デジタルタトゥーに悩む女性が急増 ライブチャットで被害も

デジタルタトゥーに悩む女性が急増 ライブチャットで被害も

「デジタルタトゥー」に悩む若い女性が増えている

 殺人にまで及んだストーカーが被害女性のあられもない姿をネットに公開した事件によって、ネットでの「リベンジポルノ」の危険性については多くの人が知るところとなった。いま、そこから一歩進んで、ネット上に残した痕跡が消せない「デジタルタトゥー」が大きな問題になっている。デジタルタトゥーが刻まれたことで人生を一変させられた女性について、ライターの森鷹久氏がリポートする。

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「デジタルタトゥー」

 ネット上に、たった一度でも個人情報などが拡散されてしまえば、その痕跡を完全に消し去る事が困難である事から、いわゆる「入れ墨」に例えて使われるようになった言葉である。今、この「デジタルタトゥー」に悩む若い女性が、とある所で激増している事実は、あまり知られていない。

 M子(23)は、ファッション雑誌やネット通販サイトでモデルとして活動していたが、ある日突然、一方的に事務所から解雇を告げられた。事務所側から送られて来た書面には「重大な契約違反」と記してあったが、実はM子には思い当たるフシがない訳ではなかった。

 大学三年の春、知人の紹介で東京・池袋のキャバクラでアルバイトを始めたM子。スタート時給は3500円。夜の10時から深夜2時まで、週に3~4回の勤務で、実家からの仕送りの3倍相当、約20万円以上の月給を手にしていた。ちょうどその頃、所属していたサークルの仲間からのあと押しもあり、M子は大学ミスコンにエントリーすることが決まった。

「当時は20歳でしたが、ミスコンへのエントリーが決まると、毎日飲み会が続きました。選挙と一緒で、いろんな所に顔を出さなきゃいけないんです。美容室に行く回数も増え、服だってたくさん買いました」

 飲み会が増え、キャバクラでのアルバイトも週に2日出られればいい方。支出は増えるが収入は減るという悪循環の中で、M子の頭の中はいつしか「手っ取り早く稼ぐ」事でいっぱいになっていた。しかし、切羽詰まってはいても、短絡的な稼ぎ方には当然抵抗があった。

「ミスコンに出るのに、風俗やアダルトビデオに出るなんて致命的じゃないですか」

 実際に2006年の秋、慶應義塾大学のミスコン参加者にアダルトビデオ出演疑惑が発覚。ネット上では大騒ぎとなり、渦中の女性はミスコンへの参加を辞退するまで追い込まれてしまった。とはいえ、カードも上限額を使い果たし、仕送りの家賃分にも手を付けてしまっていたM子。やむなく相談したのは、アルバイト先のキャバクラ店長だった。

「時給は増やせても千円。シフトに多く入ってもらうしか無いといわれましたが、後日”割のいいバイトがある”と連絡を貰いました」

 そのバイトとは「チャットレディ」といわれるもの。ネット回線を使い、男女がチャットを通じてやり取りをするスタイルで、男性側だけが料金を支払うシステム。以前はチャットといえば文字のみのやり取りによるものだったが、最近では女性側の”顔出し”と”ライブ配信”は当たり前で、かつ、そうでなければ男性客がつく事はあり得ない。後述するが、ここで男性側には”顔出し”の必要はなく、この構造こそが”デジタルタトゥー被害”を拡大させる、卑劣過ぎる動機を産み出す要因ともなっている。

「ただ話をするだけで時給二千円、自宅でも出来るといわれて魅力的な仕事だと思いました。顔を出すのには抵抗がありましたが、一対一だから安心。そう説明されてやってみたんです」

 朝や夜、空いた時間で効率的にカネを稼げると思っていたM子の考えは甘かった。アダルト業界に詳しいライターは、ネット上のライブチャットについて、次のように説明する。

「ライブチャット出演者には、男性客が利用した時間分に応じての報酬が支払われる場合がほとんど。時間を引っ張る為に、女性側から積極的に過激なサービス及んでしまう傾向があるのです」

 男性を引き止めておく為に、下着になったり、ワイセツな会話をしてみたり、時にはマスターベーションをして見せる女性もいるという。ほとんど収入を得られなかったM子も、ついにはパソコンの前で下着姿になった。

