西武鉄道 女性視点で開発した新型車輌が看板列車になるまで

西武鉄道 女性視点で開発した新型車輌が看板列車になるまで

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 年度が新しくなるタイミングにあわせて、心機一転を測るのは新入学や新社会人だけではない。ダイヤ改正をおこなう鉄道会社も同じだ。とかく男性の意見ばかりが反映されがちな鉄道運営に、女性の目線を意識的に取り入れてきた西武鉄道は、ダイヤ改正でさらにその路線をすすめる。ユニークな丸みを帯びた先頭車両を始め、見たことがないと言われた001系「Laview(ラビュー)」開発やスマイルトレインの取り組みなどについて、ライターの小川裕夫氏がレポートする。

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 ダイヤ改正は、鉄道ファンにとって一大イベントでもある。ダイヤ改正により、新たな鉄道車両が登場したり、新駅が開業したりするからだ。特に、大幅にダイヤが改正される3月と9月は落ち着かない。

 例年と同じく、鉄道各社は今年3月もダイヤを改正する。今春のダイヤ改正の目玉は、何と言っても常磐線の全線復旧に関連した動きだろう。新型コロナウイルスの影響により、復旧イベントの取り止めが相次いで発表されているが、それでも常磐線が全線復旧を果たすことに沿線自治体は大きな期待を寄せる。特に、茨城県・福島県にとって常磐線は経済・観光面での影響力が大きく、全線復旧は都市の活性化につながる。

 また、1971年に開業した西日暮里駅以来となる山手線新駅の高輪ゲートウェイ駅の開業といった大きな話題もある。

 今春のダイヤ改正で見逃せないトピックは、ほかにもある。そのひとつが、西武鉄道池袋線を走る全特急が、001系「Laview(ラビュー)」へ切り替えられることだ。

 東京・池袋駅と新宿駅をターミナルにする西武鉄道(西武)は、東京の多摩地方や埼玉県の所沢・川越・秩父といった都市を結ぶ。これまで西武は地味なイメージが強かった。西武といえば人気球団・西武ライオンズの活躍の方がむしろ目立つぐらいで、それだけに鉄道会社としても沿線外の人たちに訴求できる"何か"が必要だった。

 西武が沿線外から誘客するために、それまで何もしてこなかったわけではない。西武は1969年に西武秩父駅まで延伸開業。その際、秩父方面への観光需要を取り込むために特急列車「レッドアロー」号の運行を開始している。「レッドアロー」号により秩父は観光地として人気を高めた。

 そして、1993年には2代目の「ニューレッドアロー」号が登場。「ニューレッドアロー」号は、長らく西武の看板列車として活躍した。

 昨年、西武は特急列車「レッドアロー」号の運行開始50周年という節目を迎えた。それと同時に、新型特急001系「Laview」を新登場させている。

「Laview」は、これまでの鉄道業界の常識を覆す斬新な外観デザインの特急車両で、その開発コンセプトは"いままでになかった、まったく新しい特急列車をつくろう"というものだった。

 デザインを担当したのは、建築界のノーベル賞とも形容されるプリツカー賞を2010年に受賞した建築家の妹島和世さんだ。

 これまでの鉄道車両は事故に耐えられるための強度を保持すること、火災発生を想定して不燃性を高めるといった安全性の観点から、見た目は後回しにされてきた。なにより、トンネルや駅舎などの寸法とも合わせなければならず、橋梁や線路に負荷をかけないためにもサイズや重量にも制約があった。

 そのため、鉄道車両のデザインには自由度が少なく、どうしても似たような外観にならざるを得なかった。しかも武骨かつ無機質。メカ的な魅力から男性が惹きつけられることはあっても、女性ウケすることは少なかった。

 また、車両デザインを担当するデザイナーは、男性ばかり。そのため、男性がかっこいいと感じるようなデザインが主流になっていた。鉄道車両というハード面に関しては、明らかに男性中心の世界だった。

