路面電車が次世代型として復活 渋滞緩和と高齢化対策に期待

全国で路面電車の復活が検討 都市再生の救世主として見直される機運が高まる

記事まとめ

  • 1964年の東京五輪をきっかけに交通渋滞が社会問題となり、路面電車は次々と廃止された
  • しかし21世紀になり横浜市や静岡市、京都市など全国で路面電車の復活が検討されている
  • 宇都宮市は、次世代型路面電車であるLRTを計画しており、2019年までに開業を目指す

路面電車が次世代型として復活 渋滞緩和と高齢化対策に期待

路面電車が次世代型として復活 渋滞緩和と高齢化対策に期待

宇都宮駅東口に設置されたLRT看板

 かつては全国で庶民の足として親しまれていた路面電車。1964年の東京五輪をきっかけにモータリゼーションがすすむと交通渋滞が社会問題となり、利用者が減っていた路面電車は次々と廃止された。ところが21世紀になって、横浜市や静岡市、京都市など全国で路面電車の復活が検討されている。ライターの小川裕夫氏が、次世代型路面電車であるLRT(Light rail transit、ライトレールトランジット)計画が具体的に進む宇都宮市のケースを中心にリポートする。

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 6月10日は、6=路、10=電or面の語呂合わせで、路面電車の日に制定されている。最盛期には67都市で運行されていた路面電車は、マイカーの普及とともに路線を縮小・廃止されていった。昭和レトロと遺産扱いされる路面電車だが、その一方で都市再生の救世主・時代に適した公共交通と見直される機運も高まっている。

 そのきっかけのひとつになったのが、2006(平成18)年に富山県富山市で開業した富山ライトレールの富山港線だ。富山港線は富山駅北―岩瀬浜を結ぶ全長7.6キロメートルのミニ路線だが、もともとはJR西日本が運行していた。JR時代の富山港線は利用者が少ないことから運行本数も極めて少なく、運行本数が少なくて不便であるために利用者が少ないという負のスパイラルに陥っていた。

 富山市はきたる少子高齢化社会を見据え、中心市街地に都市機能を集約化させるコンパクトシティ政策に取り組んでいた。その一環として、JR西日本が持て余していた富山港線を譲り受け、路面電車に転換。新たに富山ライトレールとして出発させた。

 今般、注目が集まる路面電車は、一昔前のチンチン電車ではない。スタイリッシュな車両やIT技術によってスムーズな運行を実現したLRT(Light Rail Transit)と呼ばれる次世代型路面電車だ。

 富山ライトレールは昼の時間帯でも1時間に4本、15分間隔で運行しており、沿線住民の利便性は向上。また、路面電車のため、電停と車両との間に段差はなく、高齢者や障害者、ベビーカーを押すパパ・ママでも乗り降りしやすい。そうした要因が重なって、1日の利用者はJR西日本時代の約3400人から約4400人にまで増加している。

 富山ライトレールによって路面電車の果たす役割が見直されるようになり、ほかの都市でも路面電車を延伸・新設する計画が議論されるようになった。なかでも、LRT計画でトップランナーを走るのが、栃木県宇都宮市だ。

「宇都宮市でLRT計画が浮上したのは、10年以上も前に遡ります。宇都宮は市内に大きな工業団地がいくつか立地しています。特に清原工業団地はキヤノンやカルビー、中外製薬、日本たばこ産業(JT)といった大企業が集積し、そこで働く人たちの数は約1万人もいます。清原工業団地は企業の拠点となる研究所や事業所もあり、取引で訪れるビジネスマンも多くいます。朝夕は、工業団地に通勤する人たちの自動車が溢れて市内の道路で慢性的な渋滞が起きていましたから、渋滞を解消すると同時にそうした取引先の人たちの交通の便も確保する必要がありました。また、自動車交通に頼らない公共交通の再構築といった視点から、宇都宮市はLRTを計画することになったのです」と話すのは、宇都宮市建設部LRT整備室の担当者。

 宇都宮市のライトレール計画は、富山同様に高齢化社会を迎えて自動車を運転できない市民が増えることを見越して公共交通を整備することが含まれている。バスでも代替できそうに思えるが、後述のように繁華街の路線バス本数は飽和状態。また、LRTに比べてバスの輸送量は少ないため、道路が渋滞してしまう恐れもある。ライトレールの新型車両は超低床タイプが主流のため、乗客の負担が少ないユニバーサルデザインの乗り物であることもLRTのメリットとして挙げられる。

