高齢化で需要増見込まれる食の移動販売、ドローンにも期待

高齢化で需要増見込まれる食の移動販売、ドローンにも期待

ドローンを使った宅配サービスに期待がかかる

 徒歩圏に店がなく、毎日の暮らしに必要な生鮮食料品を買うことが困難な地域を「フードデザート」(食の砂漠地帯)と呼ぶ。日本でこの“砂漠”が姿を現したのは、今から10年ほど前のことだった。

 過疎化と景気悪化で地方の中小スーパーが続々と撤退。地域内で食料品を買うことができない「買い物難民」が大量に発生した。買い物難民を救おうと奮闘する事業者は全国にいる。その先駆けが、全国36都道府県で移動販売サービスを展開する『とくし丸』である。2012年に同社を起業した代表取締役の住友達也さんが語る。

「そもそもは徳島県の過疎地に住む両親が買い物難民化したことが起業アイディアのきっかけです。無論、社会貢献目的だけでなく、ビジネスとしても大きな可能性を感じたから始めました」

『とくし丸』では、本部と契約した販売員(ドライバー)が提携先の地元スーパーから調達した商品を自前の軽トラックに積み込み、地域住人の軒先まで訪ねて販売する。

 最大の特徴は、客との玄関先の会話にある。ドライバーは対象エリアの民家を訪問して、「買い物に困っていませんか」と声をかける。その人の好みやニーズを探り、求めに応じて週2回訪問する。いわば“御用聞き”に近い。

「われわれは“売れればいい”のではなくお客さんに喜んでもらうことが大切なので“これ買いませんか”などのセールストークは禁止です。食品が余って捨てられることがないよう、お客さんが欲しいと言っても“売り止め”することもあります」(住友さん)

 昨今は配偶者に先立たれた単身の高齢者が増えるなか、商店が訪問を繰り返すことの意義は大きい。

「ずっと顔を合わせているとお客さんの異変にも気づくようになるんです。話の最中にろれつが回らなくなって救急車を呼んだら、脳梗塞の前兆だったケースとかね。逆に、訪問したら家の中で倒れていて、救急車を呼んだけど間に合わなかった悲しい事例もありました」(住友さん)

『とくし丸』は、住民の異常を察知したら行政に連絡する「見守り協定」を多くの自治体と交わしている。

「本来は地域の民生委員などが見守り役ですが、住人の中には見守りを嫌がるかたがいます。また、地域で孤立している人ほど見守り役を嫌う傾向があります。でも、ぼくらはモノを売ることが本来の目的なので、嫌がられない。日常業務がそのまま見守り活動になるんです」(住友さん)

 移動中、真夏の炎天下で倒れていた高齢者を発見したり、顧客の自宅で振り込め詐欺の電話に遭遇して通報したこともあるという。高齢化社会で移動販売の果たす役割はますます拡大すると住友さんは語る。

「団塊の世代の多くが70才前後なので、移動販売ビジネスは今後15年間伸び続けるでしょう。今『とくし丸』は全国で210台ほど走っていますが、1000台までは増えると見ています。買い物難民は全国どこでも避けられない問題ですからね」

◆山あいの過疎地でドローンを使った宅配サービスも

 移動販売以外でも、買い物難民救済の網の目は広がる。目立つのは「宅配」の強化である。イトーヨーカドーやイオンなど大手スーパーはネットスーパーを充実させ、最短3時間といった短時間で商品を配送する。

 コンビニ最大手のセブン-イレブンは、買い物難民に対して商品を自宅に配達するサービスに力を入れるほか、郊外の団地内に出店した店舗では電球交換や水道トラブル対処などの生活支援サービスに軸を置く。

 同社の元会長、鈴木敏文氏は、2000年代初頭から口癖のようにこう言っていたという。

「これからのコンビニは御用聞きの時代になる」

 国が力を入れるのは、小型無人機の「ドローン」。国土交通省は長野県の山あいの過疎地でドローンを使った宅配サービスの実験を始めた。

 同様の実験は他の自治体でも行われており、愛媛県今治市ではネット通販大手の楽天がドローンによる配送実験に乗り出している。

 他にも買い物代行や乗り合いタクシーの充実などが進むが、前出の杉田教授は「問題解決には市民の協力が欠かせない」と指摘する。

「移動販売もその他のサービスも、高齢者が利用するだけでは経営的になかなか成り立たず、財政難の自治体がお金をかけるのも難しい。必要なのは、市民が安さや便利さばかり追求せず、高齢者をおもんぱかって地域における買い物行動を見直すことです。

 例えば5回に1度は地域の商店や移動販売を利用するなど、ちょっとした心がけを持つようにすれば、それが地域全体の発展に結びつき、ひいては買い物難民を救うことにつながると思います」

 すべては私たち1人1人の行動にかかっている。

※女性セブン2017年6月22日号

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