕事したりしてね。いわゆる飯場ですよ。借金もいくらあるか全然わからんし、毎月いくら返せば良いのかもわからん。考えるのをやめたんです。こうなると、とにかく生きてさえおればよいと、こうなるんですよ」

 産廃現場の後は、石油プラントの清掃や、アスベストを使った建物の撤去作業にも携わった。どれも危険な仕事だが、給与はそれなりによかった。ただ、唯一の楽しみだった酒とオンナをやめられず、出張先ではすぐに金を使い果たす。そうなればまたヤミ金に金を都合してもらい、結局飯場暮らしを自ら延長させて行ったのだ。ちょうどそんな時、職場に来ていた若い男性に金の無心をしたことをきっかけに「稼げる仕事がある」と打ち明けられた。顧客の元に行き、荷物を受け取ってくるだけで良い、それで月に30万円はかたい、というからすぐに飛びついた。

「当たり前ですけど、怪しい仕事だとは思いましたよ。私だって四十何年生きとるんですから、それくらいわかる。でもこのまま飯場で何年も仕事はできない。体壊せばそれまで、歳とってできる仕事じゃない。まあでも、単純にクスリの運び屋かくらいに思ってたのは事実ですわ。詐欺と知らんかったんはホンマです」

 いわゆる「受け子」の仕事を初めたが、最初の報酬ももらわないうちに即指名手配となり、逮捕、収監された。被害額が数十万円かつ、一件のみでの立件だったため実際の懲役は一年とちょっと。塀の外に出てきても頼れる人はおらず、結局自ら声をかけたのは、かつてのヤミ金屋であった。

「ほならすぐ10万円くれて、海外で電話の受付あるいうて紹介されて、そんで行ったんですわ。中国に。もちろん変な仕事て思うてね。ほならまた詐欺ですよ。私、喋りもよう出来んし、えらい怒鳴られてそのまますぐ逃げ出しましてね。パスポートも預けとったし、あっち(中国)の警察に捕まって強制送還です。詐欺の話もしましたよ。でもそっちではなんのお咎めもなかったし、あの人ら(他の詐欺師たち)がどうなったかも知りません」

 特殊詐欺と言われれば、若者が関与しているケースが多く、私たちもそうしたイメージを持っている。実際に特殊詐欺事件で逮捕された少年少女たちに取材をすると、多くが「富裕層」を、特に「年配者」との格差を憎んでいて、年寄りから金を奪っても良心が痛まない、という話をよく聞く。しかし、野村の見た詐欺の現場には、若者だけでなく、野村と同じような中高年の男女もいた。

 彼がその現場にいたのはわずか数日だったが、月に数万円の報酬があり、朝昼晩、コンビニ弁当の配給もあり、今にも崩れそうではあったがホテル暮らしができる、そう話す同僚がいた。人生に絶望し、生きる場所が日本にはなかったが、ここでは生きていくことができる。そう思って、野村と同世代の中高年たちがせっせと詐欺電話をかけ続けていたのだ。野村はいう。

「詐欺はこりごり思います。けど、ここが人生の果てかはまだわからんでしょう。今は社会復帰させてもらおうと訓練なんかやらせてもらってますが、もうどうにもならんって思った時、私はまた詐欺をするかもしれません。あそこなら、最低限死なんとやってはいけますから」

 厚生労働省が毎年、まとめている「国民生活基礎調査」(2018年)によれば、世帯平均所得が4年ぶりに前年を下回り、生活が苦しいと感じている世帯は全体の57%にものぼっている。このままでは、中高年、いや老人までもが詐欺という仕事に取り込まれる未来がくるかもしれない。

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