夜景列車に星空列車 「夜間経済」に商機を見出す地方鉄道

岳南電車や大井川鉄道など夜間に商機を見出すローカル私鉄も インスタ映えで話題に

記事まとめ

  • JR西日本は終電を繰り上げる方針だが、一方で、夜間に商機を見出すローカル私鉄も
  • 静岡の岳南電車では、夜景鑑賞士が同乗し工場夜景を楽しめる"夜景電車"を運行
  • 大井川鉄道は2016年から企画ツアーとして星空列車を運行し、好評を博した

夜景列車に星空列車 「夜間経済」に商機を見出す地方鉄道

夜景列車に星空列車 「夜間経済」に商機を見出す地方鉄道

記事画像

 消費やビジネスの広がりを期待して、主にインバウンド需要を目当てにナイトタイムエコノミー(夜間経済)に注目が集まっている。インバウンドだけでなく国内需要もあると見込んで、夜間に商機を見出す地方鉄道が出現している。ライターの小川裕夫氏が、夜景列車や星空列車の取り組みについてレポートする。

 * * *
 2021年春のダイヤ改正をメドに、JR西日本が終電の時刻を繰り上げる方針を発表した。鉄道は、線路や信号といった施設の保守・点検作業が必要になる。それらの作業は終電後の夜間に実施されるのが一般的だが、終電を繰り上げれば保守・点検の時間は長めに確保できる。JR西日本が終電を繰り上げる背景には、人手不足によってメンテナンス作業に時間がかかるようになり、十分な時間を確保する必要に迫られていることも一因にある。

 しかし、終電を繰り上げれば、その分だけ鉄道の運行本数は減る。比例して、鉄道会社の売り上げも減るだろう。

 それだけではない。鉄道利用者が減れば、駅ナカの賃貸料にも影響が出る。また、駅周辺の飲食店、特に夜間営業をメインにしている居酒屋などは大打撃を受ける。終電を繰り上げるという話は、鉄道業界だけにとどまらず世の中全体を揺るがすトピックでもある。

 近年、働き方改革によって残業時間は削減傾向にある。ゆえに、夜間の鉄道利用者は減少傾向にあると言われている。JR西日本の終電繰り上げは、そうしたトレンドを捉えたものといえるだろう。

 その一方、夜間に商機を見出すローカル私鉄も出てきている。その筆頭ともいえるのが、静岡県富士市の岳南電車だ。

 岳南電車は、東海道本線の吉原駅を起点に岳南江尾駅まで約9.2キロメートルを走る。いかにもローカル私鉄という雰囲気を放つ岳南電車は、沿線に工場が多く立地している。この工場群から貨物列車が発着し、その貨物列車の稼ぎが岳南電車を支えていた。しかし、2012年に貨物事業が廃止。岳南電車は収益の柱を失った。

 旅客に目を転じれば、岳南電車を利用する大半は高校生。ただでさえ沿線人口が減少しているのに、少子化で高校生の需要増は見込めない。貨物廃止は岳南電車存亡の危機でもあった。

「そうした危機に直面し、貨物の売り上げを補う必要性迫られました。そんなときに、地域活性化に取り組む地元団体“フジパク”から『工場夜景を楽しむ電車を走らせてみては?』という提案をいただきました。その提案を機に、2014年は貸切電車として夜景電車の運行を開始したのです」と話すのでは岳南電車鉄道課の担当者だ。

 岳南電車が運行する夜景電車は、夜景鑑賞士が同乗。沿線の見どころなどをガイドする。夜景電車は車内照明を落とすため、車内は真っ暗になる。それが、沿線に立地する工場夜景を鮮明に見せる効果を出している。インスタ映えのブームとも重なり、夜景電車の運行は大きな話題を呼んだ。

 この取り組みが夜景観光コンベンション・ビューローに評価されることになり、岳南電車は国内の鉄道としては初となる夜景遺産に認定された。

 これらが岳南電車の夜景電車人気に火をつけることにつながる。2015年は貸切運行ではなく、通常の電車として運行。以降も夜景電車は通常の電車と同じように運行されている。夜行電車の運行日は月2回あり、日没が遅い6〜8月は1往復しか運行しないが、そのほかの月は2往復するダイヤが組まれている。夜景電車には特別料金はかからず、運賃のみで乗車することができる。

 岳南電車はローカル私鉄なので、夜景を楽しむための展望台を新設することやイルミネーションで沿線を飾るといった費用をかけた整備はできない。既存のインフラを活用し、新たな設備投資をしていない。発想を転換することによって、需要を掘り起すことにつながった。

「岳南電車は住宅街に近いところを走るので、工場萌えでブームになったような煌びやかな工場夜景はありません。あくまでも、日常風景に溶け込んでいるような工場夜景です。それでも工場夜景を見ようと、たくさんの人が遠方から足を運んでくれます。小さなお子さんを連れた家族の参加者も多数います。混雑した、暗い車内は危険です。そうした小さなお子さんを連れた家族連れのために、通常の夜景電車のほかにも予約制の貸切夜景電車も運行しています」(同)

 静岡県島田市の金谷駅から静岡市の井川駅まで約65キロメートルを結ぶ大井川鉄道も、夜景をウリにした新しい集客を始めている。もともと、大井川鉄道はSLの運行を始めた先駆けとして知られるが、2014年からは機関車トーマスの運行といった斬新な集客で話題を呼んだ。さまざまな手法で、大井川鉄道は需要拡大を図ってきた。

 そして、大井川鉄道は2016年から企画ツアーとして星空列車の運行を開始。その経緯について、大井川鉄道南アルプスアプトセンターの担当者はこう説明する。

「沿線の川根本町は、1994年に環境庁(現・環境省)が全国星空継続観察によって国内で2番目に星空観察に適した場所と認定しています。そうした沿線の特徴を活かそうと、奥大井湖上駅で星空観察のために下車する“星空列車”の運行を開始したのです」

 2016年に企画列車として始まった星空列車は、好評を博したことから2018年1月に一般列車に切り替えられた。

「一般列車として運行しているので、星空列車への乗車には特に予約といった申し込みは必要ありません。また、星空列車に乗車するには専用乗車券を購入する必要がありますが、通常の運賃と同額です」(同)

 奥大井湖上駅は無人駅で、鉄道ファンからも秘境駅と呼ばれる。駅の一帯はダム湖が広がり、こうした星空観察といった用事がなければ下車することはまずない。

 そうした秘境駅の雰囲気を味わうことと星空観察という2つの楽しみがパッケージされているので、毎回の参加者は80名にものぼるという。

 近年は夜の経済活動、いわゆるナイトタイムエコノミーに注目が集まっている。ナイトタイムエコノミーのメインターゲットは今のところ観光客だが、社会が多様化することで観光客以外にも広がる可能性を秘めている。

 JR西日本が終電を繰り上げる方針を示したのは時代の流れとも言えるが、その一方で夜間に稼ぐことを模索するローカル私鉄が出てきていることも多様化する時代の要請といえるのかもしれない。

関連記事(外部サイト)