 建築家として世界で実力を認められている妹島さんを"女性"建築家と、性別で区別するのは大変失礼だが、それでも、やはり鉄道車両の分野で"女性"の建築家・デザイナーが活躍することは皆無で、ゆえに妹島さんの活躍は鉄道の新時代を予感させるものだった。

 西武特急「Laview」のデザインを手がけた妹島さんだが、西武が新型特急のデザイナーに妹島さんを起用したのは、単なる話題づくりではなく、偶然の産物でもない。

「西武では2008年から運行を開始した30000系という車両があります。同車両は、その見た目から“スマイルトレイン”の愛称で親しまれていますが、開発段階から女性の意見を参考にしてきました」と話すのは、西武鉄道広報部の担当者だ。

 従来、新型車両の製作は、鉄道事業者の車両部と車両メーカーによる打ち合わせを経て、具現化されていく。特急車両は各社のシンボルになるため、外観デザインも各社が力を込める。

 一方、通勤用車両は輸送効率やエネルギー効率、また製造費の観点から以前の車両を踏襲するような形で開発は進められる。そのため、外観の細部に違いはあっても、大きく変更されることはほとんどない。

 スマイルトレインの開発では、車両製作の部署のみならず幅広い部署から女性の意見を集め、それを開発に活かした。スマイルトレインは丸みを帯びた“かわいい”デザイン。本来、鉄道車両に“かわいい”といった要素はまったく必要ない。むしろ余計な概念といえるかもしれない。

“かわいい”という概念は、 感性によるものだから言語化することは難しい。あえて表現するなら、丸みを帯びたエクステリア、温かみと落ち着きのある室内空間およびインテリアへの気遣い、親しみが沸くような配色といった部分になるだろうか。そうした“かわいい”が女性視点によって新たに加えられた。

「2017年から運行を開始した40000系は、“スマイルトレイン”の流れを汲む車両です。こちらも女性の意見を十分に活かして開発が進められました」(西武鉄道広報部担当者)

 西武が“スマイルトレイン”の開発において、女性の意見を参考にした背景には、それまでの西武にまとわりついていた負のイメージを払拭するという意味合いもあった。2004年、有価証券報告書虚偽報告事件が発覚し、西武は上場廃止に追い込まれていたからだ。

 新生・西武をアピールする狙いから、"スマイルトレイン"が誕生することになったが、それは"スマイルトレイン"後も受け継がれている。新たな特急車両の開発にあたり、西武は社内の女性からも意見を募った。

 そうした議論の中から、新たな特急車両のデザイナーは固定概念を覆すために「これまで車両デザインの経験がない人」が条件として浮上する。そこから妹島さんに白羽の矢が立つ。

 デザインにあたって、妹島さんは特急の速さを強調しなかった。都市でも自然でも溶け込む、公園のようなデザインにするべく、あれこれと試行錯誤を重ねた。そして、苦難の末に、「Laview」は誕生した。

 その度肝を抜くデザインも手伝って、発表直後から鉄道ファンや西武沿線住民の間で大きな話題になった。そして、実際に走り始めるとたちまち西武の看板車両として絶大な人気を獲得する。

 こうして鉄道業界に金字塔を打ち立てた妹島さんだが、鉄道車両のみならず駅舎というハード面では、一足早く実績を残している。2011年、常磐線の日立駅がリニューアルを果たした。新生・日立駅のザインは各所で絶賛されるほど美しいが、妹島さんは日立駅のデザイン監修者を務めた。

 昨今、鉄道業界の女性進出は目覚ましい。女性運転士や女性車掌、女性鉄道ファンも決して珍しくない。

 しかし、それは接客をはじめとするサービス面、いわゆるソフトの部分だった。これからは車両や駅舎を担当するハード面でも、女性が活躍するシーンが増えるだろう。

 これまで鉄道業界の女性進出は、周回遅れと言われてきた。西武池袋線の全特急が「Laview」へと切り替わることは、鉄道業界で女性活躍の第二幕が上がることを示唆している。

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