台風19号で避難勧告と復興作業に奔走したある消防団員の証言

台風19号で避難勧告と復興作業に奔走したある消防団員の証言

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 災害時に、自衛隊や消防、警察などとともに地域の安全を守るために活動する消防団。地元の一般市民が参加しているため、地域密着の利点を生かし、避難誘導などには欠かせない存在となっている。仕事を持ちながら活動する消防団員は専門職員ではなく、住民と同じ目線で活動できるがゆえの利点もあるが、同時に問題も生じやすい。ライターの森鷹久氏が、消防団員が直面した避難誘導の難しさとやりがいについてレポートする。

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 90名を超える死者、複数の行方不明者もいる台風19号を始め、日本列島各地で甚大な被害を遺す災害が続いている。各被災地域では、一日も早く日常生活を取り戻すべく、懸命の復興作業が行われているが、茨城県在住の消防団員・Mさん(30代)は、復興作業に従事しつつ、あまりに無力だった自分を今も責め続ける。

「避難してくれと回っても、聞いてくれない人がいる。高齢者の多い地域なので、現実問題として避難が厳しいというのはあるが…」

 台風19号に襲われたとき、茨城県内では、水戸市を流れる那珂川とその支流で複数の決壊が発生。浸水被害などにより、これまで二人の死者が確認されているが、Mさんの住む町でも、多くの家が床上浸水などの被害を受けた。幸いにも死者は出ていないが、Mさんは悔やむ。10月12日の夜、強い雨に打たれながら、Mさんは仲間の消防団員とポンプ車に乗り、住人に避難するよう呼びかけを行なった。「警戒レベル4」にあたる避難勧告が同エリアに出されたのは午後二時ごろ、それから既に6時間以上が経過していたタイミングだった。

「那珂川やその支流で決壊の恐れがあると、テレビも盛んに言っていました。川に近い住宅を一軒ずつ訪ねて、避難を促すんです。でもみんな逃げてくれない。二階にいるからいいとか、大げさだとか、そんな反応です」

 中には、避難所は子供がうるさくて嫌だ、トイレが汚いから行きたくないなど、本当に非常事態だと認識しているかわからないような反応が返ってくることもあったというが、根気強く説得して回った。その結果、大多数の人々が近隣の小学校や公民館に避難をしてくれたが、数軒の住人は、頑なに自宅に居残った。

「最後はどうなっても知りませんよ、と怒鳴ってしまった。足腰の悪い高齢者夫婦だけのお宅もあり、頭にきて死ぬのなら勝手にしろ、と捨て台詞を吐きたい気持ちだったことも事実です」

 翌13日未明、消防団詰所にいたMさんの元に、近くの川で越水が起き、住宅街に水が流れてきたとの情報が入る。県が公開しているハザードマップで浸水の可能性が高いエリアとして記されている、Mさんが避難するように説得したにも関わらず居残った数組の住民がいる場所だ。すぐに出動すべきだ、救出活動に向かうべきだとその場にいた消防団員は皆思った。だが……。

「那珂川の支流では複数箇所で越水だけでなく決壊も起きているのではないかという情報が入りました。今我々が動いても、二次被害の恐れがある。我々は消防団員ですが、救助のプロではない。結局、朝までテレビニュースを見ながら、ネットで川の水位を眺めつつ、ただじっと祈るしかありませんでした」

 そもそも消防団員とは、本業を別に持つ一般市民である。よく見かける活動としては、火災予防運動の一環で行われる火の用心の夜回りや、休日の公園などでときどき実施されている放水訓練などではないだろうか。団員に報酬が少し発生することもあるというが、活動費で消えてしまうことがほとんどだ。あくまで本業は別なので、プロの消防士のようにはいかない。とはいえ、地域へ貢献したいという気持ちを持っており、Mさんもその一人だ。

 ほとんど一睡もせずに迎えた13日早朝。当初テレビではほとんど報じられなかったが、Mさんの住む地域はほとんどが床下冠水し、一部の家は一階部分にまで水が押し寄せ、住人が取り残されていた。危険で近づけないところには、消防隊のボートやヘリが救出に向かうということで、比較的救助の容易い床下冠水エリアに向かう。そこにはMさんの説得を拒んだ住人がいた。

「遅いじゃないか、と開口一番、怒鳴られました。中年の息子さん、高齢の父母が住むお宅です。浸水を免れたお宅に安否確認に行くと、遅くまで避難避難とうるさく言われて眠れなかった、とも言われました」

 Mさんたち消防団員にとって、これほどショックで屈辱的なことはないが、気持ちを押し殺し、黙々と任務をこなす。住民を避難所に送り届けた後、昨夜のうちに避難していた高齢夫婦がMさんの元に駆け寄ってきた。

「あんたを信じて良かったと、手を握られました。もう涙が止まりませんでした。幸いにも地域から死者は出なかったが、それは本当に偶然でした。うるさいと言われても、首に紐をつけてでも避難させるべきだったし、後悔してからでは遅いんです。県内では死者も出たし、全国で多くの人が亡くなっている。こうした事実を、避難されなかった人々に知ってほしい。そして考えてほしいんです」

 10月25日には、千葉から茨城にかけて大雨が降った。当然頭をよぎるのは台風19号の甚大な被害である。Mさんの住む地域にも、大雨警報が発表され、なんとか無事だった緩んだ地盤、堤防がついに崩壊してしまうかもしれない。Mさんが続ける。

「あの時、いくら言っても避難しなかった方のお宅を訪ねると、よく来てくれたありがとうとお礼を言われましたね。今度は私らに迷惑をかけられない、避難する準備はいつでもできていると…。緊急事態に陥った時、お互いに気が立って冷静になれない部分もあったかと感じます。ただ、口酸っぱくして避難を促したことで、わかったもらえたのではないか。胸が熱くなりました」

 筆者は昨年の夏にも、西日本豪雨による特別大雨警報が出たにも関わらず、避難しなかった知人の話を元に記事を書いた。災害を甘く見ていた消防団員が、家の周囲が冠水し取り残され、災害への見方を改めた、と話していたことを思い出す。逃げることは恥でもない、逃げろと言い続けることはおせっかいでもなんでもない。災害大国である我が国で、一人でも多くの人たちの命が守られるよう、マスコミや識者、役人はもちろん、国民一人一人が災害との向き合い方を考え続けなければならない。

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