前向きに明るい気持ちで墓選ぶ時代はもう始まっている

前向きに明るい気持ちで墓選ぶ時代はもう始まっている

白い小さな袋を破っ、中に入った粉骨を海へ…

 さまざまな選択肢がある時代、どのように最期を葬られたいかも多岐にわたる。土に還るのが樹木葬だとしたら、“海洋散骨”は、海に還るというもの。ノンフィクションライターの井上理津子さんが向かったのは東京湾だ。お墓をどうしよう――そういった悩みを抱えた人たちの間で近年注目を集めるクルージング船による海洋散骨に同乗した井上さんがリポートする。

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「菩提寺の住職に叱られることを覚悟で『母の遺骨はお墓に入れずに、散骨をしようと思っているんですが』とお話ししたんです。そしたら、『この頃は、お墓をいろいろに捉えるかたがいらっしゃるので、それも一つの選択肢だと思います。よく考えた上で散骨という結論を出されたのでしょうから、お考えを尊重します』とおっしゃってくださったんです」

 こう話すのは、東京都足立区に住む片岡留美さん(52才・仮名)だ。

 品川区にある菩提寺とは、いわゆる寺檀関係が長く、片岡家のお墓は、境内墓地の一角に江戸時代から建っている。納骨されているのは「曾祖父母からなのか、もっと前の代からなのか、わからない」そうだ。

「25~26年前に亡くなった祖父母、母からすると舅姑を、母がひとりで介護したんです。当時、長男の嫁として当たり前のことだったでしょうし、仲が悪かったわけでもありませんが、『お墓までは失礼したいわ』という気持ちだったと思います。10年ほど前から『私は(お墓に入らなくて)いいわ。消えてなくなりたいわ』と、軽い感じで話していました」

 と、留美さんは言う。海への散骨を希望したのは、カルチャー教室でフラダンスを習っていたからだろうとも。

 父(82才)が「本人の希望を尊重してあげたい」とまず賛成。叔母たちに「散骨希望」を伝えると、「実は私も嫁ぎ先のお墓に入りたくないのよ」と異口同音に。「嫁ぎ先のお墓に入りたい女なんて、いないんじゃない」と言う向きまでいた。母の長兄(80代後半)は「年長なだけに、反対されるだろう」と危惧したが、「拍子抜けなくらい、いちばん賛成してくれました」。

 こうして親戚一同の賛同を得た上で「最後の難関」とお寺に出向いたところ、先述のとおり、たやすく理解が示されたのだ。留美さんは、「チャーター散骨プラン」を選び、親戚ら約20人が乗船した。

「クルーザーの中で、母が好きだったハワイアン音楽を流し、思い出コーナーに若かった頃から順に写真を飾りました。妹の小学生の子供たちにも印象に残るだろうし、思い出深い時間になりました。今後? 羽田空港から旅行に行く時、少し早めの時間に行って、空港の屋上デッキで手を合わせるつもりです」(留美さん)                  

 改葬、室内墓、永代供養墓、樹木葬、女性専用墓、そして海洋散骨と巡ってきたが、形態に関わらず、亡き人あるいは自分の「落ち着き先」を決めた人たちは充足感を持っていた。

 とはいえ、選択肢が広がったために、決めるのはかえって難しいと感じる向きもあるだろう。ところが、エンディングデザイン研究所代表で、社会学博士の井上治代さんは事もなげに、こう語った。

「どの形態もアリなのです。家族形態も価値観も多様化が進む今、100年後を考えてお墓を選ぶのは不可能。亡くなった人のお墓は、この先、自分が生きている間、手を合わせて満足感を持てれば充分だし、自分のお墓は『脱家』『個人化』も視野に入れ、自分らしく選んでいいと思います」

 真面目な人ほど、代々のお墓の行く末や、子供たちに先々迷惑をかけまいとして、「お墓、どうしよう」と悩んでいる。「自分らしく」とはつまり、自分がどうしたいか。悩みからではなく、前向きに明るい気持ちでお墓を選ぶ時代はもう始まっている。

※女性セブン2017年7月13日号

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