安倍一強 メルクマールは「小沢一郎の敗北」

『安倍一強』の状況を生んだ要因に、09年の『国策捜査』による小沢一郎氏の退場劇か

記事まとめ

  • 『安倍一強』を生んだ要因に、09年の『国策捜査』による小沢一郎氏の退場があるという
  • かつて小沢氏は『政権交代可能な2大政党制』の実現を掲げて自民党政権に挑み2度倒した
  • その小沢氏が政治の中央舞台から追われ、国民の野党への期待も失われていったという

安倍一強 メルクマールは「小沢一郎の敗北」

安倍一強 メルクマールは「小沢一郎の敗北」

安倍首相の「一強時代」はいつから?

「それは印象操作だ」──安倍晋三・首相が批判を封じ込める時の“魔法の呪文”だ。今国会では16回も連発した。その一言で世論はコロリと変わり、メディアは「政権を攻撃する側」に批判を向け、スキャンダルが続いても支持率は下がらない。今や国民は首相の言葉こそが印象操作だと気づいても、「おかしい」とは考えない。

 そうした異形の政治手法が出現したきっかけは、2009年の「国策捜査」ではなかったか。西松建設のダミー政治団体からの政治献金問題で小沢一郎事務所を大々的に強制捜査し、秘書を逮捕・起訴。いわゆる「陸山会事件」である。検察とメディアの印象操作で国民は野党第一党党首を犯罪者と思い込み、小沢氏は政治の中心から排除された。

 第1次政権時代に自らを朦朧状態にまで追い込んだ小沢氏の退場劇は、野党時代の安倍氏に成功体験として刻まれたはずだ。逆に言えば、「小沢の敗北」がなければ、現在の「安倍一強」も、“魔法の呪文”も誕生しなかったかもしれない。

 安倍政権になってこの国の「権力のかたち」は大きく変わった。加計学園の獣医学部認可をめぐる政権の対応を告発した前川喜平・前文部科学事務次官が語った言葉が、その「空気」を言い表わしている。

「みんな志を持って国家公務員になり、世の中の全体の奉仕者、公僕として仕事がしたいと思っている。しかし最近は、一部の権力者の下僕になることを強いられることがあるような気がする」

 かつて永田町は自民党内も与野党間も「数は力」の論理で動いていた。仲間を集め、国会で議論を戦わせ、選挙で国民の支持をより多く集めることこそが権力闘争だった。

 だが、今や権力者が批判勢力を排除することで国民の「空気」を支配し、戦わずして勝利する。政治をコントロールしていた霞が関の官僚さえ、総理の意向を忖度する行政を行なうようになった。

 そうして生まれたのが「安倍一強」と呼ばれる異形の政権だ。日本政治の研究者、カレル・ヴァン・ウォルフレン氏(アムステルダム大学教授)は、国家権力が国民に偽りを事実と信じ込ませ、「偽りの現実が蔓延する社会」が広がったのは2009年の一連の小沢事件捜査からであり、それ以来、「偽りの事実から国民は目覚めていない」と指摘している(本誌・週刊ポスト前号「安倍官邸の『空気の研究』」)。

 自民党を飛び出して四半世紀、小沢氏は「政権交代可能な2大政党制」を実現させることを掲げて自民党政権に挑み、2度倒した。その小沢氏が検察という国家権力の捜査で政治の中央舞台から追われると、ほどなく2大政党による政治体制は崩壊し、国民の野党への期待も失われたまま回復していない。

 第1次政権を小沢氏が率いる民主党に「数の力」で倒された安倍首相は、「空気の力」を用いて小沢氏に復讐を果たしたといえるのではないか。そしてその小沢氏は現在、わずか6人の少数野党の党首となり、衆参409人を誇る安倍氏にとって恐るるに足りない勢力になった。

 そう見ると、「安倍一強」を作り出すメルクマールは「小沢の敗北」ではなかったか。そう問うと、小沢氏はしばし考え、「振り返ると僕の失敗は、あの時に自ら身を退いてしまったことだったかもしれない」と口にした。

※週刊ポスト2017年6月23日号

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