牛角、かっぱ寿司に続き「大戸屋」買収も狙う外食企業の野望

牛角、かっぱ寿司に続き「大戸屋」買収も狙う外食企業の野望

お家騒動の果てに「身売り話」も急浮上する定食チェーンの「大戸屋」

 経営陣のお家騒動やメニュー改定による“客離れ”などもあり、どうも業績が振るわない定食チェーンの「大戸屋」。そんな苦境の最中に身売り話が持ち上がっている。大戸屋の買収に名乗りを上げているのは、居酒屋事業を核に次々と外食チェーンのM&Aに乗り出しているコロワイドだ。彼らの野望とは何か──。外食ジャーナリストの中村芳平氏がレポートする。

 * * *
 令和元年10月初旬、外食業界売上高4位のコロワイド(横浜市)は、定食店の「大戸屋ごはん処」をチェーン展開する大戸屋ホールディングス(HD)の創業家である三森三枝子氏(保有比率13.07%)と長男の智仁氏(同5.60%)から全株式を取得、発行済み株式の18.67%を保有する筆頭株主に就いた。取得額は30億円だった。

 コロワイドの野尻公平社長は11月中旬に開催した2019年4〜9月期決算説明会で、日経新聞の記者に大戸屋HDへの関与を問われ、「業務提携かM&Aという話になると思う。私は大戸屋に非常に魅力を感じている」と述べた。

 また、大戸屋が素材と店内調理にこだわり、メニューが高価格になっていることに対し、「コロワイドのセントラルキッチンを活用すれば、大幅なコスト削減が可能」と発言。業務提携による相乗効果で、メニュー価格が下げられることを示唆した。要するに、コロワイドが大戸屋の立て直しに入れば、すぐに業績が回復できることを強調したのだ。

 大戸屋HDは事実上の創業者である三森久実前会長が2015年7月、末期がんで急逝した。享年57。三森氏は2012年にいとこの窪田健一氏を社長に指名し、自身は「定食を世界に広める」と海外事業に打ち込んできた。

 死去する1か月前の2015年6月に開催された株主総会で長男の智久氏を常務取締役海外事業部長に就け、「後継者は智久だ!」と訴えた。だが、当時智久氏はまだ28歳。株主総会で後継者宣言したわけではないが、久実氏の病状は重く車椅子に乗ったままだった。

 そして、久実氏が亡くなると、窪田社長ら現経営陣は創業者の遺言を軽視した。それどころか窪田社長らはメイン銀行と連携し、三森前会長の拡大路線を否定。中国・上海の子会社を清算した。野菜の内製化を進める山梨県の野菜工場から撤退するなど、縮小均衡路線に舵を切った。そのうえ、窪田社長は智久氏を取締役に降格し、香港の子会社社長に左遷する人事を口頭で伝えた。

 これを引き金に窪田社長らの経営陣と創業家との骨肉相食む争いが勃発した。結局、智久氏は2016年2月、取締役を退任した。自身の処遇に加え父の功労金への不満、父の将来を見据えた戦略を否定する現経営陣とは一緒にやれないと判断したからだ。

 ここまで創業家を絶望の淵に追い込んでしまったことが、創業家が敵対的M&A(合併・買収)となるコロワイドに保有株を全株売却した背景だ。そういう意味では窪田社長ら現経営陣の無能力ぶりが、非常事態を招いたといえる。

 智久氏は2018年1月には介護老人がデイサービス施設の近くにある外食店に注文、受け取れる宅配サービスを始めた。介護老人の口座から振り替えで支払うシステムだ。智久氏は今回、保有株をコロワイドに売却して得た現金を、この事業に使う見込みだ。ともあれ創業家が保有株を全株売却し、大戸屋HDとの縁を切ったことで“お家騒動”は終わった。

 一方、前代未聞ともいえる創業家と窪田社長ら現経営陣との骨肉の対立で、“漁夫の利”を得る形になったのがコロワイドであった。

 コロワイドはもともと神奈川県逗子駅前で1963年に甘味処「甘太郎食堂」を開業したのが始まりだ。1970年代に郊外型ファミリーレストランが勃興、近くの藤沢市でも「すかいらーく」や「デニーズ」のファミレス戦争が勃発した。

「甘太郎」の2代目社長・蔵人金男氏はそんな状況に危機感を募らせて、1977年10月、全品220円均一(翌年全品440円均一に値上げ)の炉端焼き業態「手作り居酒屋 甘太郎」を開業、大繁盛させた。商圏の狭い逗子市で大ヒットしたことが自信となり、神奈川県内に集中的に店舗展開を進めた。

