ローマ教皇来日 「福島への誤解」が世界に広まるとの懸念も

ローマ教皇が来日し東日本大震災の被災者と交流 福島の誤解が拡散するとの懸念も

記事まとめ

  • ローマ教皇が38年ぶりに来日し、被爆地の長崎と広島を訪れ核廃絶を訴えた
  • また、ローマ教皇は東日本大震災の被災者と交流し、原発の存廃に言及したという
  • しかし、被災者代表として自主避難者が選ばれたことに、誤解が拡散するとの懸念もある

ローマ教皇来日 「福島への誤解」が世界に広まるとの懸念も

ローマ教皇来日 「福島への誤解」が世界に広まるとの懸念も

ローマ教皇の世界への発信力は絶大(横田紋子)

 ローマ教皇は、世界中に10億人以上いる信者を束ねる宗教団体「ローマ・カトリック教会」の最高指導者であり、バチカン市国の国家元首でもある。カトリック教徒にとっては、全知全能の神の代理人であり、絶大なる権威と影響力をもつ。

 その教皇が38年ぶりに来日した。日本のキリスト教徒は約191万人と推定され、人口比では1.5%ほどに過ぎず、ほとんどの日本人には関係なさそうだが、そこは“おもてなし”の心で、日本中がフランシスコ教皇を歓迎するムードに包まれた。しかし、11月23日から26日までの短い滞在の間に日本各地を訪問し、新聞各紙やテレビが教皇の発したさまざまなメッセージを伝え始めると、そのムードに変化が起きた。

 フランシスコ教皇は24日、被爆地の長崎と広島を訪れ、〈核兵器は、今日の国際的また国家の、安全保障への脅威からわたしたちを守ってくれるものではない、そう心に刻んでください〉(NHK「ニュースWeb」11月24日付)と核廃絶を訴えた。

 海外の要人が被爆地を訪れ、核廃絶を訴えるのはよくあることだが、教皇の発言はそれだけに留まらなかった。25日午前には東京で東日本大震災被災者約300人との交流会に参加し、こう述べたという。

〈地域のつながりが再び築かれ、安全で安心した生活ができるようにならなければ、福島の事故は完全には解決されません。これが意味するのは、私の“兄弟”である日本の司教たちがいみじくも指摘した、原子力の継続的な使用に対する懸念です。司教たちは原発の廃止を求めました。いまの時代には、技術的な進歩を人間の進歩として受け止める『技術主義』がはびこっています。このようなときには立ち止まり、振り返ってみることが大切です〉(「AERA.dot」11月26日付)

 原発の存廃という一国のエネルギー政策に関わる問題に踏み込んで言及している。

 さらに、この日の午後には東京ドームでの大規模ミサが開催されたが、その直前に都内の教会で難民留学生らと会い、〈特にお願いしたいのは、友情の手を広げてひどくつらい目に遭って、皆さんの国に避難して来た人々を受け入れることです〉(「テレ朝news」11月25日付)と、日本がもっと難民を受け入れるよう呼び掛けている。

 この発言が引き金になったのか、ツイッター上では、〈先ずはバチカン市国でやってみればいいのに〉〈むかし十字軍というのがあってな〉など教皇に反発する声も出た。

 もともとフランシスコ教皇は過去の教皇とは異なり、難民問題の解決や新自由主義への批判など政治的な意見を積極的に発する型破りな指導者で、その姿勢が日本でも発現したと言える。宗教の指導者が理想を語るのは、それがたとえ日本では非現実的であっても、いわば“職務”であり、仕方がない面はある。

 ただ、今回の訪問で一つ問題があると指摘するのは、福島在住のフリーライター・林智裕氏だ。

「東日本大震災の被災者の代表として、いわき市出身の高校生ら、自主避難者が選ばれて、教皇と面会していることに違和感を覚えました。昨年3月にジュネーブで開かれた国連人権理事会でも、国際NGOグリーンピースの仲介で郡山市からの自主避難者がスピーチしています。自主避難者というのは、科学的に危険性が認められない地域から自分の判断で避難した人々で、その判断は尊重しますが、自主避難者ばかりにスポットが当てられることで、まるで“福島は人が住めない場所”であるかのような誤解が世界に広まっていくのです」

 本人が意図しなくても、世界中から注目を集める人だけに、誤った情報が世界に発信されてしまうことを林氏は危惧する。

 福島県には約190万人、いわき市や郡山市にはそれぞれ約30万人がごく普通に生活している。その中には地震や津波、原発事故で大きな被害を受けながら、立ち上がり、偏見や風評に耐えながら福島で生きていくことを選択した人々が多数いるが、そうした人々には今回スポットライトはほとんど当たらなかった。

「2015年に来日した英王室のウィリアム王子は福島県を訪れて子供たちと一緒に遊び、県内の温泉地に宿泊し、地元の食材や日本酒尽くしを楽しんでくださいました。これは王子自身が『被災者に会わなくては訪日する意味がない』とまで強く希望し実現したことであり、東日本大震災後に初めて海外要人が福島に宿泊した忘れがたい出来事です。今なお一人の県民として、強く感謝しています。

 ローマ教皇が原発事故に言及するなら尚更『暮らしている人たちの福島』を世界に伝えていただきたかったですし、もし実現していれば、比較にならないほど大きな称賛や尊敬を得られたことでしょう。自主避難者の声ばかりが取り上げられたのは、とても残念です」(林氏)

 次回の来日が何年後になるかはわからないが、訪問先に福島が入ることを期待したい。

●取材・文/清水典之(フリーライター)

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