「風俗もAVも嫌だけど、ライブチャットならあまり抵抗が無かったですね。常連のお客さんも何人かいて、たまに下着の下をずらしみたりする事もありました」

 だが結局、このライブチャットのバイトは長くは続かず、ミスコンでも、なんの賞も受賞できなかった。一方、とある雑誌編集部から声がかかり、読者モデルとして活動をスタートし、現在に至る訳だが……。

 筆者は、件の「重大な契約違反」通知をM子に送った事務所関係者から話を聞く事が出来た。M子への怒りや怨嗟が飛び出るのかと思いきや、話は意外な方向へと進んで行く。

「M子については、過去に芸能活動をしていない、という契約時の条件について、契約に違反していたと判断し解雇しました」

──芸能活動とは”ライブチャット”なのか?

「正直そこは苦しい所ですが、卑猥な言動があった以上、やむを得ない判断です」

──なぜM子がライブチャットをしている事が発覚した?

「密告ですが、恐らく事務所に所属する女性、もしくはその関係者の誰かでしょう」

 事務所関係者が筆者にみせてくれたのは、半裸の状態でカメラに向かい、卑猥な言葉を発しているM子の動画だった。名前こそ偽名だったが、紛れもないM子の姿。その偽名で検索すれば、M子の動画が少なくとも十数カ所のアダルトサイトに転載されて、今なお閲覧も、ダウンロードも可能な状態にあった。

「M子の解雇だけで済めば御の字。M子がモデルを勤めていたブランドなど、クライアントに知れ渡ると、M子に損害賠償をする可能性も否定出来ない。気の毒だとは思いますよ。たった一回、ライブチャットをやってしまったというだけで、あらゆる可能性の道が閉ざされる。でも仕方ない」

 前述のライターは、M子のように、気軽にライブチャットに参加する若い女性が増え続けている事を指摘した上で「デジタルタトゥー」被害が拡大するシステムについて説明する。

「風俗や水商売に比べ、ライブチャットは安心という間違った意識が女性にある。パソコンの前で下着になったり脱いだりしても、相手方がそこにはいないからです。しかし、相手方がその映像を録画している場合がある。違法に録画された映像は、そのまま”商品”となり、違法に運営されているアダルトサイト上で売買されます。このように違法が違法を呼ぶ状態に陥れば、様々なサイトに動画は転載され、回収も削除も、事実上不可能になる。永遠に、彼女達のあられもない姿がネット上を漂流し続ける事になるのです」

 さらに、アダルトビデオ制作会社幹部は、この問題が”チャットレディ”だけに限られた話ではないと分析する。

「以前は”ビデオやDVDだから、顔バレの可能性は低い”と、出演者女性は考えていました。しかし現在は、サンプルなど公式のものから違法な海賊版まで、アダルトビデオのほとんどがネット上で閲覧出来ます。一度出てしまえば一生残る、まさに”デジタルタトゥー”なんです」

 件の慶應のミスコン候補女子大生を始め、某有名アイドルや現役タレントなど、遠い過去のたった一度の過ちをネット上で掘り返されることにより、実生活はおろか、人間の尊厳までを毀損され続ける日々を甘受せざるを得なくなっている。彼女達がここまで執拗に追い込まれるのはやむを得ない事なのか。筆者には異常としか思えない。

 M子は事務所を解雇されると、職場も辞め、逃げるように実家に戻り、ひっそりと生活している。髪型も服装も、あえて自らの趣味に合わないようなスタイルにして、外出時にはマスクが欠かせない。医師からは「脅迫性障害」と診断され、まともに働く事も出来ないでいる。

「常に誰かに後ろ指を指されている気がします。いや、実際に私の映像は今も誰かに見られている。このまま一生まともな生活が出来ないのではないか」

 複数のアダルトサイトには、今日も新たな”ライブチャット”映像が違法にアップロードされ、中には児童ポルノや盗撮とおぼしき映像もまでもが散見される。サイトのサーバーが海外にある場合も多く、日本の司法がなかなか取り締まる事が出来ない事も、被害拡大の原因となっている現実がある。これといった対策が無い以上、今起きている悲劇を徹底的に周知させ、被害者になり得る人々への啓発を行う以外に手段はないだろう。

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