私立中学に広がるコース制 小6受験生に選択させる是非は

私立中学に広がるコース制 小6受験生に選択させる是非は

「学力別」「学習内容別」のコース制が増えてきた私立中学

 私立高校の中には、文系・理系に分かれるクラスがあったり、より専門的な学問を学べるクラス、難関大学を目指す特進クラスなど学力別の「コース制」を設ける学校が多いが、いまやその流れは私立中学にまで広がっている。安田教育研究所の安田理氏が、多様なコースを取り入れる私立中学の現状と問題点について考察する。

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 近年、私立中学で様々な「コース制」を取り入れる学校が増えています。といっても、御三家やそれに準ずる難関校、上位校でコース制を取り入れているところはあまりありません。

 これは、そもそも難関校に入学してくる生徒は、難しい入学試験を突破してきているので、全体的に学力レベルが高い(そもそも低学力の生徒がいない)ことによります。もちろん入学後にはどうしても学力差は広がるので、英語・数学などの教科で習熟度別クラス編成をしているケースはありますが。

 一方、中堅校の場合は積極的にコース制を取り入れている学校が多数あります。その理由は大きく2つあります。

 まず、中堅校の場合は、上位校に落ちてたまたま入学してきた生徒、偏差値以上のチャレンジ受験だったがたまたま合格した生徒、第一志望でその学校向けの対策に注力したおかげで合格を勝ち取った生徒……と多様な生徒が入ってきています。そのため学習の効果を上げるためにコース制にしているというケースです。

 もうひとつの理由は、少しでも学力の高い層(難関大学を目指している層)に受けてもらいたいということで、コース制を採用しているケースです。

 コースの名称は当初は“特別に大学進学に向けて指導します”ということで、「特進コース」という名称がふつうでした。が、どこもが取り入れるようになると、多くの中から選んでもらうために「東大クラス選抜」「スーパー特進コース」「最難関国公立大コース」といったインパクトのある名称を付けるようになってきています。

 どうでしょう。保護者の方も、普通の学校よりコース制を採っている学校、それも単なる「特進コース」より際立った名称の学校のほうが、学校が大学受験に向けて熱心に取り組んでくれるように感じ、わが子が難関大学に受かりそうな気もしませんか?

◆インパクトあるコース名で難関大の受験熱をアピール

 では、コース制の現状はどうなっているのか。最初に学力別のコースを設けている学校の例をいくつかご紹介しましょう。

【男子校】
・京華/特別選抜、中高一貫
・佼成学園/アドバンスト、マスタリ―
・聖学院/アドバンスト、レギュラー
・東京都市大学付属/II類(最難関国公立大)、I類(難関国公立私大)
【共学校】
・国学院久我山/〈男子部〉ST選抜、一般 〈女子部〉ST選抜、CC
・淑徳/スーパー特進東大選抜、スーパー特進
・東京都市大学等々力/S特選、特選
・八王子学園八王子/東大・医進、一貫特進
・八雲学園/Honors Track.Advanced Track
・開智/先端、一貫
・栄東/東大、難関大

 ちなみに、女子校にこうした競うコースが少ないのは、女子はコースをつくると校内に一体感が生まれにくいからです。それを警戒して女子校はつくらないのだといえます。

 また、以前は上位コースでないコースには「総合」や「普通」、「進学」といった名称を付けるケースが多かったのですが、上位コースも下位コースも最近はこのようにさまざまなインパクトのある名称を付けています。易しいほうのコースでも「難関大学に受からせますよ」という姿勢を強調するようになっていることが最近の傾向です。

 また、上記の学校は東京・埼玉ばかりです。神奈川・千葉にもコースを設けている学校はありますが、そうした学校は県全体からすると少数派です。こうした点にも県による学校文化の違いが見られます。

◆女子校はグローバルコースを設ける学校が多い

 最近増えているのが、学力別ではなく、重点を置く学習内容の違いによるコース分けです。特に社会のグローバル化に対応して、「グローバル」「インター」「国際」といった名称を冠したコースが急増しています。先の学力別コースに女子校がなかったのは、女子校ほど「グローバル」を付ける学校が多いという側面もあります(逆に男子校ではほとんどありません)。

【女子校】
・大妻中野/グローバルリーダーズ、アドバンスト
・神田女学園/グローバル、アドバンスト、フューチャー
・横浜女学院/国際教養、アカデミー
【共学校】
・開智日本橋学園/グローバルリーディング、デュアルランゲージ、リーディング、アドバンスド
・駒込/国際先進、本科AGS
・日本大学/グローバルリーダーズ、Nスタンダード

 2020年度にコースを改編する学校も次のようなコースを設けます。

・国本女子/ダブルディプロマコース(高校卒業時にカナダの高校卒業資格も日本と併せて取得できる)を新設。在来のコースはリベラルアーツの名称とする
・鎌倉女子大学/国際教養コースとプログレスコースに改編
・昭和学院/IA(インターナショナルアカデミー)コース、AA(アドバンストアカデミー)コース、GA(ジェネラルアカデミー)コースを新設

