「意識低い彫り師」が未成年まで食い物に 健康トラブルも

テキサス州でタトゥー入れた男性が細菌に感染し死亡 日本でもインチキ彫り師トラブル

記事まとめ

  • テキサス州の男性がタトゥーを入れた5日後に海水浴へ出かけて細菌に感染し死亡した
  • この死亡事例は、今後、日本でも同じように起きる可能性があるとライターは指摘
  • 日本でも「和彫りバブル」の中で、多くのインチキ彫り師が誕生したという

「意識低い彫り師」が未成年まで食い物に 健康トラブルも

「意識低い彫り師」が未成年まで食い物に 健康トラブルも

最低限の衛生すら保てない彫り師に頼んでトラブルになることも

 アメリカテキサス州の男性が、タトゥーを入れた5日後に海水浴へ出かけて細菌に感染、その3日後に敗血症を起こして死亡した症例報告が6月上旬に報道され、話題を集めている。この死亡事例は、今後、日本でも同じように起きる可能性がある。ライターの森鷹久氏が、日本の刺青やタトゥーの現状をレポートする。

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 電車には脱毛サロンやエステの中吊り広告が増え始め、肌の露出が増える季節の到来を感じさせる。美容業界にとってはまさに”書き入れ時”なのだろうが、同様に「見せたい客」をこの時期に一気に取り込もうとする人々がいる。神奈川県横浜市のマンションの一室を尋ねると──。

「4月あたりから、客は一気に増えます。夏休み直前がピークで、秋になると日がな一日ボーっとして、イラストを描いてるだけの日もある。この商売、季節に左右されるんです」

 取材に答えてくれたのは、タトゥーアーティストのMさん(38)。ヤクザ映画の登場人物に施されているような鮮やかな「和彫り」から、ドクロや薔薇といったデザインが用いられる海外風の「洋彫り」まで、10代の終わりに師匠に弟子入りしてから「彫り物」経験歴は20年になる。その間、刺青やタトゥーを取り巻く環境の変化を肌で感じてきたMさん。世間からの偏見が「確かにある」と認める一方で、そう見られても仕方ないような業界の側面についても吐露する。

「数年前、髪を短く刈り込み、日焼け肌にブランド物のぴっちりしたTシャツとパンツでキメるスタイルが流行しましたよね? あれは”金融系”とか”オラオラ系”と呼ばれる不良好みのファッションだったんですが、彼らはアルマーニやプラダを愛用するのに、和彫りが大好き。二十歳そこそこの幼顔の若者たちが押し寄せてきて、胸から腕に彫ってくれ、七分(肘下)や九分(手首)まで入れてくれと……。うちでは、事前に面談をして施術するかを決めていましたので半分以上断ったのです。しかし……」

 Mさんによれば、そんな「和彫りバブル」の中で、多くのインチキ彫り師が誕生した。ニーズさえあれば、相手が未成年だろうが彫り物を施し、わずかな小銭稼ぎに明け暮れる。そのような意識の低い彫り師達と関われば、当然痛い目を見るのは客だ。

「とにかく連中は技術もモラルもない。絵が下手で仕上がりも雑で汚い。ヤンキーが”鉛筆彫り”や”イタズラ彫り”をしますが、あれに毛が生えた程度か、もっとタチが悪い。せっかく大金を支払い、痛い思いをして彫り物しても、はずかしくて人様に見せられるような彫り物でなく、隠して過ごさなければならない」

 現在22歳の土木作業員・タツヤも、数年前の和彫りブームに触発され、成人する直前に刺青を入れた。

「夏の江ノ島海岸(神奈川県藤沢市)に行くと、みんな刺青入れてるっすよ。入ってない方が少ないくらい。海行く前にどうしても入れたくて、いろんな彫り師のところを回ったがダメで。彫り師になりたてのオナ中(同じ中学)の先輩がいたんで頼んだんすけど……」

 ところがこの”先輩彫り師”こそ、Mさんが指摘する意識が低い「インチキ彫り師」であった。右胸から右手首にかけて彫り物をする約束で、最初に40万円を支払った。三回目の施術で縁取り、いわゆる「筋彫り」を終えて帰宅したタツヤは、肌が焼けるような痛みを感じた。軟膏を塗るなどしてなんとかやり過ごしていたが、5回目の施術で「色入れ」に入るタイミングで、さらに代金を要求された。

「結局俺らはカモだったんすね。いきなり40万ではここまで、と彫ってくれなくなった。完成させたいなら、あと100万はかかると。そんな金ないっすから、口論して店を飛び出しました」

 悲劇はそれだけではない。中途半端に掘られた刺青が滲み出してきたのはその一週間後。焼けるような痛みはひどくなる一方で、皮がむけ出したかと思うと、肩から胸にかけての皮膚がただれた。痛みとともに高熱にも苦しめられたタツヤはある晩、ついに耐えきれなくなり救急車を呼んだのだった。

「施術がめちゃくちゃで、彫った部分から雑菌が入りショック状態になっちゃったんです。あのクソ彫り師に言っても取り合ってくれず、警察に言ってもダメ。もうほんと、最悪でした」

 タツヤの右胸はやけど痕のような状態で、肩から腕にかけてはマジックが滲んだような線がいびつに残る。結局、思慮の浅い客の自業自得にも思えるが、前出のM氏は危機感を募らせる。

「和彫りブームで増えたインチキ彫り師達は、衛生観念も非常に低く、連中が施した彫り物のせいで肝炎などの病気になる人が続出しました。インチキ彫り師の施術を”修正してくれ”とやってくる客には、病院で検査するよう勧めています。さらにはニワカ彫り師達が、タトゥーマシンなどの刺青道具を若い子達に高値で販売したりして、中学生同士で彫り物をしていたなんてこともあります」

 刺青やタトゥーを巡っての議論が繰り返される中、日本においてもその存在が前ほど”異端”ではなくなってきたかに思えるが、「若気の至り」では済まされない現実があることも知っておいて損はないはずだ。

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