 庁内で調査・検討が始まったLRT計画は、2013(平成25)年に基本方針がまとめられた。基本方針には、JR宇都宮駅から宇都宮市の東端にあるテクノポリスセンターと呼ばれるニュータウンまでの約12キロメートルの計画だった。

 宇都宮市から基本方針が公表されると、隣町の芳賀町が即座にLRT事業への参画を表明する。芳賀町は宇都宮市の東隣に隣接する自治体で、芳賀工業団地や芳賀・高根沢工業団地といった大規模な工業団地を抱えている。2つの工業団地には、本田技研工業を筆頭に関連会社や子会社が102社操業しており、そこで働く従業員数は約2万2000人にも及ぶ。

 LRTの終点となる宇都宮市境から、これら2つの工業団地までは3キロメートルほどしか離れていない。建設費用と需要・渋滞解消・CO2削減とを照らし合わせると、芳賀町まで含めて一体的にLRTを建設した方がプラスになると判断。新たに芳賀町まで延伸する計画が盛り込まれることになった。

 宇都宮市・芳賀町といった2市町に加え、地元のバス事業者や銀行、財界の支援も得て2015(平成27)年に宇都宮市は第3セクターの宇都宮ライトレール株式会社を発足させた。こうして、宇都宮のLRT計画は本格化していく。需要予測や1時間あたり6本といった運行体制、車両基地の位置、1編成が国内最大級の全長約30メートルの3連車体を18編成導入することなども決定した。

「市ではJR宇都宮駅から市の東端にあるテクノポリスセンターまでの約15キロメートルまでを優先整備区間と位置づけ、2019年の開業に向けて急ピッチで作業を進めています。また、同計画は単にLRTを整備するのではなく、市全体の公共交通を再構築する意味もあります。ベルモール前(仮称)や清原管理センター前(仮称)といった電停では、バスの乗り継ぎがスムーズにできるトランジットセンター化することが決まっています。トランジットセンターが設置されることにより、宇都宮郊外からバスに乗って市中心部まで来ることができるようになり、市中心部からはLRTで移動することができるようになります。トランジットセンターの設置でLRTと交通アクセスは向上することになります。LRTの整備は、沿線住民だけではなく市全体にメリットがある計画なのです」(同)

 2019年までに開業を目指す宇都宮市だが、そこで計画は完結しない。早くもその後も見据えて動き始めている。宇都宮市の繁華街は、JR宇都宮駅の西から東武宇都宮駅の間にある。このエリアには1日約2000本ものバスが運行されており、こちらも慢性的な渋滞が問題になっている。

 そのため、2019年に駅東側のLRTを開業させた後は、宇都宮駅を横断して駅西側にもLRTを走らせる計画が進められている。

「駅西側の計画はLRTがどこを走るのかといったルートも決定していない段階で、まだ調査中です。また、JR宇都宮駅を挟んで東西にLRTを建設することになるのですが、東西のLRTをつなげるには宇都宮駅を高架で越えなければなりません。宇都宮駅は地上に在来線、3階に東北新幹線が走る構造になっているので、2階部分にLRTを通すことを想定しています」(同)

 宇都宮駅の2階フロアを行き来するLRT構想は、宇都宮市だけで決められる話ではない。JR東日本とも協議が必要になる。そのため、駅西側のLRT構想が実現するには、まだ時間がかかるだろう。その間にも、宇都宮市は次なる手を模索中だ。担当者は、まだ漠然とした夢のような話と断ったうえで、こんな将来ビジョンを描く。

「LRTの軌間は1067ミリメートルに決めたのですが、これはLRTをいずれは1067ミリメートル軌間の東武やJRにも乗り入れできるようにとの考えからです。JRとも東武とも、そうした話し合いはまだしていませんが、今から軌間を揃えておかないと今後の対応ができなくなります。そうした将来的なことも含めて、宇都宮のLRT計画は綿密に進められてきたのです」

 フランスのストラスブールでは、かつて路面電車が市民の足として大活躍していた。自動車の普及とともに衰退し、1960年に全廃された。ところが、1994年に改めて路面電車を復活させたことで、モータリゼーションによって空洞化していた中心市街地に郊外から人を集め活気を取り戻している。路面電車の復活による街の活性化は、世界各国から注目された。もちろん宇都宮市も参考にしている。

 宇都宮市に触発されるように、全国各地の市町村でもLRTの検討が始まっている。昭和の遺物として次々と廃止された路面電車の巻き返しが始まろうとしている。

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