目黒虐待死、母・優里被告が告白【後編】できなくなったハグ

目黒虐待死、母・優里被告が告白【後編】できなくなったハグ

結愛ちゃんの母・優里被告が獄中告白(共同通信社)

◆彼の考えが自分の体の中に入ってくる

 2度目の一時保護解除の後、結愛ちゃんは定期的に医療機関を受診することになった。だが、ここも最後の砦とはならなかった。

「病院も最初は、話を聞いてくれたので楽でした。安心感がありました。(母子でお絵描きや粘土工作などをする)アートセラピーがあって、母子関係がよくなったと先生に褒められたこともありました。でも、本当に解決してほしいことは別にあった。何が原因で子育てがうまくいかないのかを教えてほしかったんです」

 この時期、雄大は結愛ちゃんの体重が増えないようにと優里に求めていた。一方、優里は結愛ちゃんにお腹いっぱい食べさせたかった。

「それでご飯にコンニャクを入れてもいいでしょうか、と尋ねたんです」

 医師は質問の意図を詳しく聞かず、栄養士の指導を仰ぐようにといった。

「私は掃除も、家事も、育児も好きでした。同世代のほかの人たちに比べたら、自信がありました。病院の食事指導の内容も、ほぼ知っていることでした。だから技術的なことを教わりたいのではなかったんです。自分は何もわかっていない人だと思われている。誰にも認められていないと感じました」

 そんな時に雄大に「児相や医師は仕事で結愛の指導をしているだけ」と説教された。

「娘の将来を本気で考えているのは自分たち夫婦だと言われると、彼が言うことが正しいと思うようになりました」

 優里は、雄大の教えが全て正しいと信じていたわけではない。しかし、長時間説教をされると、「彼の考えが自分の体の中に入ってくる」。しばらくして、それが緩むとまた締められる。その繰り返しだった。

 優里は、「この時、医師から宿題の一つに、子どもをハグするという項目があったんです」と言う。ハグできないと訴えると、医師はそのことを問うことなく、それでは「ハイタッチにしましょう」と項目を変えた。優里は、「医師が自分のことをハグできない母親だと思っていると感じてしまった」と振り返る。

◆「結愛に構うな、くっつくな」

 優里との面会で、何度か話題にしたのが「ハグ」についてだった。実は2度目の一時保護の頃からハグができなくなっていた。背景には雄大の支配があった。結愛ちゃんと仲よくしていると、「結愛を子ども扱いするな、構うな、くっつくな」と叱られた。

「以前、ハグはできていた。私が結愛を抱いている写真はちゃんとありますから」

 優里は病院に提出するプリントの裏側には毎回疑問点を書き込み、いくつかアドバイスももらったが、最後までハグはできないままだった。

「裁判資料を読んで知りましたが、先生は結愛のアザにも気づき、児相にも伝え、話し合ったそうです。児相は、そのことで私を指導すると、関係が途切れるのではないかと恐れ、何もしなかった。アザがあったことを心配しているのなら、はっきりそう伝えてほしかったと思います」

 東京に転居する話は、夫婦間では、春頃から出ていた。11月になり、雄大の気持ちが転居の準備に向かうと、結愛ちゃんへの叱責や暴力は少なくなった。一方、優里から見ると、引っ越しが近づくと、急に児相が熱心に、何度も住所を教えるようにと迫ってきた。優里は「今まで助けてくれなかったのに」という気持ち、さらに児相から、住所は調べられると言われ、圧力を感じた。それならそっちでと、意地になった。

(この時、香川県の児相は、移管に伴う全国ルールに従わず、転居前に指導措置を解除してしまう。指導措置が継続していれば、そのまま東京都の児相に移管されたが、関係は作り直しになった。家族の周辺に、強い危機感を持つ人たちは複数いた。だが、結果的に支援現場では共有されなかった)

 夫不在の1か月で、結愛ちゃんの「生活が緩んだ」として、雄大は、結愛ちゃんを優里から取り上げた。雄大が寝ている早朝しか、優里は面倒をみることができなかった。そして激しい暴力が幼い結愛ちゃんへ集中的に向かった。裁判傍聴でその一端を雄大本人が語るのを聞いたが、5才の幼女がこれをどんな思いで受けたのかと身が震えた。ただし、雄大が語ったのは限られた時期の暴力のみだ。密室で何が起きていたのか、全容は解明されず、雄大の刑は確定している。

──雄大とは今年4月に離婚した。当初私との面会で、優里は固い表情を見せていたが、徐々に目を合わせ、柔らかい表情や時には笑顔を見せることもあった。今DVの知識を獲得しつつある優里は、「香川時代、誰かに助けてもらわないと、自分だけでは解決できなかった」と語る。彼女から届いた手紙にこんな言葉があった。

《本当は人と会う力もない。何もしたくない。何もしなければ必要以上に批判されることもないから。でも(略)自分にとって良い事実も悪い事実も公表せずにただ時間が経つのを待っているだけじゃダメだと思った。私が発信することで(略)、危機感をもってくれて命が救われるかもしれない。だから、私は公表したい》

 私は優里の勇気を生かしたいと願う。

◆取材・文/杉山 春●雑誌編集者を経て、フリーのルポライターに。『ネグレクト』(小学館)で第11回小学館ノンフィクション大賞受賞。子育て、親子問題、虐待死事件、自死、引きこもりなどをテーマに、数々のルポを執筆している。

※女性セブン2019年12月5・12日号

関連記事(外部サイト)