大下英治氏が長期政権の秘密を探る「安倍は透明なカリスマ」

大下英治氏が長期政権の秘密を探る「安倍は透明なカリスマ」

歴代政権と何が違うのか 共同通信社

 安倍政権は2012年12月の再登板以来、4年6か月という長期政権となった。閣僚らの失言・不祥事などは相変わらずあり、自身が追及される森友問題などもあるが、支持率は概ね50~60%台を堅持してきた。「長期安定政権」はなぜ実現できたのか。“一強”安倍政権の理由を、『安倍官邸「権力」の正体』を上梓した作家の大下英治氏が分析する。

 * * *
 安倍晋三は、2007年に自身の健康不安で政権を投げ出してから5年後に総理として再登板を果たした。第一次政権を含めた在任日数は、平成では小泉純一郎を抜いて1位、戦後で見ても佐藤栄作、吉田茂に次ぐ3位と抜群の安定感を誇っている。

 現在の安倍政権の安定感は、第一次の失敗から学んだことにあると私は見る。通常、自ら政権を投げ出した総理に再登板の機会が与えられることはまず考えられない。それが許されたのは、安倍晋三の人柄によるところが大きい。

 しかし振り返れば、その人の良さが、第一次政権では仇になった。

 2006年に総理となると、郵政民営化法案の造反議員11人を復党させたことが議論を呼んだ。その後、本間正明税調会長(当時)の『愛人と官舎で同棲』のスクープ記事を皮切りに、閣僚の事務所費問題や「女性は子供を産む機械」などの失言問題が頻発。自らが任命した閣僚らを守ろうとして早急に幕引きすることができず、支持率を大幅に落とす結果となった。

 政策では憲法改正に向けた国民投票法案や教育改革などにも力を注いだが、老獪さに欠けていた。人の良さを発揮して各方面に気を回しすぎた結果、ストレスをため込み、自身の健康問題と相まって辞任せざるを得なくなったのだ。

 母の洋子が、晋三を「政策は岸信介、性格は安倍晋太郎」と評しているのが言い得て妙だ。確かに父・晋太郎は政治的な“寝技”ができない人で、政治家にしては珍しいほど善良な人だった。そうした父譲りの人の良さを持ったまま、祖父・岸信介のような保守色が強い政策を実現しようとしたところに無理があった。

 第二次政権以降の安倍晋三はどうか。アベノミクスを唱えながら、同時に安保関連法案を強行採決させたようなところは、まさに岸信介的だ。岸は安保闘争のとき、大野伴睦らに政権を譲ると念書を書いて取り込んでおきながら、それを反故にするという、“政治的悪党性”のある政治家だった。父の善良さをもったまま、祖父の政治的悪党性を身に付けた。いまや晋三は、岸のクローンになったのだ。

◆総理官邸のかつてない「結束」

 人事の面でも第一次政権の失敗が活かされている。総理秘書官の筆頭格である政務担当秘書官に、経済産業省のキャリア官僚、今井尚哉を登用した。今井は第一次政権で事務秘書官を務めた経験がある。安倍にとって今井の再起用は正解だった。総理のスケジュール管理を担う今井は、例えば昼に苦手な人物と会ったら、夜には気の置けない人と会えるよう面会人の差配をするなど、実にきめ細かく安倍を支えている。

 閣僚人事も同様だ。中でも官房長官・菅義偉は安倍にとって大きな存在といえる。就任後、数十回の外遊が可能なのも菅が官邸を守ってくれているからだろう。菅にはやや安全運転すぎるという声もあるが、官僚やマスコミからの受けもいい。

 安倍は菅と今井に3人の官房副長官を加えた計6名で、毎朝20分程度、「正副官房長官会議」を行い、一日の動きのすり合わせを行っている。官邸の意思疎通の綿密さが政権安定の要諦であるとの考えからだ。総理の考えを共有し、また総理も各人からの進言に耳を傾ける。官邸内が役割分担され、結束力が生まれている。こんなことはそれまでになかったことだ。

 加えて、前回の反省を踏まえて不祥事を起こした閣僚はすぐに見切るようにもなった。政治資金規正法違反問題を起こした当時経産相の小渕優子や、最近では前復興相・今村雅弘の「東北でよかった」発言による辞任の例がある。3日で終わるものを下手に守ろうとしたら2週間長引く。だから、「切るときはスパッと切る」という、菅や今井の思惑が奏功している。

 官僚人事では、政治主導を掲げて「内閣人事局」を立ち上げたのも大きな出来事だ。これにより、各省庁の審議官級以上の約600人の幹部人事を決められることになった。内閣が課長クラスまでの人事を掌握するから、官僚全体が官邸のほうを向くようになる。もちろん、それが行き過ぎる懸念もあるため賛否両論あるが、行政の縦割りの弊害が是正され、官僚が国益を見据えるようになるメリットはあるだろう。

◆脆弱な野党に“支えられている”

 ただし、「安倍一強」の弊害がないわけではない。内閣に権限が集中し、党内も締め付けが厳しいから無風状態で、官僚も含めみな総理のほうを向いている。“反安倍”は石破茂ぐらいだ。こうした状況は長期的に見れば、安倍政権のためにはならない。北朝鮮や中国など海外の脅威、野党の脆弱さという外的要因に「支えられている」ともいえる。

 政権の強さというのは、もっと自由にもみ合い、切磋琢磨したうえで発揮されるものでなければならない。その意味で、次に何か大きな出来事が起こった時、適切な対応ができるかどうかは、例えば「20年までに9条改正」とぶち上げた改憲問題の議論の進め方ではかることができるだろう。

 果たして、安倍晋三はカリスマだろうか。かつての田中角栄、小泉純一郎、小沢一郎らに類するカリスマ性はないように見える。それでも、これだけの長期政権を築いた。いわば、「透明なカリスマ」だ。私たちは平成時代の最後に、安倍晋三という新時代のカリスマを見ているのかもしれない。(文中敬称略)

●おおした・えいじ/1944年広島県生まれ。広島大学文学部卒業。『週刊文春』記者を経て1983年独立。政治、経済、芸能、闇社会まで幅広く取材・執筆活動を続けている。『日本共産党の深層』(イースト新書)、『安倍官邸「権力」の正体』(角川新書)ほか著書多数。

※SAPIO2017年7月号

関連記事(外部サイト)