 蔵人氏は若いころ、日本フードサービス協会(JF)の勉強会などにも出席し、チェーン理論を学んだようだ。蔵人氏が最も影響を受けたのは、郊外型ファミリーレストランを1970年から展開したすかいらーくだ。1977年に東洋一のセントラルキッチン東松山工場(現松山MD〈マーチャンダイジング〉センター)を竣工。農業生産者から直接食材を仕入れ、工場まで運びメニュー開発、調理、物流、店舗まで配送する一貫したシステムを築いた。

 これによって一般的なルートを使うよりは3〜5%はコストが安くなった。すかいらーくが急速に店舗展開できたのは、「よりよいものをより安く」というマス・マーチャンダイジングを実践してきたからだ。

 蔵人氏は1986年には逗子市に食品加工工場を作り、スケールメリットを追求した。コロワイドが高収益居酒屋チェーンとして急成長したのにはいくつかの要因がある。

 まず店舗のドミナント展開による知名度アップと効率化、次にセントラルキッチン(集中調理施設)と物流ルートの構築、その次に現金決済による店舗づくりや食材原価の低減化を図った。1993年には「甘太郎 海老名2号店」で全席に無煙ロースターを導入、メニューに焼肉を取り入れ、客単価を4000円〜5000円の高収益居酒屋チェーンに脱皮させた。

 1999年10月に現ジャスダックに上場、2000年10月に東証二部、2002年9月に東証一部に上場。コロワイドは先行する居酒屋チェーンのモンテローザやワタミを企業規模であっさりと追い抜いた。

 その原動力となったのが、M&A戦略である。蔵人氏は1993年に岡三証券から転職し、右腕となった野尻公平現社長と2002年から現在に至るまで、合計17回ものM&A戦略を実施してきた。「蔵人家の番頭」を自称する野尻社長とはよほど相性が良かったのだろう。

 最初のM&Aは2002年1月、郷土料理居酒屋「北海道」など計39店舗を展開していた平成フードサービスの買収だ。同社は横浜中華街の老舗・聘珍楼の子会社で、オーガニック野菜など素材にこだわり、農場で野菜を生産するなど先進的な取り組みをしていた。

 その後、結果的に素材にこだわり過ぎたことで経営を悪化させるのだが、コロワイドは全店舗ではないが、たったの4億円で平成フードサービスを買収、1年程度で立て直しに成功した。素材などへのこだわりを捨てセントラルキッチンで加工したからだ。

「北海道」は150〜400席規模の大型店が多く、現在でも首都圏を中心に50店舗展開、コロワイドのドル箱となっている。訪日外国人からも人気で、年間100万人以上来店しているようだ。

 コロワイドは1兆円程度と市場規模の小さい居酒屋業態のM&Aを嫌い、「脱・居酒屋」を掲げて非居酒屋事業を買収してきた。

 すかいらーくは2006年にMBO(経営陣などによる買収)をするときは、資金が絶対的に足りないのに、蔵人氏はすかいらーくの買収に本気になったことがある。現在、コロワイドはコロワイドMDを柱に、アトム(回転寿司、居酒屋など)、レインズインターナショナル(牛角など)、カッパ・クリエイトホールディングス(かっぱ寿司)を中核企業とし、子会社は39社を数える。ちなみに2019年3月期の売上高は約2444億円だった。

 2014年に300億円を投じ社運をかけて買収した「かっぱ寿司」の再建に手こずってきたが、ようやく再建のめどが立ち、今期から来期にかけては良い決算が期待できそうだ。

 今回の大戸屋HDのM&A案件はそんなタイミングで転がり込んできた。コロワイド自身、1000億円を超す有利子負債を抱えて資金繰りには苦労しているため、簡単にはM&Aに動けないだろうとみられてきた。しかし、大戸屋HDの時価総額は約175億円、コロワイドの時価総額は約1700億円。コロワイドが買収するとなれば、株式交換という手法も使えそうだ。

 コロワイドにとって、国内外に約500店舗展開する「大戸屋ごはん処」は魅力だ。お米を扱う業態で回転寿司の「かっぱ寿司」や「アトム」との相乗効果もすぐに上がる。コロワイドは全国に11工場保有、セントラルキッチンも4か所展開している。大戸屋が店内調理を辞めるだけでも収益力は5〜10%程度はすぐに上がりそうだ。

 一方、コロワイドの店舗数は約2700店舗、これに大戸屋の約500店舗が加われば、3200店舗となり、3235店舗を展開するすかいらーくに店舗数で肉薄することができる。コロワイドの目標は「外食産業日本一、そして世界へ」だ。大戸屋は海外でコロワイドの実績を上回っており、コロワイドの海外店展開の相乗効果も見込めるはずだ。

関連記事(外部サイト)