信長、秀吉らの書状は「実物」 歴史を塗り替える発見か

信長、秀吉らの書状は「実物」 歴史を塗り替える発見か

秀吉の「長い手紙」の理由とは?(時事通信フォト)

 愛知県豊橋市はこのほど、市内の神社に伝わる古文書の中から、織田信長、豊臣秀吉ら戦国武将の直筆書状を発見した。歴史作家の島崎晋氏は、発見されたうち、足利幕府2代将軍義詮(よしあきら)の直筆書状が特に重要だと指摘する。

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 去る11月6日、愛知県豊橋市図書館などからなる調査グループにより、かねて文化財に指定するかどうかの鑑定を進めていた同市の羽田八幡宮所蔵の古文書8点について驚くべき発表がなされた。筆跡や花押(サイン)、朱印(捺印)の形態などから、8点のうち5点が実物で、なおかつそのうち3点は、日本史上の重要な出来事を記した貴重な史料であるというのだ。

 実物というのは贋作や写しでないどころか、誰の直筆かも特定できたということで、なかでも特別価値の高いのが織田信長、豊臣秀吉、足利義詮のものだという。

 今回確認された豊臣秀吉の書状は、朝鮮出兵に出る前の宇喜多秀家、細川忠興、長谷川秀一の3大名に宛てたもので、「風向きが良くなったら、海を渡って朝鮮へ行くように」「遠路はるばる代官所に来たら食事をとらせるように」「連れて行った召使の女にもきちんと給料を与えるように」といった趣旨の細かな指示が長々と書かれている。

 長い文章を書くのは秀吉常套のやり方で、調査グループの一員でもある愛知大学文学部の山田邦明教授は、そこに込められた狙いについて、テレビの取材に応えこう述べている。

「秀吉は百姓の息子なのですね、皆にバカにされているわけですよ。それが自分より血統のいい人を支配しなくてはいけないという大変なことになって、ことさら大きな紙を使ってみたり、あるいはいっぱい書きまくってみたりと、策略ですね」(東海テレビ『ニュースOne』11月6日放送)

 同じく確認された織田信長の直筆書状の宛先は、現在の奈良県を治めていた戦国大名の筒井順慶。敵対していた大阪の石山本願寺に呼応するかのように松永久秀・久通父子が同じ奈良県下で謀反を起こした状況下、「明智光秀を丹波に派遣するよう申し付けた。筒井順慶は森河内城に勤番し、大坂への通路の警備や夜の待ち伏せなどに油断しないよう」と細かな注意を促す内容だった。

 どちらも戦国時代の戦術の研究に役立つ史料と期待されるが、この2人の書状よりも歴史的価値が高いとされるのが、室町幕府の2代将軍・足利義詮が配下の仁木義長に宛てた書状である。

 朝廷が2つ並立した南北朝時代。初代将軍の足利尊氏と並立状態を終わらせた3代将軍義満の間に挟まれたせいで、つなぎ程度に扱われがちな2代義詮だが、前述した山田教授は義詮の書状を評してこう述べている。

「天皇とか将軍の字というのは王者の気分で生きていますので、字も大きいし常人では書けないような、良いのびのびした字を書くという特徴があります」(同前)

 義詮の人物像は地味どころか、きちんと帝王学を身に付けた大物というわけだ。足利将軍直筆の書状はただでさえ珍しいが、義詮のものであればなおさらである。さらに、その内容にも重要な点があった。

「長谷城が没落したとのこと、おめでとうございます。このところ、心苦しく思っていました。詳しいことは代官が伝えます」

 従来、この書状は鎌倉幕府を開いた源頼朝のものと見なされていたが、足利義詮のものとなれば南北朝史は大きく見方が変わってくる。“つなぎ”と思われていた義詮の代に、南朝の重要拠点を陥落させたというのだ。足利義満の代を待たずして大勢が決していたとなれば、義満の功績に帰せられてきた多くが実は義詮のものであり、義詮が過小評価されてきたことになる。

 長谷城の陥落時期はおろか陥落の事実それ自体も、南朝目線で記された『太平記』や室町幕府の創立過程を記した『梅松論』をはじめ、当時の公家や僧侶の日記にも記されておらず、謎のベールに包まれている。今回の発見はその事実の確たる証拠になることに加え、陥落時期と長谷城の所在地を特定する手がかりになるとも期待される。

 長谷城跡としては現在の三重県多気町長谷にある山城跡が有力視されながら、これまで確証を得られていなかった。もし場所の特定に至れば、中世の政治史が塗り替わる可能性、教科書が書き換えられる可能性があると専門家らは見る。

 あまり実感を伴わないかもしれないが、日本は世界屈指の古文書大国。歴史ある寺社や旧家の蔵には貴重な書状がまだまだ数多く眠っているはずで、今後も歴史を塗り替えるような大きな発見があることを期待したい。

【プロフィール】しまざき・すすむ/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。著書に『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)、『いっきに読める史記』(PHPエディターズ・グループ)など著書多数。最新刊に『ここが一番おもしろい! 三国志 謎の収集』(青春出版社)がある。

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