中学校が校則全廃、相手の状況考えられる優しい心育てられた

中学校が校則全廃、相手の状況考えられる優しい心育てられた

運動会では、本気のリレーで活躍する運動部。対して文化部は、手作りの衣装に身を包んで校庭を練り歩く。それぞれが得意分野で脚光を浴びることができる一日となる。小さな子どもが参加できる玉入れも大人気(撮影/平野哲郎)

 東京都世田谷区立桜丘中学校では、校則の全廃による服装や髪形の自由化のほか、チャイムは鳴らず、何時に登校してもいい。今年度から定期テストも廃止され、代わりに10点ないし20点の小テストを積み重ねる形式に切り替えられた。スマートフォン(スマホ)やタブレットの持ち込みが許可され、授業中も教室外での自習が認められている──これら画期的な学校改革は大きな注目を集め、新聞や雑誌、テレビでも取り上げられてきた。

 校長の西郷孝彦さん(65才)の初となる著書『校則なくした中学校 たったひとつの校長ルール』には「子育ての参考になった」「こんな先生に教わっていたら、人生が変わっていたかもしれない」などと、大きな反響が寄せられている。

◆ひとりの生徒に寄り添えば、まわりの生徒も見え始める

 桜丘中には、一年を通してイベントが目白押しだ。夏には花火の日のほか浴衣の日もあり、地域の住民たちがボランティアで着付けてくれる。ハロウィンには生徒も教員も仮装する。運動会には、小さな子どもも楽しめるプログラムが用意され、近隣のお年寄りがテントの下で椅子に座って声援を送る。

 なかでも生徒や近隣の住民が心待ちにしているのが、10月最後の土曜日に行われる『さくらフェスティバル』だ。

「23年前、生徒の発案で文化祭を行う案が持ち上がりましたが、そうでなくても多忙な当時の教員は乗り気ではなかった。だったら子どもたちの夢を自分たちで叶えてやろうと、保護者主導で開かれるようになったのが始まりです」(西郷さん・以下同)

 教室や校庭、体育館の1階が会場となる模擬店は、各部活が工夫を凝らして有料で飲食やゲームを提供。売り上げは部活の運営費に充てられる。このほか近隣の店、町会、NPO団体、地元警察署なども参加し、大学の学園祭並みに盛り上がりを見せる。

 体育館3階のステージでは、在校生や卒業生、教員も参加自由のバンド演奏やダンス、全国的にも評価の高い演劇部による演目が上演される。

「学校主体では、ここまで自由にできなかった気がします。スタートは後ろ向きなものでしたが、保護者が積極的にかかわってくれたことが、かえって自由度を高めたと思います」

 今年まで3年にわたって、このイベントの責任者を務めた母親は言う。

「ステージでは、中学に入ってから楽器を始めたまったくの初心者がバンドを組んで出演するので、緊張で演奏がつまってしまうこともあります。でもそんな時は、客席から手拍子が起こることがあるんです。声援も飛んだりします。普通なら、反抗したり斜に構えたりしたい年頃なのに、誰かをけなすような雰囲気にはならず、応援してくれる。うちの子たちって、本当に優しいんです」

 わが子のみならず、生徒すべてを無意識に“うちの子”と呼ぶこの母親は、「この桜丘中で過ごすうちに、相手の状況を考えられる優しい心も育ててもらった」と、幾度も学校への感謝の言葉を口にした。さらにこう続けた。

「長男は今年で卒業ですが、1年たったら、今度は次男が入学します。世田谷は私立中学校を受験する家庭も多いのですが、毎日楽しそうな兄やその友達を見ている次男は、“ぼくの第一志望は桜丘中学校”と言っています。たとえ校長や先生たちが変わっても、私たち親世代が地域の大人として、この学校のよいところを支えていけたらいいなと思っています」

◆ひとりにすら愛情をかけられない人は…

 西郷さんは、保護者や地域を巻き込み、学校を変えていった。西郷さんは、著書の中でこんな話をしている。

《部活でもクラスの子でも、とても心配な子どもに焦点を合わせ、とことんそのひとりに尽くすのです。毎日話しかける、楽しい会話をする、勉強を教えてあげるのでも、一緒に歌を歌ってあげてもいい。

まずはその子だけを見るのです。すると、「愛情ってこういうことなのかな」とわかってきます。ひとりの子に時間をかけて十分に関わると、なぜかクラスや生徒全体が見えてくるのです。

 ひいきと言われても構いません。本当に心配だから寄り添うのです。なぜその子のことばかり気にするのか、子どもたちだって理解できます。子どもたちにだって、見えているのです。

 逆説的ですが、たったひとりにすら愛情をかけられない人は、全員を大事にすることなど、到底無理なのです。

 私はたったひとりの子どもを大切にしたい。この子にとっての幸せな学校とは? この問いの向こうに、「どんな子でも3年間楽しく過ごせる学校」があると考えています》(一部要約)

 これまで多くの“たったひとり”に寄り添ってきた西郷さんは、そのひとりを取り巻くほかの生徒にも、その親にも、地域までにも目を配り、寄り添ってきたのではないだろうか。

※女性セブン2019年11月28日号

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