東京・町田にシェアオフィスが続々と誕生している理由

東京・町田にシェアオフィスが続々と誕生している理由

「BUSO AGORA」(東京・町田)の内観

「テレワーク」を導入する企業が徐々に増えているが、それに伴い、在宅型テレワークだけでなく、サテライトオフィスやシェアオフィスの需要も伸びているという。神戸国際大学経済学部教授で総務省地域創造力アドバイザーの中村智彦氏が、東京・町田市の共働型コワーキングスペースの新しい取り組みを取材した。

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 インターネットの普及や働き方改革の広がりにより、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方「テレワーク」が注目を集めている。わざわざ会社に集まらなくとも仕事ができる職種であれば、例えば台風や地震による鉄道の計画運休といった不測の事態や、来年の東京オリンピック&パラリンピックなど交通網の混乱が予想される大型イベント時も焦らずに仕事ができる。

 テレワークには、自宅で働く在宅型、施設利用型、モバイルワーク型の3種類がある。主に起業家やフリーで働く人たちは、インターネットを繋いで自宅で勤務や作業を行うスタイルを選択するケースが多いが、「気分的な区切りがつかない」、「訪問客が来た場合に困る」、あるいは「自宅の住所を広く知られたくない」という人も多い。

 テレワークを導入する企業や、テレワークで働く個人が増加するに従って、こうした悩みも増えているため、サテライトオフィスやシェアオフィスの需要が増加していると言われている。

 IT専門調査会社のIDC Japanが発表した「国内サテライトオフィスの拠点数および施設利用型テレワークについての分析」(2019年6月)によると、2018年の国内レンタルオフィスやコワーキングスペースのサテライトオフィスは887拠点。2020年の東京オリンピック開催に向けた新たな大型商用ビルの開設に伴い、拠点数はさらに拡大すると予測している。

 また、法人向け不動産サービス会社CBRE日本本社が発表した「コワーキングオフィス──新たな働き方のプラットフォーム」(2018年9月)によれば、2018年9月時点で東京都内のコワーキング市場規模は、346拠点で6.6万坪。東京23区の賃貸オフィス全体の面積の1.0%に過ぎないものの、賃貸オフィス成約面積に対するコワーキングオフィス開設面積比率は2018年前半で7.9%に達しており、その存在は大きくなりつつあるという。

 こうしたコワーキングオフィスは、交通の利便性が高く、多くの人が集まりやすい都心部に設けられることが多い。ところが、最近、かつて「ベッドタウン」と呼ばれた郊外の都市にもコワーキングオフィスが設けられることが増えている。

 かつて、東京のベッドタウンの典型とされてきた東京都町田市。多摩地域随一の商業地でもあり、小田急線やJR横浜線が走り、大学も複数存在しているため若者も多い。今まで、住宅地あるいは商業地として発展してきたエリアだ。

 小田急線を利用すれば、新宿駅に約30分(平日の日中)。JR横浜線を利用すれば、新横浜駅に約20分、八王子駅に約25分で着くという利便性に恵まれている。また、隣接する相模原市には、多くの企業の製造拠点や研究拠点が立地する。

 近年、この町田駅周辺にコワーキングオフィスが次々と誕生し、新しい動きを生み出しつつある。

 町田駅周辺には、2013年4月に「コワーキングスペース町田」、2017年4月に「COMMUNE BASE マチノワ」と、コワーキングオフィスが開業し、さまざまな活動が行われてきた。

 さらに、2019年7月に開業したのが「BUSO AGORA(武相アゴラ)」だ。ここは民間事業として東京都から認定を受けた157坪(約520平米)のワーキングスペースで、創業支援や新規事業を支援する地域密着型の施設となっている。

 BUSO AGORAは、商店や飲食店が並ぶ町田中央通りに2019年5月に完成した商業ビル「アエタ町田」の4階にあり、小田急・JR町田駅から数分の人通りが多い絶好の場所に位置している。

 運営しているのは、町田市を中心に40近いレストランやバーなどを経営している株式会社キープ・ウィルダイニングだ。2018年12月には、「本を3冊寄贈してくれた方にはコーヒー1杯が無料、5冊寄贈してくれた方にはホステルの宿泊料金が20%オフになる」というユニークなシステムを導入した「LIBRARY & HOSTEL 武相庵」を開業した。

「人口の多い町田ですから、起業志望者や在宅ワーカーも多く、こうしたシェアオフィスやコワーキングの需要は相当あると思います。地域活性化のためには、様々な業種の人が集まって、日常的に情報交換する場が大切だと思います」(キープウィル・ダイニンググループ専務の長谷部信樹氏)

 BUSO AGORAは、時間制で利用できるスペースや会議室などだけではなく、1か月制のフリースペース、1名利用の固定ブース、さらに2名以上が利用できる個室オフィスもある。

「オープンスペース部分は、イベントなども開催できるよう、机やイスなどを移動させるとホールのように利用できます。また、カウンターはセルフサービスでアルコール類も飲んでいただけます」(長谷部氏)

 同ビル内には、カウンターバーや屋根裏部屋のような仮眠スペースなどが設けられ、さらに同社が経営するレストランやバーなどもあるため、訪問客との会食などにも利用できる。

 実際にBUSO AGORAを利用している人たちからは、こんな声が聞かれた。

「最近では若い方で起業する人も増えているようです。ここには、様々な業種の方が集まるので情報収集にも役立ちます」(TK経営コンサルティング代表の岸浩文氏)

「求人をするにしても、オシャレで開かれたオフィスは重要になっています。ネット環境が整っていれば、どこでも仕事ができるといっても、自宅だけに閉じこもっていると煮詰まってしまうので、こうした場所があると助かります」(ITソリューションなどを手掛けるドライビングフォースの代表取締役・田村麻紀氏)

 住宅地や商業地のイメージが強かった町田は、インターネットの普及とテレワークの進展によって、新たな価値を生み出しつつあるのだ。

 町田に限らず、東京都心部に近い郊外でも、かつて都内に通勤していた団塊世代がすでに定年し、高齢化の波は否応なく押し寄せてきている。このまま街の衰退を止めるためには、新しい価値を付加する必要があるのだ。

「年代を越えて、町田や相模原の様々な経営者や起業家、フリーランスが集まることで、新たなビジネスが展開できますし、それは地元経済の活性化にも必ずつながるはずです」(前出・田村氏)

 BUSO AGORAのようなオシャレで新しい形のインキュベーション施設は、ビジネスマンの柔軟な働き方を促進させると同時に、地域経済の活性化を担う可能性も秘めている。

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