伊勢神宮へのお召し列車で話題 近鉄の新型特急開発への意欲

天皇皇后両陛下が乗車した近鉄のお召列車特急「しまかぜ」が話題 新型特急開発へ意欲

記事まとめ

  • 天皇皇后両陛下が「親謁の儀」で伊勢神宮を訪問した際、近鉄の特急「しまかぜ」に乗車
  • 天皇が乗車する列車はお召列車と呼ばれ、近鉄は最上級の列車を用意する
  • 近鉄は新しい特急列車の開発を続け、来春に新型特急80000系「ひのとり」がデビュー

伊勢神宮へのお召し列車で話題 近鉄の新型特急開発への意欲

伊勢神宮へのお召し列車で話題 近鉄の新型特急開発への意欲

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 新幹線は乗ったことがあるけれど特急に乗ったことはない人が今では多い。乗車体験が限られているのは、JRが次々と特急を廃止している影響も大きい。しかし、日本で最長営業距離を誇る近畿日本鉄道(近鉄)では、今も新しい特急列車の開発が続けられている。『私鉄特急の謎』(イースト新書Q)著者の小川裕夫氏が、天皇皇后両陛下がご乗車された特急「しまかぜ」など、近鉄が取り組む新しい特急の世界についてレポートする。

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 11月23日、天皇皇后両陛下は即位したことを報告する「親謁の儀」のために、三重県伊勢市にある伊勢神宮を訪問した。

 伊勢神宮への巡行には東海道新幹線と近鉄が使われた。天皇が乗車する列車はお召列車と呼ばれ、戦前期から特別仕様の列車が代々にわたって使用されてきた。

 旧国鉄は全国津々浦々に路線を有していたこともあり、天皇は国鉄線だけで全国を巡幸できた。しかし、伊勢神宮だけは例外的な扱いになっている。

 天皇が東京から鉄道で移動する場合、東京駅から東海道新幹線に乗車する。名古屋駅から伊勢神宮までは、JRを使って移動することもできる。しかし、なぜか名古屋駅から乗り換えて、近鉄で移動するのが通例になっている。

 天皇が近鉄に乗る際、近鉄は最上級の列車を用意する。今回の伊勢訪問で用意されたのは50000系という特急専用車両で、一般的に「しまかぜ」の愛称で知られる。

 2013年から運行を開始した「しまかぜ」は、豪華な特別仕様。そのため、運行開始以前から鉄道ファンを虜にした。して、運行が開始されると、たちまち近鉄の看板特急になる。

「近鉄は、お客様の求めるサービスレベルの向上に対応して、将来にわたって快適にご利用いただけるよう常に車内設備の充実化を図っています。50000系『しまかせ』は“最高のおもてなしで、伊勢志摩へ”をコンセプトにしています。『しまかぜ』は単なる移動手段ではありません。乗ること自体が旅の目的のひとつとなるような、伊勢志摩への観光輸送活性化の切り札として開発された車両です」と話すのは近鉄広報部の担当者だ。

「しまかぜ」は団体旅行の際に重宝する個室が備えられているほか、非経済を理由に最近では縮小傾向にあるカフェ車両も設けている。「しまかぜ」は、列車とは思えないほど豪華な設備とサービスが充実している。

「しまかぜ」は鉄道ファンの度肝を抜いただけではなく、伊勢志摩観光のあり方を根底から覆した。しかし、近鉄が力を入れている特急は「しまかぜ」だけではない。

「しまかぜ」の登場以前に伊勢志摩観光のエース特急として活躍していた「伊勢志摩ライナー」、列車内に足湯が完備された観光列車「つどい」、バーカウンターを設置した観光列車「青の交響曲(シンフォニー)」、桜で有名な吉野へと走る特急「さくらライナー」など、近鉄特急のラインナップは群を抜いている。また、観光特急だけではなくビジネス特急「アーバンライナーplus」なども運行。特急の層の厚さは、他社を圧倒している。

 特急のバリエーションが多ければ、乗るのも見るのも楽しい。しかし、鉄道事業者にとって車両のバリエーションが増えれば、運用面で非効率になる。車両のメンテナンスや管理も煩雑化・非効率になるだろう。車両のバリエーションを増やすことは、鉄道会社にとって諸刃の剣でもある。

