N国・立花孝志氏がホリエモンや清原和博氏に出馬要請する狙い

N国・立花孝志氏がホリエモンや清原和博氏に出馬要請する狙い

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 炎上商法を実践しながら勢力を伸ばす政党「NHKから国民を守る党」の公約は「NHK集金人のトラブルを解決するために、集金行為が必要ないNHKのスクランブル放送化の実現」を目指すことだ。世間に漠然と存在するNHKへの反感を利用して、衆議院議員1名、参議院議員1名、市区町村議員31名へと勢力を伸ばしてきた彼らの勢いは、N国現象、一時的なブームととらえてよいものなのか。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』(集英社)の著者であるフリーランスライターの畠山理仁氏が、党首の立花孝志氏が考える公約実現、堀江貴文氏や清原和博氏へ出馬要請をする狙いをさぐり、一票を託す価値について考える。

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 NHKから国民を守る党(N国)の行動原理は「悪名は無名に勝る」の一言に尽きると言っていい。炎上による悪目立ちを繰り返しても、「反NHKの政党」というイメージが世間に広がりさえすれば、一定の得票が見込めるからだ。この世に「NHK」という巨大組織が存在する限り、N国が政界から消えることはないだろう。

 N国は先の参院選で「政党要件」を満たし、年間億単位の政党交付金を受け取る立場になった。税金から支出される政党交付金や議員歳費は、N国の政治活動を支えている。

 そして、あまり知られてはいないが、政党要件を満たした政党には巨大な既得権がある。政党要件を満たしている期間に国政選挙があった場合、候補者を立てて票が入れば、「当選者0」であっても得票割合に応じて政党交付金が支出されるのだ。だからこそ、「次期衆院選では289の小選挙区すべてに候補者を立てたい」(立花孝志党首)という野望も実現可能になっている。

 小選挙区の供託金は300万円。これに289選挙区をかけると、8億6700万円になる。しかし、仮に小選挙区での得票割合を「6%」として計算すると、4年間の政党交付金(衆議院小選挙区での得票割合分のみ)で十分お釣りが出る。立花党首は「1票あたり約80円」と計算しているが、有権者はすでに「打ち出の小槌」をN国に与えていると言ってもいい。

 そんな立花党首の座右の銘は「カネとオンナと票は、取りに行ったら逃げる」だ。だから有権者に嘘を言って無理をしたり、媚びたりすることはない。自らの言動を多くの人に理解してもらおうとも思っていない。「本音の自分を出していけばいい。嫌われてもいい」と言う。従来の常識や道徳、倫理観でN国を批判しても、まったく響かない理由がここにある。

 一般的には「品がない」と映るかもしれない。実際に筆者もそう感じた。だから立花党首とイベントで同席した際、面と向かって指摘した。すると、彼は胸を張ってこう言った。

「そんなことはわかっています。でも、悪役を辞めるつもりはありません。NHKのスクランブル放送化を実現するために、これからもどんどん炎上して、どんどん売名します」

◆N国が目指す「選挙と政治の分離」

 そんなN国の次の一手は、「選挙と政治の分離」だという。立花党首は「国政選挙における選挙区での当選は無理だ」と明言しながらも、知名度の高い候補を何人も立て、党の得票の底上げを図っていく計画だ。

 候補者の知名度がなければ「イケメンや美人を立てる。若者や高学歴の人を立てる」と言ってはばからない。そして最終的には、定数の多い比例ブロックでの当選を目指している。

 衆議院議員選挙には、全国で11の比例ブロックがある。立花党首の分析によれば、そのうち、定数が多い次の6つで当選の可能性があるという。以下に列挙する「当選ライン」とは、1議席獲得に必要な得票率の目安である。

・東京ブロック(定数17)当選ライン5%
・北関東ブロック(定数19)当選ライン4%
・南関東ブロック(定数22)当選ライン4%
・近畿ブロック(定数28)当選ライン3%
・九州ブロック(定数20)当選ライン4%
・東海ブロック(定数21)当選ライン4%

 これに先の参議院選での得票率をそのまま当てはめることは適当ではない。しかし、7月の参院選で、N国は全国の選挙区での得票率3.02%を記録した。候補者を立てた37選挙区のうち、福井県、岐阜県、群馬県では得票率が7%を超えたこと(7.68%、7.47%、7.43%)、もっとも低い大阪府は1.24%だったが、それ以外ではすべて2%を超えたことを踏まえて数値を重ねてみると、議席獲得の可能性は十分にあると思えてくる。

 N国がさらに周到なのは、国政選挙と地方選挙を連動させて候補者の選定を進めている点だ。つまり、勝ち目のない国政選挙への立候補は、のちに行なわれる地方選挙で勝つための『顔見世興行』の意味を持っている。

 国政選挙の供託金300万円を払っても、N国の候補者には敵の本丸である「NHKのスタジオ」という最高のロケ地で撮影したプロモーションビデオ(政見放送)が残る。しかも、N国は政見放送をすぐにYouTubeにアップする。ネット上で永続的に流せる政見放送は、「反NHK」をアピールする最高の素材になるのだ。

