山口組組長への「サインくださ~い」はヤクザの美学に反する

山口組組長への「サインくださ~い」はヤクザの美学に反する

山口組分裂抗争はどうなる?

 マスコミとの接触は厳禁とされているはずの六代目山口組の幹部が、突如としてテレビ取材に応じた。いったい背景に何があったのか。分裂から1年、沈黙を保ってきた六代目側がついに動き出した。フリーライターの鈴木智彦氏がレポートする。

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 9月9日、東海テレビの報道番組『みんなのニュースONE』において、六代目山口組直参(二次団体)組長への独占インタビューが放送された(聞き手はジャーナリスト・大谷昭宏氏)。山口組分裂から1年を総括するというテーマの一環として企画されたもので、六代目山口組、神戸山口組の双方を通じて、組織の幹部がテレビ局のインタビューに応じるのは初めてである。

 加えて山口組分裂騒動はいつにもまして緊張状態にあった。放送の4日前、定例会に出席するため新神戸駅に降り立った司忍六代目組長が、手に色紙とサインペンをもった神戸山口組系組員らから「サインくださ~い!」と挑発されたからだ。

 暴力団はメンツのために殺し合う。それぞれのメンツを煮詰めて神格化されたのが、組織トップである。マンガチックなからかいでも、こうした嘲りは相手の聖典を踏みつけるに等しく、暴力事件に発展しかねない。この騒動で兵庫県警が神戸側にガサ入れをしたのは、決して大げさな話ではない。

「公共の場で、ましてテレビのカメラがある場所で、相手を侮辱するのはヤクザの美学に反する。本来、神戸山口組の井上(邦雄)組長が最も嫌う行為のはず」(独立団体幹部)

 たとえ裏があったにせよ、神戸山口組はこの批判を受け止めざるを得ない。こうした状況でのテレビインタビューだけあって、登場する直参の言動に注目が集まったのである。

 実は筆者は、この番組制作サイドからコメント依頼を受けていた。「抗争の一方だけを取材し、両論併記になっていないため」という理由からだった。

 東海テレビ宣伝部は放送について、「番組の編集方針に関わる内容であるため、回答については控えさせていただきます」と答えたが、放送までに局内で相当の議論や逡巡があったことは間違いない。

 テレビ初の直参インタビューも、話題は新神戸駅の騒動から始まった。直参はかなりきつめの言葉で話し始めた。

「これはちょっと許されんなと思ってね。神戸駅で親分にサインくださいとか。神様ですよ。我々にとったら。親分って。つい1年前まで、親分の写真をおいて『はー』って思っとった者が、このガキら、自分らがしたことがどんだけ後日マイナスになるかということを理解できてない」

 前述したとおり、ヤクザの美学からすれば完全にアウトの事例なので、六代目側の組長にとっては格好の攻撃材料だったろう。

 だが、後に続く主張に目新しい内容は皆無だった。「分裂」を「謀反」と表現するなど、自陣営を100%正当化したものだ。活字メディアでは既出であり、いまさらという感想しかない。それでも動画は消しゴムで修正するわけにいかないので、細部の言い回しは刺激的ではあった。

「向こうの井上次第でしょ。井上が親分のとこに来て、『勘違いしてました。申し訳ありませんでした』と言うたらそれで終いですよ」

 などという言い回しは、たとえ相手がそのとおりにしゃべっても活字メディアでは書けない。インタビューで相手のトップを「井上」と呼び捨てにしたのは、相手への侮辱という意味でヤクザ社会では同様にタブー視される表現だが、「サイン挑発」のお返しとしてあえて使ったのだろうか。

※週刊ポスト2016年9月30日号

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