 そうしたデメリットがあるにも関わらず、近鉄は新たな特急を次々と登場させている。近鉄が新しい特急を矢つぎ早に登場させる理由は、名古屋-大阪間に東海道新幹線や東海道本線と強いライバルがいることも一因とされる。常に新しい車内設備や斬新なサービスを提供しなければ、東海道新幹線や東海道本線に乗客を奪われてしまうからだ。

 そうした理由があっても、新たな特急を次から次へと開発・製造・運行することは難しい。

 近鉄が運行する特急列車は、近鉄グループの車両メーカー・近畿車輛が製造を一手に引き受けている。近畿車輛は車両製造という面から近鉄を支える縁の下の力持ちでもある。

「当社の車両は、すべて近畿車輛が製造しています。車両開発において近畿車輛の果たす役割は大きく、車両製造で培った高い技術力により近鉄特急の品質向上にも貢献しています。また、近畿車輛にはデザイン部門があり、近鉄からの提案を受け入れ可能にしています。設計部門と連携することで、機動的かつ独創的な車両開発を進めることができるのです」(近鉄広報部)

 こうした車両メーカーの尽力もあって、近鉄は来春に早くも新型特急80000系「ひのとり」をデビューさせる。

 まだ「しまかぜ」がデビューして日が浅い。それにも関わらず、近鉄は意欲的に新たな特急を登場させようとする。そこからは、近鉄の特急への強いこだわりを感じさせる。

 新型特急「ひのとり」は伊勢志摩といった観光地を走る観光特急ではなく、名古屋駅-難波大阪駅間で運行される。近鉄はビジネスだけではなく、幅広い利用者を想定しているようだが、「ひのとり」はビジネス特急という趣が強い。そして、「ひのとり」は「しまかぜ」に代わるエース特急になることが予想される。

「『ひのとり』は2020年度中に11編成が完成する予定です。そのため、来年度中には名阪間を走る特急の多くが『ひのとり』に置き換わります。そうしたことを踏まえれば、『ひのとり』が近鉄のエース特急と思われるかもしれません。しかし、社内では『ひのとり』をエース特急とは捉えていません。近鉄は常に新たな特急列車の可能性を模索しているので、絶えず新しい特急の開発を続けているからです」(同)

 いくつもの私鉄を統合した歴史的な経緯から、近鉄の路線には1435ミリメートルと1067ミリメートルという2つの軌間が混在する。軌間が異なる路線に、ぞれぞれの電車が乗り入れはできない。例えば、大阪難波駅を発着する「しまかぜ」は、1435ミリメートル軌間しか走ることができず、近鉄がもうひとつのターミナルとしている阿部野橋駅には入線できない。阿部野橋駅の軌間は1067ミリメートルになっているからだ。こうした異なる軌間には、それぞれの軌間に対応した別々の車両を用意する必要がある。

 異なる軌間という不便を解消するべく、近鉄はどちらの軌間でも走ることができるフリーゲージトレインの開発を表明している。フリーゲージトレインの開発はJRも進めているが、実用段階には至っていない。それどころか、JRは対費用効果などを理由にしてフリーゲージトレインの開発に消極的になっている。

 そうした中、近鉄はフリーゲージトレインの開発を進める。フリーゲージトレインが実用化すれば、当然ながら新しい近鉄特急が誕生するだろう。

 また、近鉄には2025大阪万博の会場地になる夢洲へ乗り入れる計画もある。近鉄特急が夢洲への乗り入れを実現するには、異なる集電方式という技術的な課題をクリアしなければならない。

 通常の電車は、上空に設置される架線から電気が供給されている。しかし、近鉄のけいはんな線とOsaka Metro中央線はサードレール方式と呼ばれる、通常とは異なる集電方式を採用している。夢洲にはJRや京阪も路線の延伸を計画しており、仮にJRや京阪の線路に近鉄が乗り入れる場合は集電方式という技術的な課題に直面する。夢洲へと走る新しい特急車両が誕生するかどうかは、こうした技術的な問題をクリアできるかに賭かっている。

 近鉄が「ひのとり」を軽々に“エース特急”と口にしないのは、そうした難題をクリアし、新たな特急車両を視野に入れているからにほかならない。技術的な課題をクリアするには時間がかかるかもしれない。それでも、「新しい特急が走る日は近いのではないか?」との期待が高まる。

 近鉄の、特急への飽くなき挑戦は続く。

『私鉄特急の謎 思わず乗ってみたくなる「名・珍列車」大全 』

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