 しかも、一定の得票があれば、党には政党交付金が入ってくる。有効投票数の10%をクリアすれば供託金も返還される。ポスター印刷代などの選挙費用も公費負担が受けられる。立花党首が「選挙を使って売名するほうが圧倒的に安い」と胸を張るのは、そのためだ。

 立花党首は7月21日執行の参議院議員通常選挙で当選していたにも関わらず、任期途中で参議院埼玉選出議員補欠選挙(10月27日投開票)に鞍替え出馬して自動失職する道を選んだ。この理解しがたい行動は大きな話題となったが、実はその直後にも想定外の行動をとっている。埼玉補選の選挙期間中、投開票日を待たずに早々と「敗北宣言」をし、11月に行なわれる海老名市長選挙(3日告示、10日投開票)への立候補を表明したのだ。選挙中の候補者の常識からすれば、とても信じられない。その上、埼玉補選での落選翌日には、

「海老名市長選に当選しない可能性が高いのは自覚している」

 と話しながら、

「この他にも、奈良県の桜井市長選挙、東京の府中市もしくは八王子市の市長選挙、神奈川県の藤沢市長選挙、大阪府の大東市長選挙、そして来年7月の東京都知事選挙など、首長選挙に出続ける予定です」

 との計画も明かした。こうした事実だけを見ても、N国と立花党首を常識で測ろうとすることに全く意味がないことがわかるだろう。

◆NHKのスクランブル放送実現まで何年待てるのか

 ここで有権者は大切なことを意識しなければならない。それは立花党首の言動だ。

 N国の立花党首は、党の集票の広告塔となりうる人物を選挙に立候補させ、党勢の拡大を目指している。そして驚くべきことに、「選挙の得意な人は選挙だけすればいい」「当選したら、政治は別の人がすればいい」とも発言している。

 たとえば、先の参議院埼玉補欠選では、立花党首の選挙ポスター掲示責任者として堀江貴文氏が名前を連ねていた。しかも、堀江氏の名前は候補者名とほぼ同じ大きさで大書されていた。ポスターに掲示責任者の名前を明記することは公職選挙法で定められているが、文字のサイズに規制はない。普通であれば、選挙の「主役」である候補者の名前を大書して、掲示責任者の名前は読めないほど小さく書く。まさかここまで掲示責任者の名前を大きく書いてアピールする候補が現れるとは、は誰も想定していなかったはずだ。

 立花党首は次期総選挙において、堀江氏を埼玉5区(立憲民主党の枝野幸男代表の地盤)と北関東ブロックに重複立候補させる計画を再三にわたって話してきた。堀江氏はいまのところ態度を明確にしていないが、立花党首は「おそらく出るでしょう」と繰り返している。出馬を明確には否定せず、話題が継続する余地を残している時点で、堀江氏は十分に「N国の広告塔」としての役割を果たしている。

 仮に堀江氏が埼玉5区で立候補したとしても、問題は残る。いくら有権者が「ホリエモンを政治家に」と願って投票しても、堀江氏が政治家として全く活動しない可能性があるからだ。立花党首の中では、あくまでもホリエモンは「選挙だけをする人」。政治をするのは全く別の人になる可能性がある。有権者は、N国やN国の候補者に投票する前に、そのことを十分に認識しておく必要がある。

 さらに立花党首は筆者の質問に対し、「清原さん(元プロ野球選手の清原和博氏)にも出馬を打診しています」とも明かしている。出馬交渉が難航していることは認めているが、それでも実名を出すことはやめない。名前を出すだけで広告効果があることを知っているからだ。交渉中の相手の実名をバンバン出すことも、従来の常識では考えられないことだろう。

 もし、有権者にとって唯一の救いがあるとすれば、N国が事実を隠そうとはしないことだ。筆者がN国の公約のキモである「NHKのスクランブル放送実現にはどれくらいの時間がかかるのか」について質問すると、立花党首はこう答えた。

「簡単にはいかないでしょうね。5年から10年はかかるのかなと思っています」

 しかし、5年後、10年後にスクランブル放送が実現できるかどうかは、全くの未知数だ。年間2万5千円ほどの受信料を「安心して払わない」ために、他の政策課題を犠牲にしてまで何年も待ち続ける有権者がどれほどいるだろうか。

 世の中に、「N国には常識が通用しない。面倒だから関わりたくない」という感情があるのはよくわかる。しかし、そうした考えはN国の実態をより不透明にし、結果としてN国を支える力になってしまうことを忘れてはいけない。

 いま必要なのは、特定の政党を熱狂的に支持することでも、感情的に怒ることでも、完全に無視することでもない。各政党の政策や実態に関する情報収集を進め、「一票を託す価値があるのか」を冷静に判断することだ。

●はたけやま みちよし/フリーランスライター。1973年生まれ。早稲田大学在学中から取材、執筆を始める。泡沫候補と呼ばれる立候補者たちを追った『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』(集英社)で第15回開高健ノンフィクション賞受賞。他の著書に『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)など。

黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い

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