10万円の女性専用墓 誕生契機は所持金2700円の人の遺骨

10万円の女性専用墓 誕生契機は所持金2700円の人の遺骨

「スノードロップ」の女性専用永代供養墓

 お墓の問題は、「どこに入るか」ともう1つ、「誰と入るか」ということも根深い悩みだ。 なかには、夫や、夫の両親とは、死んだ後まで一緒は嫌という人もいるだろう。あるいは一緒に入る伴侶がいないケースもある。今回は、女性たちだけで墓に入ることを選択したケースを紹介する。ノンフィクションライターの井上理津子氏がNPO法人「スノードロップ」の女性共同墓「なでしこ」を取材した。

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 最寄りは、東京から約70kmの関越道・東松山インターチェンジ。先日、八王子の東京里山墓苑に行ったとき「本当に東京?」と思える景色だったが、ここもすごい。埼玉県鳩山町の真言宗・妙光寺内にある女性専用の共同墓「なでしこ」がある。

 妙光寺は「日本昔話」に出てくるような農村風景の中にあった。高台の墓地から、雑木林が広がる里山がパノラマの眺めだ。関東では数少ないモミの木も群生し、「熊井の森」と呼ばれているという。

 「この景色、私も毎日見ても飽きないです」と、スノードロップ代表の布川智恵子さん(61才)が言う。

「なでしこ」には、黄色い芯に白い花びらを付けたカモミールが咲き誇り、優しい香りが漂っていた。面積は、約4m×3.5m。中央に立つ墓標は、薄ピンクと白のタイルで囲んだガラスに、なでしこの花びらなどが描かれたモニュメントだ。

「それね、太陽の光が当たると、ガラスの部分がきらきらと輝くんですよ。リッツカールトンにも作品を提供されている、大好きなグラスアーティスト野口真里さんに作ってもらったんです。無謀にも『予算これだけしかないんですが、どうしても野口さんにお願いしたいんです』って、頼み込んで」

 納骨スペースは、カモミールの間に「白」「星」「虹」などの文字が入った石蓋の下。遺骨は、スタッフやボランティアお手製のさらしの袋に入れて、埋葬するそうだ。参拝場所に、約40人の名前が刻まれた石のプレートがある。すでに埋葬されているのは約半数で、生きている契約者たちも名を連ねているのだ。

「なぜ女性専用?って聞かれても、あったらいいなと思ったとしか答えられなくて(笑い)」

 使用料は、年に2回の合同納骨なら7万6000円、個別の納骨なら8万6000円。他に必要なのは、生前予約料5000円、名前の刻字(希望者のみ)の代金1万2000円だけなので、合計約10万円。これまで取材してきた共同墓、永代供養墓より、飛び抜けて安い。

「もともと、お墓で経済的に困っているかたの一助になりたいと、10年前に共同墓を建墓したのが始まりなので」と布川さん。どういうことですか?

「私、30年以上前からお坊さんを葬儀社に紹介する仕事をしていて、関東近郊の約130か寺のご住職とおつきあいがあるんです。13年前、葬儀社の人から『2700円しか持っていない生活保護の人の遺骨を預かっている。(自分のポケットマネーから)1万円出すので、1万円で埋葬してくれるお墓を探して』と頼まれ、力になりたいと思ったのが、お墓に触手を伸ばしたきっかけです」

 布川さんは、つきあいのあるお寺を片っ端から回り、なんと500万円もの寄付を集めた。長年の布川さんの仕事ぶりとお人柄があってこそだろうが、「見えない力が応援してくれたとしか思えない」。

◆「夫に伝えるタイミングを計っているところです」

 2007年、鳩山町の北隣、嵐山町の金泉寺というお寺の境内に共同墓を建て、その生活保護の人を埋葬。ホームページで5万円で納骨を受け入れると告知すると、遺骨を持った人や、自分自身が入りたいという人たちが引きも切らなかった(すでに満杯で、受付は終了)。

 金泉寺、続いてここ妙光寺にも、1人用(使用料25万円~)、2人用(同45万円~)、ペットと共に入る方式(37万5000円~)などの樹木葬墓地を設け、そして「なでしこ」も…と展開してきたという。

「安価を第一義にしてきましたが、今は外車で納骨に来るかたもいらっしゃる。特に3.11後は『形のあるものは壊れるから、お墓に造形物は要らない』と思って選ぶ人が増えたような気がします」

 お墓はやはり時流を表すなあ。と思いながら聞いていたが、「家庭があり、家のお墓があっても、『なでしこ』を契約する人もいます」とも聞き、少なからず驚く。

 茨城県に住む専業主婦、岸由香里さん(61才・仮名)もその1人。「40代から、1人でお墓に入りたいと思っていた」と言う。夫は長男で、先祖代々のお墓を継ぐことになる。

「私も、当然そのお墓に入ると思われているんでしょうが、義父母とは前々からウマが合わない。死んでまで一緒なのは嫌なんです」

 息子に打ち明けると、「面倒くさい人だなあ」と言いながらもネット検索してくれ、「ここ、良さそうだよ」とスノードロップを見つけてくれた。

「で、見に行ったら、景色が最高でしょ。手放しで気に入り、しかも女性専用のお墓が、2か月間生活費を切り詰めたら捻出できる10万円弱であるなんて。飛びついて、契約しました」

 それは夫さんも了解済みなんですか?

「スノードロップさんには『後でトラブったらいけないから、契約は家族の承諾を得てからにしてください』と口すっぱく言われたんですが、私は自己責任で、夫に内緒で買いました。あ~これでいつでも死ねる。カモミールの下に眠ると思うと、いずれ死ぬことが怖くなくなった。今、夫に伝えるタイミングを計っているところです」

 岸さんも女子校育ちで、元保育士だそうだ。静岡県に住む峰田恭子さん(64才・仮名)と、若き日の経歴が重なるのは、偶然でないのかも。そんな気がした。

 とすると、女性専用のお墓を潜在的に好む人たちは、もしかすると多いのだろうか。もっとも、我が身を振り返ると、私がその昔通った短大も“女子ワールド”だったが、だからといって女性環境への特段の希望はない。気が合う、合わないは、性差より個人差だと思う。でも、満員電車に乗るとき、女性専用車両があればほっとするのは確かだ…なんてことも考える。

文・写真/井上理津子(ノンフィクションライター)

※女性セブン2017年6月29日・7月6日号

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