 といった具合で、来年もますます広がります。こうしたコースでは、長期・短期の留学や多様な海外研修の機会を用意したりして、生徒に「グローバル社会」で生きる力を付けさせようと工夫しています。

 目下、私立中学が力を入れている学習内容には、「グローバル教育」のほかに「サイエンス教育(STEM教育なども)」があり、こうしたジャンルに力を入れるコースを設ける学校も最近増えています(1つの学校が両方のコースを設置することが多い)。そうした学校も挙げてみましょう。

【男子校】
・明法/国際理解、進学GRIT,サイエンスGE
【共学校】
・工学院大学附属/ハイブリッドインター、ハイブリッド特進、ハイブリッド特進理数
・広尾学園/本科、医進サイエンス、インターナショナル
・三田国際学園/本科、メディカルサイエンステクノロジー、インターナショナル
・芝浦工業大学柏/グローバルサイエンス、一般

 やはり新しい学習内容だけに学校改革に熱心な共学校に多く見られます。これまでに挙げたものは一例で、これら以外にも多数あります。私立中学のコース制はこんなにも多様化しているのです。

◆小学6年生での「コース選択」を考える

 しかし、これだけ私立中でコース制が多様化してきたといっても、「受験する小学6年生の段階で選択させるのは酷ではないか?」という方がきっといると思います。そこでタイプごとに考えてみましょう。

●学力別コース
 学力別のコースは名称からもわかるように、難関大学合格を第一義に考えているので、入学後に大学受験を強く意識したカリキュラムで授業が進められます。難関校はどちらかというと生徒の自主性に任せる比重が高いですから、面倒見のいい指導を期待してコースを設けている学校選ぶご家庭が多いわけです。

 また、高得点で合格すると、特待生となって授業料免除などの特典が受けられる場合もあり、その点に魅力を感じて受験する生徒もいます。

 ただ、コース制とひとくちに言っても学校によって違いが大きく、入学後は授業時間数から教材・講習まで別という学校もあれば、名称だけで実質的にはほとんど差がない学校もあります。ですから、受験するにあたってはその学校のコース制はどのようなシステムなのか、よく確認する必要があります。

 中高6年間をコースの優秀な同級生たちと共に競い合っていく環境で、わが子が伸びるタイプかどうか、また子どもにハードなカリキュラムをこなすだけの覚悟があるかどうかを見極める必要もあるでしょう。

 コース制を採っている学校の場合は、どうしても上位コース・下位コースという感覚が生まれます。それが発奮材料になる子もいれば、早々に自分の限界を意識して意欲を失ってしまう子もいます。そういう点では、コース制の学校は普通の学校以上にわが子のタイプをきちんと見極めて選ぶことが大切になるのです。

●学習内容の違いによるコース
「グローバル」系コースも「サイエンス」系コースもここ数年の動きです。いま社会ではグローバル人材、IT人材の不足が連日のように報道されていますが、学校がコースを設けることでそうした人材を育てることに力を入れているという姿勢を示していると捉えていいでしょう。

 また、こうしたコースが増えているのは、わが子をそうした人材に育てたいという保護者が大勢いるということの表れでもあります。

 いま囲碁でも将棋でも、楽器でも、フィギュアスケート・スケボーなどのスポーツでも、小さなうちから取り組み、才能を伸ばしているケースはごく普通にあります。英検などでも小学生が2級取得などという話を耳にしますし、ロボットの世界大会出場、プログラミングでアプリ開発などの例も頻繁にあります。

 ですから、早くからわが子に合った教育で才能を開花させたいという考え方もありだと思います。

 しかし、わが子の才能の見極めは実に難しいものです。本人が本当に好きで、なおかつ才能もあるのか、親のそれとはなしの誘導でここまできているのか──小学生の段階では判断がつかないケースが多々あります。もちろん小学生の段階では神童でも、中高生になってみると平凡な才能という例もこれまた多々あります。

 そうしたレベルまでいかないまでも、小学生の時には英語好き、理科実験が好きといった子が、中学校で英語重視のカリキュラム、理数重視のカリキュラムが負担になったり、向いていないことに気がついたり、といったこともあります。もちろん、小学校6年生段階での志望がそのままうまく軌道に乗るケースも多いでしょうが、こんなはずでは…となるケースもあるものです。

 学校もそうした外れるケースを経験してきているからなのでしょう。ここへきて受験段階ではコースを設けず、1年間学校生活を送ったうえで決めるという形にしている学校も出てきました。

・大妻多摩/中2から「国際進学クラス」を新設
・文京学院大学女子/中1はファウンデーションステージとし、中2から「グローバル スタディーズ」「アドバンスト サイエンス」「スポーツ サイエンス」に分かれる

 この原稿を書いているとき、以前、ある人がこんなことを言っていたことを思い出しました。

「社会が求めている職種に合わせるより、自分にとって居心地がいい場所を見つけるほうが幸せになれる」

〈学習内容の違いによるコース〉も〈学力別コース〉と同様に、いやそれ以上に子どもをきちんと見つめることが大切かと思います。コースを選ぶ前にわか子を客観視することが中学受験において最も必要なことではないでしょうか。

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