台風が3回直撃した北海道・十勝 農業王国の苦境

台風が3回直撃した北海道・十勝 農業王国の苦境

晴天でも水が引かないじゃがいも畑(右)と、なぎ倒されたとうもろこし畑(左)

 未曾有の天災に見舞われた北海道の農業はいまどうなっているのか。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏がリポートする。

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 今年の8月、4つの台風が北海道を襲った。なかでも、国内屈指の農業王国である十勝エリアには3つの台風が直撃。十勝総合振興局の試算では管内の被害総額は573億円に達したという。しかも、この額には国や市町村の管理下にある、土砂崩れで崩落した道路や、川の氾濫で流された橋、JRの線路被害といった類のものは含まれていない。

 民間企業のダメージも露わになってきた。9月上旬、十勝に生産拠点を置くカルビーはポテトチップスの発売延期を決定。中旬になってキユーピーも「アヲハタ」ブランドのトウモロコシや大豆を使った缶詰・袋詰商品14品目の製造休止を発表した。

 そんな9月中旬、十勝を訪れる機会を得た。何軒かの畑作農家や畜産農家を巡り、話を聞いたが、東京で聞く以上に十勝の被害は甚大だった。そもそも話を聞く前から、目の前には水田でもないのに、水が抜けていない畑が広がっていた。稲作農家の田んぼでも、この時期にはとっくに水が抜けている。水田のようにも見える畑からは、収穫前のじゃがいもが顔をのぞかせていたりもする。

 本来なら十勝の9月上旬はじゃがいもの収穫期だ。ところが、未曾有の降雨でじゃがいもを収穫するポテトハーベスターのような巨大な農業機械は畑に入れなくなった。ぬかるみにはまって出てこられなくなってしまうからだ。だが水に浸かったじゃがいもを収穫しないままにしておいては、腐ってしまう。そうなる前に、少しでも収穫するべく農業ボランティアを募り、広大な畑からじゃがいもを手作業で掘り起こす農家すらあったという。

 地元で数十年、農業を営む60代のベテラン農家も、「こんなのは初めて」と肩を落としていた。

「そもそも今年は、7月まででさえ『十勝史上最悪』と言われるほどの天候不順だった。そこに来て、例年ならこない台風がいくつも……。今年の分の減収は共済で何割か戻ってくるだろうけど、本当にきついのは来年以降だよ。ハハハ……」

 乾いた笑いが胸に刺さる。

 十勝の農業は「輪作」という栽培方式だ。ひとつの作物を同じ畑で連続して栽培するのではなく、じゃがいも、小麦、てんさい、豆類などを1年ごと、季節ごとに植えていく。なかでも作付面積が大きいのが、春から夏にかけて収穫する秋蒔き小麦だ。ところが、この秋はじゃがいもの収穫や回収ができず、いまだ小麦の種を蒔くことができない。

 秋蒔き小麦は、一定期間低温で生育させないと穂が出ない。この時期に種を蒔かないと来年の収穫が見込めなくなってしまう。ことは、じゃがいもという単一の作物だけの問題でもなければ、今年の収穫という一過性の話でもない。

 ここに挙げたのはごく一部の話だ。冠水した加工工場や、復旧に時間のかかる橋や道路などのインフラ……。自給率1%の東京の食を支える、自給率1249%の十勝という一大農業王国が、今後数年に渡り苦境に追い込まれる可能性がある。

 そのとき、東京はどうするのか。そしていま、何ができるのだろうか。次回ももう少し十勝と北海道の話を書こうと思う。

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