落選運動 米韓など海外ではすでに市民権を得ている

落選運動 米韓など海外ではすでに市民権を得ている

自民党は都議選大敗から立ち直れるのか?

 全国の有権者は、都議選で歴史が変わる印象的な光景を目の当たりにした。都民ファーストの名もなき新人が次々にトップ当選し、固い地盤を持っていた自民党のベテラン都議が軒並み落選、「結党以来の記録的大惨敗」(同党選対幹部)を喫した。だが、真の勝者は小池知事でも都民ファーストでも、ましてや共産党でもなかった。

 選挙の最前線に立った自民党都連の幹部が絞り出すように語った実感がそのことを示している。

「投票日の午後の出口調査で気づいたが、本当の敵は都民ファーストではなかった。自民党と共産党が最後の1議席を競り合っていた選挙区で、共産党が嫌いなはずの保守層や無党派層が、自民候補を落とすためだけに共産候補に投票するという現象が起きていた」

◆特定の候補を落とす自由がある

 今回の都議選では日本で最初の本格的な「落選運動」が展開され、「自民党候補を落選させる」ために1票を投じた有権者がいたのである。それが大きなうねりとなって1人区ばかりか、中選挙区の2人区や3人区、4人区でも自民党候補が全滅する現象を起こした。選挙制度論に詳しい上協博之・神戸学院大学教授が語る。

「特定の候補を政治家に相応しくないと訴え、当選させないようにする行為、つまり『落選運動』は選挙運動とみなされないため、公選法に抵触しません。告示前は特定の候補を当選させる選挙運動(事前運動)は禁じられていますが、落選運動は可。いつでも始められるし年齢制限もない。選挙期間中も有権者がメールで投票を促すことは認められていないが、落選を促すメールは禁じられていません。

 注意が必要なのは候補者が2人しかいない場合。一方を落選させる活動が、他方の候補を当選させるための選挙運動とみなされる可能性はあります」

 特定の候補を落とす活動は、ある程度の自由が許されていることになる。落選運動は海外ではすでに市民権を得ている。

 韓国では2000年総選挙で大規模に行なわれ、学生や460の市民団体が「総選挙市民連帯」を組織して政党を問わず、腐敗政治家や職務怠慢、選挙不正を起こした86人の「落選させるべき政治家」をリストアップして対立候補への投票を呼び掛け、59人を落選させた。米国でも、2012年の共和党の大統領予備選挙で保守系団体(ティーパーティー)が共和党穏健派のロムニー候補の指名に猛反対する運動を展開。その他、大物議員らも落選運動によって大打撃を受けている。

 日本でも、「神の国解散」と呼ばれた森内閣の2000年総選挙で「市民連帯・波21」が結成されて落選政治家リストが公表された。2015年の安倍政権による安保法強行採決後にも、翌年の参院選に向けてネットに『安保法案戦犯リスト』が掲示されたことがあるが、運動は盛り上がらなかった。

 それが都議選では安倍政権の驕りに怒った有権者の間で自然発生的に広がり、衝撃的な結果を生んだ。国民は「落選運動」という強大な破壊力を持つ武器の存在に改めて気づいた。

 時の政権が強力で、既存の野党は民意を汲み上げる受け皿たり得ず、選挙で健全な民主主義が機能していない状況では、落選運動は有権者が合法的に政権に鉄槌を下す唯一の効果的な手段となる。有権者による民主主義政治の新しい方法論と言ってもいいだろう。

 実は、自民党は衆院291議席、参院で単独過半数という圧倒的勢力を持つが、2014年衆院選でも、2016年参院選でも、自民党の得票は有権者全体の4分の1にも満たない。「安倍一強」は有権者の半数近くが「投票したい政党がない」と棄権し、自民党への批判票が行き場を失って分散していることに支えられている。

 そうした実態をよく知る安倍政権は都議選の落選運動が国政選挙に連鎖し、批判票がひとつにまとまることを最も怖れている。

 国政選挙4連勝の実績を武器に解散・総選挙をちらつかせて野党を恫喝するのが大好きな首相が、野党の臨時国会召集要求を拒否し、前川喜平・前文科省次官の参考人質疑からも欧州歴訪によって逃げ、内閣改造で疑惑幕引きを急いでいるのがその証拠だろう。

 都議選終盤、応援演説に立った安倍首相は「安倍やめろ」コールが飛ぶと、「こんな人たちに負けるわけにはいかない!」と感情的になって反応した。同じく応援演説で差別発言をしたことをメディアに指摘された二階幹事長は逆ギレし、「言葉ひとつ間違えたらすぐにいろんな話になる。私らを落とすものなら落としてみろ」と言い放った。

「一強状態」の自分たちは絶対に倒されない──これが彼らの本音なのだ。

※週刊ポスト2017年7月21・28日号

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